無垢なる洗礼 さーしーえー
帰ってきたで、ドニオス。
しゃ、いくか──!
「お、おい、止まれ! な、何だ!? お前、ク、クルルカンかっ……?」
「──ええっ!? 私ィ!?」
「にょや?」
「……あなた、この街の冒険者じゃ、ありませんの……?」
街門で、門番さんに、止められました。
この街、まだ私の事、知らない人いたのか……
職質、久々だなぁ……ホロり。
うう……この金ピカ装備で、市場とか飲食店とか、
けっこう出没してるんだけどなぁ……?
「お! クルルカンの嬢ちゃんじゃねぇか! 何だ、どっか配達だったのかぃ?」
「ぅああ、こんちゃ──────ス!!!!」
も、もう片方の門番さんが、
明るく声をかけてくれた。
助かったわぁあ──────!!
ドニオスを出る時、何度か見た顔だわッ!
シュタッ、と片手をあげて、挨拶しといた。
「は、"配達"……? お、おいスパナム! この嬢ちゃんの事、知ってるのか?」
「ああ! こいつぁ、ドニオスギルドに住んでいる"郵送配達職"さ!」
「はぁあ!? "郵送配達職"!? ギルドに住んでるぅ!?」
ちょ、ツバ飛ばすなや……
いや、避けたけども。
私の"反射速度"、なめんなよ?
「ああ、"役たたずみ台"に住んでるんだぜ?」
「「役たたずみ台!?」」
な、なぜに初見門番さんと、
ヒキ姉の声が、ハモんのよ……
……おい、なんだ、その目は。
……や、やめろ、私を見るな!
私は役たたずじゃ、なぃい!
「……ギルドの真上に、本当に、こんなファンキーなヤツが住んでんのかぁ……?」
「はっはっはっは!! ギルマス公認らしいぜ!」
「マジか……すげぇ時代になったなぁ……」
「あの──、通っていスか────?」
門を抜け、街の中に入っても、
まだまだ、ドニオスの街の洗礼は続く……。
「あっ! クルルカン!」
「はーい、ども──」
「あっ!? クルルちゃん!!」
「ぁいこんちゃ──」
「おおぅ、金ピカちゃん、バー串食べてくかぃ?」
「今日はやめとくね──」
「おいクルルカン! 頭にラビットついてんぞぉ!」
「つけてんのよ──」
「おいクルルカン! 相変わらず金ピカで眩しいぜ!」
「目ぇ閉じろ──」
「あっ、くるるかんだッ!」
「こら、こども。アンタ、学校どした──」
「そうりつきねんびで、おやすみ!」
「……うわぁ、それマジすか……」
途中で会った、顔見知りの少年に、
えらい情報を、教えてもらった。
「創立記念日……街中、こどもだらけって、事じゃないのよぉ……」
「? なにか、マズイ事があるんですの?」
ヒキ姉……何言ってんのよ。
私が今、あなたの目の前で、
どんなカッコウしてんのか、
忘れた訳じゃないでしょうね……。
──ドドドドド…………!!
き、き、き
きぃぃたぁぁぁああ────!!!
『────脅威認定。"反射速度"、再度発動します。』
ドニオスの街の、平和な日常。
その中で時間は、重さを持つ。
皆が笑顔を浮かべる、
こんな平和な街中で、
しかし、だからこそ、
脅威は、潜んでいる。
温かな光指す世界に、
数々の、光の数だけ、
影は、必ず産まれる。
世界は、だからこそ、
皆平等に、不平等で、
当たり前のように、残酷だ────。
────現在、たくさんの子供達が、
私に、飛びかかってきております。
こいつら、ホンッット、バッッカじゃないの?
これ、私がちょっと、横に避けたら、
確ッ実に、顔から地面に突っ込むわよ……。
なぜその可能性を考えんのだ、アホタレめぇ!!
うわ、女の子もいるじゃないの!!
すごぃな……どうやって顔の高さまで飛んだ。
あ、ダメだわ。
いくら高速で動けるスキルを持っていても、
いくらドラゴンで出来たヨロイを着てても、
この攻撃は、避けるわけには、いかないわ……!!
「ギャアアアアア─────!!!」
「にょきっとなぁぁあ────!!!」
「あああアンティ、うさ丸ぅぅ──────!!?」
実用言語表現辞典(出版ギルド)
【 子供アタック 】
読み方:こどもアタック
一定の人気を持つ人物が、集団の児童に揉みくちゃにされること。もしくはその様。「子供アタック」は「無垢なる洗礼」とも呼ばれ、法の定めに則らない子供の攻撃を指す語。多人数で飛びつく、身体に登る、服を脱がす等の行動を加えることを指す場合が多い。
ヒキ姉に肩を貸してもらって、
何とかフラフラ、歩いている。
「ううう、ううう────」
「にょにょや……にょにょや……」
「ちょっ、マジ泣きですの? ガン泣きですの?」
だってアンタ……
絶対に、避けられない攻撃を、
心をしずめて受け続けるのよ。
なんの修行だってのよ……。
2回くらい、裸足で仮面、踏まれたわ。
何で靴、ぬぐねん。
あ、登りやすいからか……
いやいや、なんで登るのよ……!
私は公園の遊具じゃなぁい!!!
「……ぷ、くくくく……」
すぐ側で、とても楽しそうな、
ガマンできないような笑い声が、聞こえだす。
「ふふふっ、くくく」
「……あによぅ」
「くふふ、い、いえ……あなたは、この街では、さみしくなる事は、ないでしょうね」
「うん……?」
ヒキ姉が、また変な事を言い出す。
表情を見ると、前を向いて、
妙に嬉しそうな微笑みを浮かべている。
……なんなのよぅ、ヒキ姉。
その後も、
色んな人に手を振られたり、
おじさんから手紙を預かったり、
うさ丸が連れ去られたり、
子どもに足にしがみつかれたり、
……色々あった。
あの白い塔が、近くなってきている。