ギルドカードのひみつ☆
ほうけてしまった。
「キッ、ティ……?」
「あ……あんてぃ、さぁん……!」
あの、キッティが。
いつも笑顔で、明るくて、
たまに受付で居眠りして、
うさ丸をすぐ突っついて、
みんなの冒険を支えてる、
あの、キッティが、泣いている。
キキキキキィン────!
ソファに座っているキッティに駆け寄り、
座席に膝を立て、目線の高さを合わせる。
「ど、したの。どしたのよ、キッティ……?」
「アンティさん……アンティさん、ごめんなさい! 私、わたしのせぃで……!」
目をつむり、涙を滲ませるキッティ。
私の手を握り、触れるそれは、
小刻みに震えている。
只事ではないと感じさせるには、充分だ。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
「いや、その、キッティ……!」
「……キッティよ。まだ、アンティには、説明していない」
「…………う」
「……ギルマス、何なの、何なのよ、一体! 何があったら、こんな、押し潰れるみたいに泣くのよ! ふざけんじゃないわよ!」
「ち、ちがうの。違うんです、アンティさん……私の、私のミスだから……」
「キ、キッティ……?」
「……とにかく座れ、話す」
「うう……」
「え、う……はい」
ゆっくりと、キッティの手を離し、
ギルマスの正面の1人がけソファに座る。
左にいるキッティが気になる。
こんな、泣いているなんて……。
少し、キッと、ギルマスを見てしまう。
「……ききます。話して」
「ああ……」
揃えた膝の上に、金色のグローブを、握る。
「アンティ。最初に、少し聴きにくいことから、きく」
「はい?」
「お前は、強さを隠したい」
「…………」
「それを、俺も、わかっている。その上で、きく」
「……今回の件に、関係するんですね?」
「うむ……」
「…………」
横にいる、俯いたまま静かに泣く、
キッティを見る。
……こんな泣き顔を吹っ飛ばせるなら、
いくつかの質問には、答えてやる。
この2人は、私の特殊性を、ある程度、
理解している。秘密も守ってくれるだろう。
……問題ないわ。
「……なんなりと」
「……すまん。今までに、お前が倒した魔物のレベル、もしくは、個体名を知りたい」
「──! …………」
「……大まかなもの、例えば、"ゼルゼウルフ"などの、種族名でもよい。教えては貰えぬだろうか」
「……」
考える。
いや、考える必要がないか。
この場面で、黙秘はできない。
「……"バーグベア"。"ゼルゼウルフ"。"シガラグレイル"。"レッドハイオーク"。"ファイア・エレメント"……そんなとこ」
「! ……"シガラグレイル"?」
「……やれやれ……そいつら、ソロで狩ったのか……?」
「う……いや……大体は……」
ある個体名に、
俯いて、泣いていたキッティでさえ、
顔を上げて、静かに驚く。
「……フォレストウルフの"母体"、シガラグレイル。非常に厄介な魔物だ……。発見報告があれば、即日討伐隊を組む所だが……大きかったか?」
「40メルくらいあった」
「──!! アンティさん、それ、ひとりで……?」
「……ばかやろうが。デカすぎる。普通、死ぬぞ……いや、他の魔物も……」
「それはいい。それで、何がわかるの」
「……う、うむ……」
ギルマスが、腕を組み、何やら考えている。
結論は、すぐに出たようだ。
「ダメだな……そこまで大物が記録されているなら、作り直すには、登録が必要だ……」
「です、よね……」
「? ??」
……作り直す?
……"何"を?
わからない。
急かしたい気持ちがあるが、
どうせ、この後すぐ、話してくれるだろう。
ギルマスの言葉を待った。
「……アンティ。お前、"G.to.G"という言葉……まぁ、知らんだろうな」
「? "ジー・トゥー・ジー"? ……初めてききます」
「……だろうな。"G.to.G"は、ひと昔前の、冒険者ランクを表す"スラング"だ」
「スラング……? 冒険者だけにわかる、"俗語"ということですか?」
「その解釈でいい。アンティ、冒険者ランクの種類は、いくつあると思う?」
「は、はい? えーっと、一ヶ月前までは、Sから、Fまで、だと思ってました……でも、今の私は、最下位の"ランクG"扱いだから……」
机の上にある用紙に、側のペンで、書き込む。
・Sランク
・Aランク
・Bランク
・Cランク
・Dランク
・Eランク
・Fランク
・Gランク
「……こうです。8種類、ですよね?」
「……ひと昔前の、学生レベルの教本は、これであっている」
「??」
どういう意味だろう。
本職の、冒険者だけが知る、
隠されたランクがあるのだろうか?
