" / " ⑥ さーしーえー
風にはためく、
クリーム色のローブから見えた、大きな鞘。
ぼくは、現れた人物を、警戒した。
とても、大きな剣を、持っているからだ。
「け、けんし……"剣技職"……?」
「ゆ、ユータ! あの人、アンお姉ちゃんを、さがしてた人だよ!」
「そうなのかい!?」
「うん! 2日前、ユータがいなかった時に、ウチにきたんだよ! ちがうまちの、"ぼうけんしゃ"だって!」
「! ぼうけんしゃ、だって!?」
クリーム色のローブの人を、改めて、見る。
フードで、顔は見えない。
「────少年たち。"うさ丸"を、差し出してはもらえませぬか?」
優しい声で、そう、問いかけてくる。
「うさマル……? うさ丸だって!? まさか!!」
「にょきっと?」
バッっと、
ぼくは、隣にいる、
小さな白い魔物を見た。
まさか────!
「……あなたは、この"まもの"を、さがしてたのか?」
「──ええ、そうです。よかった。騒ぎになる前に、見つけられて」
「…………!!」
この冒険者の人……まさか、
この魔物を、倒しにきたのか……!?
「さあ、うさ丸、こっちにきなさい──」
「に、にょきっとぉぉ────!」
「ほら……いい子ですから──」
間違いない……!
──捕まえて、倒す気だ!
この、ラビットの魔物は、
確かに危ない魔物もしれない。
あんなふうに、大きくなったり、
すごい跳んだり……
見た目より、とっても、危険なんだ。
でも……でも!!
「ほら、こっちに……」
「にょやや────!!」
「……させない!」
「──え?」
ローブの冒険者が、こちらを向いた。
怖かったけど、しっかりと、見返す。
「このまものは、わたさない──!」
「…………」
「お、おい、ユータ?」
「そ、そうよ! にょきちゃんは、わたさないわ!」
アナも、気づいたみたいだ!
この冒険者にラビットをわたしてしまえば、
もう、会えないかもしれないってことに。
「……なぜです? その魔物は、あなたにとって何なのですか?」
「このまものが、ぼくにとって、なにかって……?」
"なに"……?
この魔物が、ぼくにとって、
何なのか、だって……?
「にょっき……?」
「…………」
……ぼくは。
ぼくは、"偽物の勇者"だ。
こいつは、"魔物"だ。
ぼくは……"本物の勇者"になるために、
本当は、この魔物を、
倒さなければ、いけないのかもしれない。
たぶん、ホントは、それが……正しい。
誰もが……そう言うと思う!
だけど────
「────なかまだ」
ぼくの口から出た言葉は──まったく、逆だった。
「……この"まもの"は、ぼくの、なかまだ!!」
「──なかま?」
目の前の冒険者が、首を傾げる。
傾いたフードが、不気味だ。
でも、言葉にのせた想いは、止まらなかった。
「そうだっ!! この"まもの"は、ぼくの友だちを守ってくれた! ここでっ! 見すてるわけには、いかないっ!!」
「にょきっと……?」
「「ゆ、ユータ……!」」
「…………」
ローブの冒険者が、黙ってこちらを、見る。
「……思う所があるようですが、こちらにも、事情があります。返していただきますよ?」
「────!!」
コッ、コッ──……
こ、こっちに、ゆっくりと、歩いてきた!
この人は、本物の冒険者だ!
