" / " ②
「…………」
「…………」
「…………わぁ」
「にょんむにょんむ……」
──彼らの仕掛けた罠に、何かが、ひっ掛かった。
白い毛皮におおわれた、丸い身体。
上に伸びる、身体と同じ長さの耳。
小さいが、つぶらで綺麗なお目目。
なぜか、赤いグローブをしている。
ニンジンは、わしづかみに、されていた。
「……な、なんなんだ、こいつ……」
「……見たことない、生きものだな……」
「……白くて丸いね……?」
「にょや! にょやや!」
……パリ、ポッキ!
オレンジ色の野菜が、良い音をたてて、割れる。
どうやらこの生き物は、
ニンジンが、とても好きなようだ。
「にょんむにょんむ……」
「……たべてるね」
「……たべてるな」
「あれっ! おどかすのしっぱいしてない?」
「「あっ!」」
「もぅ────!!」
「にょやや?」
「……こいつ、ぜんぜんにげないな。ふつう、のらの、どうぶつって、すぐにげないか?」
「そ、そう言えばそうだね……」
「この子がはんにん?」
「え、どうだろ……」
「金ポタタ、あげてみろよ」
「にょやい?」
剣の少年が金ポタタを差し出すと、
白い生き物は、あからさまに困った顔をした。
「にょややややや、にょややややや……」
「? たべないのかな?」
「なんか……すごくいやがってないか?」
「もっと、口におしつけてみよ──よ!」
「えっ、あっこらアナ……!」
───ぐんむ、ぐんむ。
杖の少女が金ポタタに手をのばし、
金ポタタをぐりぐりと押し付ける。
「にょ、にょき、にょきっとな……」
「……なんか、かわいそうだな」
「……そうだね」
「あれ────? たべないな──……」
────ぐいん、ぐいん。
「にょ、にょきっとなぁああァ────!!!」
────ガッ!
「「うわぁ!」」
「お、おこった!」
白い生き物は、顔に押し付けられた金ポタタを
いきなりわしづかみにして、ぶんどった。
すごい勢いで、穴を掘り出す。
──ばしゃしゃしゃしゃ────!!
「──にょきっっっとぃいッッ!!」
────ずごんむ!!
金ポタタが、物凄い勢いで、穴に叩き込まれた。
中で、ポタタの先端が、土に刺さっている。
白い生き物は、土を集めなおし、穴に被せていく。
「あ────!! なんでうめるの────!!」
「……すごいおこってたね」
「金ポタタ、きらいなんじゃないか?」
「あ、ねぇ! 見て! しっぽになにかついてるよ!」
「ん……ほんとうだ。これって……」
「"はぐるま"……?」
白い生き物が、穴を一所懸命、埋めている時、
おしりの白に、目立つ赤が見える。
「赤い、はぐるまだ」
「どうしてこんなところに……?」
「この子、どこかから、もってきちゃったのかな?」
「でも、はぐるまなんてあるの、"まんなかひろば"とかにある、"じかんばこ"くらいだろう?」
「ええっ、それはまずいよ。もし、こわれてたら、たいへんだ。みんなが見てるものなのに……」
「でも! アナ、あのはこ、あけたことあるけど、こんな、まっ赤っかな、はぐるまじゃなかったよ?」
「アナ……じかんばこを、あけたらダメたよ……」
「こわれたら、ぜったいおこられるぞ……」
「なによぉ────!!」
「にょあ…………にょあ…………」
子供達が話している間に、金ポタタは、
すっかり種ポタタとなっていた。
「か、かんぜんに、うまったね……」
「こいつは、"金ポタタかじられじけん"の、ようぎしゃじゃ、ないのか?」
「ようぎしゃってなぁに?」
「にょ、にょきっとなあ────!!?」
白い生き物が、ブンブンと両手を振っている。
ずいぶんと、感情豊かな動きだった。
「……すごく、ちがうって言ってるみたいに見えるな……」
「そぅいや、こ、こいつ、手があるよね」
「さっきも、ニンジンをかた手でつかんでたぞ……」
「「ま、まさか……」」
「? なになに? どうしたの? ふたりとも」
キョトンとする、杖の少女をよそに、
同じ考えに行き着いた、剣と、盾の少年達は、
顔から血の気が、引いていた。
「な、なによぅ! アナだけのけもの、やだよぅ!」
「……アナ、とてもまずいかも、しれない……」
「うん、とてもまずい……」
「え? やさいが? そうだね!」
「「ちがうちがうちがう……!」」
二人の少年は、顔を見合わせ、
コクンと頷くと、杖の少女に、つげる。
「この、生きもの……」
「"まもの"かも、しれないんだ……」
「……えっ!」
「にょきっとなぁ〜〜!」