「アンティ。冒険者ランクは、厳密に言うと、10種類あるんだ」
「──ええっ!?」
は、はじめて、きいた。
ど、どういう、わけ方なの……!?
「ま、まさか、Gの下に、"H"とか、"I"とかあるの?」
「何故、下にいく……最下位ランクは"G"だ」
「ということは……」
「……そうだ、アンティ。"Sランク"は、さらに、3つのランクに分けられるのだ。"S"とは、"スタイル"の略だからな」
「ええっ!? "スーパー"とかじゃなくて!?」
「ああ。その戦闘スタイルや、力量、経験、心。そんな要素を判断し、"S"ランクの中でも、さらに、仕分けをするのだ。……例えば、とても強い"S"ランクレベルの力を持っている冒険者でも、精神面が情緒不安定ならば、ランクの低いSランクとなる。……まぁ、古いしきたりが、残っているだけとも言える。今の時代、Sランクなんざ、そうそう、いないからな」
「3つの、"S"ランク仕分け……」
「ああ……紙をかせ」
「あ、はい」
ヒゲイドさんが、追加で、書きつける。
・Gsランク
・Ssランク
・Bsランク
・Aランク
・Bランク
・Cランク
・Dランク
・Eランク
・Fランク
・Gランク
「……じー、えす、えす、えす?」
「……ちがう。
"ゴールドスタイル"、
"シルバースタイル"、
"ブロンズスタイル"。そう読む」
「なるほど……あ! "G.to.G"って!」
「そうだ。"ゴールドスタイル"から、"ランクG"まで。ランクの幅を表すスラングだ」
「そっか! じゃあ、昔の冒険者は、"お前のジートゥージー、実は、大したことないんだろ?"みたいな会話をしてたってことね!」
「ああ、そうだな……」
あ……。
なんかテンション上がっちゃったけども。
こ、この話、キッティが泣いてたのと、
何の関係があるのよ……。
「……アンティ、これを見ろ」
「はい?」
しゅっ。
ヒゲイドさんが、胸ポケットから、
何か、平べったいものを出し、
机に置く。
「? 何ですか? これ」
「「…………」」
白い、カード……
これ、ギルドカード?
ミルクみたいな、綺麗な白だ。
あ、文字がパンチングされてる。
……"G"。
「"G"って、穴が空いてますね?」
「そりゃあそうだ。ランク"G"のギルドカードプレートだからな」
「あ、そか! そりゃそうですよね…………ん?」
「「…………」」
「え? あれ?」
ランクG?
この、白いギルドカードが?
……私のランクと、一緒??
あれ?
私のギルドカード、こんな、
こんな白くないよ?
シャキィィン────!
乳装甲の裏から、
自分のギルドカードを、引き抜く。
うん……やっぱ、白くない。
アンティーク調の、黄金色。
『 G 』
『 ANTI QURULU 』
『 LETTER RIDER 』
……うん、私の名前も職業も、
書いてある。ってか、パンチングされてる。
左手に、純白の、Gカード。
右手に、黄金の、Gカード。
「……ヒゲイドさん、色、違うよぅ?」
「ああ、そうだな」
「…………うぅ……」
え、え?
いや、そうだなって……。
「えと……私のギルドカード、白くないよ?」
「ああ。"ゴールドスタイル"のギルドカードだからな」
「……へ?」
「"ゴールドスタイル"のギルドカードだからな」
「……へ?」
「……それは、"ゴールドスタイル"の、ギルドカードだ」
「……………………ハァ?」
………ハァ?
………………ハァ?
…………………………ハァ???
ち─────────────────ん……。
「……アンティ、俺の確認不足、監督不行きとどきだ」
「は、ハ、は、は、は。ま、さ、か、あぁ……」
「……アンティ。俺たちはな……」
──やばい、超、耳ふさぎたい。
「お前の冒険者ランクを、」
──やばい、お腹いたい。
「"最下位ランク"と間違えて、"最高位ランク"として、登録したんだ」
「─────────────────ッ!!!」
「び、びゃわわわわわわわぁぁあん───!!!」
ま、
ま、
ま、
ま
じ
か
ぁ
ぁ
ぁ
ぁ
あ
あ
あ
あ
あ
あ
ッ
ッ
ッ
!!
(*´∀`*)知ってた☆