もりかけるはぐるま さーしーえー
────きゅるるるるるるるる!
森の中を、流れていく。
さっきほど、振動はない。
今、足で回っている歯車は、あまり歯が出ていない。
いくつかの小さな歯車を仲介して、私の足に固定されている。
今日の夕方、屋根に登った時、歯車を階段に見立てて足場にした。歯車を少し踏むと、グニグニと弾力があった。
歯車は空間に凍りついたように固定されるのではない。多分、空気をゴムみたいに、固めているのではないか。
その仮定は、今、証明されたと思う。
今の私の足には、車輪の振動を抑える機構があるのだ。
『────分析完了。』
衝撃吸収率:82パセルテルジ。
サスペンション機構の改善を提案。』
「あのねぇ! さすぺんしょんって何よ! まかせる!」
『────レディ。
ショックアブソーブ効果に起因する。
コイル機構を拡張します。』
カィン!
と音がして、足の小さな歯車が追加される。
手首くらいの直径の5つの歯車が、筒状に並ぶ。
その先に、手の平くらいの歯車。衝撃は皆無。
地面に接地するたびに、縮んだり、伸びたりしている。
……すごい。
こんなに早く、森の中を駆けれるんだ。
他の魔法じゃ、できない事だと思う。
火の魔法でも、
水の魔法でも、
土の魔法でも。
風の魔法は、ちょっとイケそうかな?
目の前にでっかい岩がある。大きな斜面だ。
登れそうかな?
足に組み上げられたバネを利用して、両足で飛び上がる。
「っ! っとい!」
岩に着地。流れるように、岩の表面をすべり、空中へ。
地面までは遠い。ちょっと怖いね。
横の木に、左手と左足の歯車輪で組み付く。
ぎゅいいいいいいいん!
左回りに、木の幹を軸に回転しながら、地面の方へ。
「とっ!」
地面直前。体を捻り、右足で木の幹を蹴る。
回転の勢いは死なず、横向きに身体は投げ出される。
先の地面に、小さな岩肌が見える。
それを右手の歯車輪で殴り上体を起こす。
両足の回転が、流れる地面に、ゆっくり接地する。
「は、はは、は。」
なんだこれ。あきれるね。
どうしてこうなった。すごいな。
森の中はデコボコだ。落ち葉もある。
地面は腐ってるし、木の根はあるし、岩の先は落差がひどい。
人は、ここを早く移動できない。
だから、どの地方でも街道が整備されるのだ。
ところがどっこい、私は何だ。
どうして、すぐ前まで魔無しだった私が、こんな、森を吹っ飛ぶみたいに突っ切っているんだろう。
私の中の常識が崩壊していく。
木は加速装置。
岩は発射台。
高段差はショートカット。
地面は歯車の歯が、よく食い込む。
止まる意味がわからない。
目の前には、亀裂。
もう崖と言っていいかも。
横には苔にまみれた岩の壁。
迷わず肩から、壁に突っ込む。
普通なら激突して、落ちて死ぬよね。
でも、心配ご無用。
二の腕と太ももの回転が、壁を捉えて、前に押し出す。
チラッと見たが、崖というか、10メルくらいの谷だった。
飛び越す。岩の破片は、各所の黄金に弾かれる。
両手両足は、
唸りをあげ、
駆ける歯車。
腕と腿には、
黄金の輪を、
連ねた装甲。
触れたものは、全て、後ろに送られる。
『────分析完了。
オーダー規格の基準到達を確認。
標準デバイスとして登録可能です。
──────固有名を登録しますか?』
まーたあんた、難しい言葉を……。
「しらん! クラウン! あんたテキトーに考えて!」
『────受諾確認。合数値化演算中……。
────移動デバイス: 距離滑り が設定されました。』
「距離滑り!? ははは! まんまじゃない! クラウンあんた、センスないわね!」
距離滑り、って。ダサい技名にも程があるわ!
『────クラウンギアより不服申告。』
「きひひ、まぁそれでいいわ、拗ねない拗ねない!」
これなら、すぐに、あそこまで行ける。
あ、やばい、かなり燃え広がっている。
「距離は」
『────分析完了。火災中心域まで340メルトルテ。
326、312、298……。』
もうすぐだ。
ユータ達も近いだろうが、
バーグベアも炎の近くだろう。
危険だがここまで来た。
それに、この速さなら、先に見つけさえすれば、逃げ帰れる可能性が高い。
私は腹を括り、相棒に指示をだした。
「クラウン、スピード抑えて。ヨロイの回転停止、音を抑える。2人の捜索を開始する」
『────レディ。
──────検索野を展開します。』