威圧感で、じわりと、汗をかく。
ゆっくりと、こちらに近づく冒険者を前に、
ぼくは、考えた。
「ゆ、ユータ! まずいぞ! あいつには、かてっこない!」
「か、かたなくて、いいんだ!」
「な、なんだって?」
「ぼくたちは、子どもだ! たたかえば、たしかにかてない!」
「じゃ、じゃあ、どうするんだ!?」
「にげるんだ!」
「に、にげる?」
ログが、信じられないという表情で、
ぼくの方を見る。
「ログ、あの人は、剣士だ! あの人が"まもの"をたおすのは、人を守るためさ!」
「ユータ、どういうことだい!?」
「ぼくたちは、あの人にとって、守るべき人に入るんだと思う! だから、倒せないと思うんだ!」
「なっ!」
「ログ、ぼくたちは、子どもだ! でも、だからこそ、できることがある!」
「む、むちゃくちゃだ、ユータ! じぶんを"たて"にする気かい!?」
謎の冒険者は、すぐそこまできている。
「そうだ、ログ!! ぼくがおとりになる。アナと、ラビットをつれて、にげてくれ!」
「な、ユータ!!」
「そうしなければ、じかんが、かせげない!」
「そ、それは……!」
「──作戦は、きまりましたか?」
「「──!!!」」
目の前だった。
ぼくは、剣を向ける。
この剣しか、ない。
「……木の、剣、ですか」
さっきより、声がよく聞こえる。
なぜか少し、怒りを含んでいた。
「……あなたは、人に剣を向ける理由を、わかっているのですか?」
「……え?」
「私も、剣士の端くれ。……剣を向ける理由がわからない者に、剣を向けられるのは、思う所があります」
「なっ! なんだと!」
「……あなたは、そんなにバカには見えない。私に勝てないことは、わかっているはずです。あなたは剣を向ける前に、話し合いをするべきだと思います。──それでも何故、剣を向けるのか」
少し。ほんの少しだけ、
声から、怒りを感じた。
遊びでも、おもちゃの剣でも。
人に剣を、向けると言うこと。
子供のぼくには、少しだけだけれど、
この人が怒った理由が、感じられた。
この人は、たぶん、剣を向ける理由に、
────信念が、あるんだ!
──ほくは、怖さに屈せず、言い返した。
「……ぼくは、ぼくは! あそびで、剣をむけてるんじゃない!」
「ほぅ────?」
「ぼくにだって、守りたいものがあるんだ!!」
「…………」
「ユータ……!」
「ログ! 走れ! ラビットを、だれかに見られてもいい! 外まで走るんだ!」
「でも!」
「そいつは、すっごい、とべるだろう? 外にでれば、にげられるさ!」
「…………!」
「ぼくが、じかんをかせいでみせる!」
「……わかった!」
「────ケガはさせたくありませんが、"外に逃がす"というのは、聞き捨てなりませんね……ちっちゃなタンコブは、覚悟してもらいましょうか?」
「「「────!」」」
「にょ、にょきっと!」
ガチン……!
冒険者が、鞘を握った!
剣を、抜く事はしないようだけど、
とても、大きな、本物の、剣だ。
とても、こわい。
「にょきっと……」
「!! ……だいじょうぶさ、悪くて、たんこぶができるだけだ。そんなの、今まで、いっぱい、やってきたさ!」
「……にょあ?」
「──みすてたり、しないよ」
見栄を張り、白い魔物に笑顔で言う。
冒険者は、目の前で、止まっている。
まるで、待ってくれていたみたいだ。
「……そんな剣で、なにをしようというのです」
「ぼくにだって……ニセモノだって! まもらなきゃいけない命が、ある!!」
「……なら、やってみなさい。子供相手に大人げないですが、その強い瞳に免じて、一度だけ、受けてさしあげましょう」
「────!!」
いい。
これで、いい。
ぼくを、ながく、見るんだ。
「──ログ! アナ! 今だ!」
「わ、わかった!」
「いくよ! にょきちゃん!」
「にょやっ!」
フードの冒険者が、ログ達の方を見て、
よそ見した。
────いまだ。
「う、うおオオォォォォ────ッ!!!」
剣をふる途中で、冒険者が、
鞘を持ち上げたのが、わかった。
かまうもんか!
大きな本物の鞘に!
ニセモノの剣が、吸い込まれる!
───────いけぇぇええええぇッ!!
──────────────"カッ!!"
おもちゃの剣が、
少しだけ、光った、気がした。
────バギィィィイインンんんん!!
「「なっ────!?」」
冒険者と、ぼくの、驚きの声が、重なった。
ぼくの木の剣が、
────こなごなに、なっていた。