" / " 〆 さーしーえー
な、んで、だ、ろう……。
冒険者の、大きな鞘を打った瞬間、
ぼくの、木の剣が、くだけた。
いきなりの事で、驚く。
尻もちをついたが、痛みは感じない。
────バラバラだ。
あの剣は、確かにおもちゃの木の剣だけど、
こんなふうに、くだけるほど、柔らかくなんかない……!
「……なんで……」
まぬけに座りながら、ぼくは、放心していた。
「あなたっ────!」
「わ! わぁっ!」
ローブの冒険者が、いきなりぼくに駆け寄った。
フードをはずし、剣を、横の地面に置く。
肌色の、フワフワした髪が広がった。
冒険者の剣士は、女の人だった。
「手のひらを見せなさい!!」
「えっ! えっ?」
「はやくっ──!!」
「は、はいっ!」
女の剣士さんの、あまりの剣幕に、
ぼくは、両手を広げ、手のひらを上に向けた。
ガシッと手を掴まれ、ぼくは、ドギマギする。
「────ケガは、ないようですわね……ハァ」
「えっ、えっと────?」
か、かおが、近いっ!
き、キレイな人だな!
こ、こんな冒険者さんもいるのかっ!
「──お、おい! ユータをはなせ!」
「が、がお────!!」
「にょきっとなぁぁああ!」
な……!
後ろを振り返ると、
アナ、ログ、ラビットの魔物と、
みんな揃っている…………。
ぼ、ぼくが切りかかったイミ、ないじゃんか……。
「はぁ……うさ丸、いいかげん機嫌なおしてください……」
「にょきっとなぁぁぁぁああああ────!!!」
「あれは、じ、冗談ですって……あなたをシチューにするわけ、ないじゃありませんか……」
「え?」
「「ええ?」」
な、なんだ?
何かへんだぞ?
……シチュー?
「ほら、うさ丸、アンティも探しています。帰りましょう!」
「にょきっとなああああ!!!」
「こ、困りましたね…………」
「ね、ねぇ、シチューって……?」
「はい? ……いや、ちょっと、料理の本を読んでおりましてね? うさ丸が側にいたのに、白玉肉の料理のページを読んでいたのは、確かに軽率でしたわ……」
「「「え、ええええええ……」」」
「にょっき! にょっき!!」
ラビットの魔物……うさ丸? は、
確かに怒ってはいるが、な、なんだ?
この剣士さんと、うさ丸……。
なんだか、仲が良さそうに見えるぞ?
アナとログは、それぞれ、構えていた、
木の盾と、木の杖をおろす。
ぼくと同じで、この女剣士さんから、
危険な印象がなくなったからだ。
"うさ丸"は、アナの頭の上で、
女剣士さんを見て、怒っている。
「にょんにょやぁ──!! にょんやにょんや、にょんにょん、にょきっとなぁぁぁぁああああ!!!」
「う、うさ丸……ゆ、許してください、もうしませんから……」
「「…………」」
「あははははは!」
……あんな強そうでキレイな剣士さんが、
ちいさなラビットの魔物に、謝っている……。
「ゆ、ユータ? ちょっとはなれたところで見てたけど、なんで剣がこわれたんだ?」
「あ、いや、それが、ぼくにもわからない……」
「わぁ──……バラバラだね……」
「にょきっと! にょきっとぉ!」
うさ丸が、女剣士さんを指差して、
責めているようだ。
ほ、ホントにラビットとは思えない手だな……。
「な!? うさ丸! この木の剣は、私のせいではありませんよ!? この少年の"スキル"に、木材が耐えられなかったのです!!」
「え!?」
剣士さんの、突然の言葉に声が出る。
「ス、"スキル"って……?」
「な……まさか、今、はじめて使ったのですか……?」
「「??」」
ぼくたち3人は、キョトンとしている。
「"剣技職"の基本剣技スキル、
"スラッシュ"ですわ。あなたが先ほど、使ったのは」
「なッ────!」
ぼくが、"スキル"を、使った……!?
「そ、そんなことが……?」
「……ほんとうに、はじめてですのね。……ふふ」
笑った女剣士さんは、とても可愛いかった。
「う……ぁ……」
「少年よ、名は、ユータと言いましたか?」
「え……はぃ……」
「ユータ。あなたに謝罪を。そして敬意を」
「え、え!?」
しゃざいと、けいい?
いきなりすぎて、よくわからない!
「私はあなたを、乱暴に剣を振り回す、ただの子供だと思っておりました……しかし、違った。ユータ、剣技スキル"スラッシュ"は、"本当に守りたいもの"がなければ、あんな威力は出ません!」
「あ……」
「──見事です、小さき剣士よ! あなたのその、何かを守りたいという気持ちは、間違いなく"本物"だった!」
「────!!」
「その本物の心に、敬意を──!」
カシャ──。
綺麗な女剣士さんは、
剣を肩にかけ、ぼくに会釈した。
この時のぼくは、このポーズの意味が、
よくわかっては、いなかったけど、
とても尊いものだと、感じた。
「ユータ……」
「泣いてるの……?」
アナとログに言われて、
ぼくは、嬉しいと、気づいた。
ぼくはこの時、
ひとつの"ホンモノ"を、
手に入れたんだ────。
「お、なぁんだ、見つかってるじゃないの!」
「「!!」」
「え、あ!」
座ったまま後ろを振り向くと、
路地裏にさし込む逆光の中で、
よく知っている声が聞こえた。
「あ、アンティ! ……はは、なんとか見つけましたわ」
「まったく、ヒヤヒヤさせないでよね? ヒキ姉!」
よ、よかった……。
この剣士さん、お姉ちゃんの知り合いなんだ。
お姉ちゃんの知り合いは、みんな、いい人だ。
この人も、すごく、きっと……。
「……ユータ、あんた……泣いてる?」
「え、あ! ちがうよ姉ちゃん、これはっ」
「…………おい、羊ぃ……」
「あ、アンティ! 誤解ですぅぅ……!!」
この後、女剣士さんは、
うさ丸とアンティお姉ちゃんに怒られ、
ちょっと可哀想だった。
女剣士さんは、ヒキハさんと言うらしい。
お、覚えておこう……!
この後みんなで、お姉ちゃんの食堂で、
遅い、お昼ご飯を食べた。
「にょんむにょんむ……!」
「ま、まだ、たべるんだ……」
「こいつすごいな……」
「ね! にょきちゃん、ブロコロたべる!?」
「アンティ……このシチュー、お肉が入っていません……」
「反、省、なさいっ!!」