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たたかいは、なくならないのかもしれない。
きょうだいげんかが、なくならないように。
かなしみが、にくむこころにかわるように。
しんねんが、まちがいをみとめないように。
あいが、さいごのすべてをとりあうように。
きょうも、かくれて、かくさずに、おこる。
──ガン! カン、ガン! バキッ!
一人の少年が、木の棒で、打ち、
一人の少年が、木の板で、防いでいる。
こんな年端もいかぬ子供の中でも、
たたかいは絶えぬのだろうか。
打つ者。防ぐ者。
しかし、二人の瞳にやどるものは、
なぜか、お互いを嫌い合うものでは、なかった。
木の棒は、かろうじて、剣のカタチを。
木の板は、かろうじて、盾のカタチをしていた。
────ココんッ!
盾をよけ、肩に吸い込まれた木の剣は、
身を殴ったにしては、固い音をたてて、止まった。
「────ッ……! おれの負けだな。さすがだ、ユータ」
「……ログ、ぼくは、いまでも思うよ。きみも、木の剣をもてばいいじゃないか。ぼくばかり打ちこむのはひきょうじゃないかい?」
「はは、ユータ。あの日から、おれはお前を、ひきょうだなんて、おもったことはないよ。今だって、ちゃんと、体にまいている、木のところを、ねらってくれたじゃないか!」
「でも……」
「いいんだよ! それに、おれは、じぶんのよわ虫をなおしたいんだ! ユータの剣をうけるのは、どきょうをつけるのには、もってこいさ!」
「ログ、きみってやつは……でも、さっきの、盾を、くるっとして、剣をよこにながすのには、おどろいたよ!」
「はは! あれはうまくいったよな!」
一人は、自分の弱い心を憎み、
一人は、偽物の強い心を憎んだ。
二人は、確かに、友であった。
いや、三人は、か。
木の杖を持った少女が、走ってきていた。
「あ────!! またボコボコしてたのね──!!」
「あ、アナ……」
「き、きてしまったか……」
まだ、幼さの残る、二人の少年に、一人の少女。
カーディフの街で、有名になりつつある者たち。
彼らは自分たちを"偽物たち"と呼んだ。
いつか、"本物"になる。
その信念を、忘れないために。
「きょうもアナ、こまった人を見つけてきたよ!」
「はぁ、あいかわらず、すごいね、アナ……」
「じゃあ、今日の"しゅぎょう"はここまでだな」
彼らは、街の人々を助け続けていた。
一人は、自分を見つめ直すために。
一人は、自分の弱さを知るために。
一人は、……何となく楽しいから。
アナは、あらゆる人に話しかけ、問題を持ってきた。
いつも"しゅぎょう"しているユータとログ。
それに、アナが"いらい"を見つけてくる。
それが、ここ一ヶ月のお決まりのパターンと
なりつつあった。
「アナ、"いらい"を見つけてくれることには、かんしゃしているけど、あんまりこわい人にはなしかけてはいけないよ?」
「え────!? そんなことしてないよ────!?」
「いや……まえに、すごいケンカしている男の人たちにつっこんで行ったときは、ほんきであせったよ……」
「でも、とまったじゃない!」
「ま、まあね……」
「にがわらいしてたけどな……」
「もう! そんなことはいいのよ! 今日の"いらい"よ!」
「おし!」
「ふむ、きこうじゃないか!」
アナが、小さな鞄の中から、ある物をとりだす。
「──ほら! これ見て!」
「「……んん?」」
紫の皮。
金色の中身。
土のついた、作物。
少し、かじられたような、跡がある。
「……これ、金ポタタじゃないか」
「そうだね。アナ、そのかばん、あとで洗いなよ……?」
「もうっ! そんなの、どうでもいいの────! さいきん、"金ポタタかじられじけん"が、はっせいしてるのよ!」
「「金ポタタかじられじけん??」」
杖の少女によると、近頃、金ポタタの畑が、
小動物に荒らされているらしい。
朝、日が昇る頃には、
かなりの数がかじられているそうだ。
「のうかのおじさんが、"てやんでぇ、ちくしょうめ!"って言っておしえてくれたの! ふかしポタタ、おいしかったよ!」
「ちゃっかりおやつも、もらったのかい……さすがだね」
「おまえ、ふとるぞ……」
「むあぁ────────!!」
「よ、よし、じゃあ、"偽物たち"、さくせんかいぎをはじめよう!」
剣と、盾と、杖。
子供達だけの、小さなクラン。
彼らは今日も、困った人達のために、
たたかうのだ────。
「「……で?」」
「これです!」
じゃん! と、杖の少女が出したのは、
数々の野菜たちであった。
彼らの考えた作戦は、こうだ。
①エサで、犯人をおびき寄せる。
②追いかけ回す。
③恐怖を植え付け、畑に近寄らないようにする。
──3番目は、少女によって、提言された。
「……で、これが、エサのやさいかい?」
「ブロコロ、ダイコン、ニンジン……このはっぱは?」
「そこに、はえてた!」
「「…………」」
「おいしそうでしょ?」
「……このやさいどうしたの?」
「いえからもってきた!」
「アナ……こりないな、おまえ……」
「おこられるよ……?」
畑の近くに来た彼らは、罠を作る事にする。
地面にカゴを置き、
野菜を入れ、
近くの茂みに隠れるのだ。
実に、シンプルな構図であった。
「くるかな……はんにん」
「わからん……」
「くる! ポタタと、はっぱも入れたもの!」
「「…………」」
茂みに隠れ、様子を窺う子供たち。
誰かが、もう飽きたと、ごねるだろうか。
しかし不思議と、彼らは静かだった。
困った人達のために、真剣にやる。
それが、素直に出ていたのかもしれない。
普段はうるさい、杖の少女ですら、
この時は、ワナをじっと見て、
息をころした。
30フヌほど、経っただろうか。
「……うーん」
「しかたない、はんにんも、こっちにあわせないさ」
「……もちょっとしたら、くるかもしれないよ?」
「そうだね。でも、このあいだにも、こまった人たちを助けられるかもしれないだろう? だから、これはじかんをきめて、まいにちやろうか」
「いいこというな」
「じゃあ、つぎのやさいがかりは、ユータね!」
「う、うん……」
「はは……ん? あれなんだ?」
「「え?」」
野菜の乗ったカゴに、近づく何かがいる。
三人は、顔を見合わすと、
視線を罠に戻し、ゴクリと喉をならした。
後ろ向きで、どんな動物かよくわからないが、
確実に、野菜のカゴに近づきつつあった。
「……よし、いっせーので、とびでよう」
「……わかった……!」
「……すごいおどかす……!」
彼らは茂みを静かに移動し、
できるだけ音を立てないように、
野菜のカゴへ近づく。
全ての準備は、整った。
(いっ……)
(せー……)
(((のー……で!!)))
──バササッ────!!!
「でたなっ!! いつもはたけをあらす、悪いやつめ!」
「しかし、そんなことは、おれらがゆるさないっ!!」
「がお──────────!!! ……お?」
「にょんむにょんむ……にょきっとな?」
「「「…………」」」
この日、
彼らの仕掛けた罠に、
大物が、かかった。