テストにおめかし
「朝だ……」
寝坊、しなかったわ。
ふふっ、勝ったわね。
昨日、うさ丸が踊った後、なんと、
ヒキハさんに、勉強を教えてもらった。
地形学は、ヒキハさんが唯一、得意な分野だそうだ。
「土地勘や、地図の知識があってこその護衛任務です」
だそうです。
そうだよね。
守る側が道に迷ってたら、話になんないもんね。
朝の仕込みは、父さんらに甘えてサボったので、
いつもよりは遅い起床だ。
でも、学校の試験時間に、
間に合わない時間ではない。
眠ったままのうさ丸を抱え、階段を降りると、
珍しく、お客さんが一人だけだった。
「って……ヒキハさんじゃないの」
「おはようございます、アンティ」
「おはよ、あ……またポタージュ?」
「え、ええ、今の宿には、朝から、これ程のものはでませんの」
「あ、もしかして、赤い屋根の?」
「ご存知ですの?」
「ふふ、商売ガタキよ」
パジャマのまま、ヒキハさんの前に座る。
お客さん……少ないから、大丈夫だろう。
「あら〜また、この子ったら〜〜」
「母さん、私もポ──」
「は〜い、どうぞ〜〜」
「あ、ありがとう」
「うさ丸ちゃんはこっちね〜〜」
「あれ? 名前、教えたっけ?」
「うふふふふ〜〜」
「にょぅ、うぃっと!」
お、起きたわねこいつ。
うさ丸の、朝食メニューは、
ニンジンの固いとこと、キャベツの外側か……。
母さん、ちゃっかりしてるわ。
「母さん、試験の間、うさ丸頼める?」
「あら〜〜、でも、お店あるし〜〜」
父さんが、厨房から顔を出す。
「……お! アンティ、起きたか! うさ公もいるな!」
「にょんむにょんむ……にょきっとな!」
「あ、おはよう……ねえ父さん、うさ丸、部屋に置いて行くけど、大丈夫かなぁ……」
「ん──? そりゃ、ちょっと可哀想じゃねぇか?」
「え……やっぱりそかな……」
「う〜〜ん、かといって、厨房には入れられないし〜〜」
「はっはっは! そんな上等な白玉肉、間違って捌いちまったらどうする!」
「にょややややや……にょややややや……!」
────ドゴンッ。
「かっフォ……!」
「ふふふ〜〜大丈夫よ、うさ丸〜〜」
「うわぁ……」
「今の肘、昨日と全く同じ所に入っていますわ……」
よろよろと父さんが厨房に戻っていく。
……大丈夫か?
「アンティ、私がうさ丸をあずかりますわ」
「え! いいの? いやダメでしょ。宿屋に魔物持ち込んじゃ」
「ふふ、心配事はなくなりましたし、今日は街の散策でもしますわ」
「う〜〜ん、あんまり見るとこないよ?」
「なら、うさ丸でもさわっていますわ?」
「はは、じゃあ、頼んでいい?」
私が食べている間に、
うさ丸はヒキハさんと遊んでいた。
本当に人懐っこい……。
ていうか食べるのはやいわね!
……この子、手でつかむからなぁ……。
「本当によく発達した手ですわね……」
「にょややぃ♪」
「ん、ごちそうさま! 母さん、昨日渡したシャツある?」
「洗ったわよ〜〜」
「……え?」
……うん?
「……あれ、まっさら……なんだけど……」
「あら〜〜」
いや、あらじゃないあらじゃない。
ま、まさか……。
「あの……母さん、ショートパンツは……?」
「あら〜〜」
…………。
「昨日、出してたやつ、全部……?」
「あららぁ〜〜」
…………。
「……あ、アンティ?」
「────!!」
────ガタン!
思い切り立ち上がり、裏口から外へでる。
そこで目にしたのは……。
「────全部、干されている、だ、と……!」
わ────。
旗みたいだ────。
風になびいて、きれいだな────。
とぼとぼと、食堂に帰る。
「あ、アンティ……その、まさかとは思うのですが……」
いま、ヒキハさんの目の前には、
小さな王冠を、頭でくるくるさせて、
金色の髪をだらんと前に垂らした、
顔を青くしたパジャマ娘が、
見えているはずだ。
髪、前髪おりてきた……。
邪魔だな……。
そうだ、2つに結ぼう。
母さんがいるので、手に歯車をだして、
隠して結わえようとする。
「(……! アンティ、忘れたのですか!)」
「え……あ」
そ、そうだった。
ヒキハさんから、
クルルカンと同じ髪型はしないように、
言われたんだった……。
昨日、森で会った時、髪型と色、
そして王冠で、イッパツでバレたそうだ。
うう……しゃあない。
前に使っていた髪紐で……。
「おう、アンティ、まだいたのか、遅刻するぞ?」
再び、父さんが、厨房から顔をだす。
片手には、紐でしばられた、お肉を持っている。
────紐。
「と、ととと、父さん、そのっ、紐っ……」
「ん? ああこれな? 肉の調理に丁度いい。洗い場に干してあってな? ……そういや、以前どこかで見たことがあるな……」
私だよっ。
私の背中だよ、父さんっ!
ていうか、洗ってても、髪をしばったモンで、
肉をしばっちゃダメでしょっ!
それなに、茹でんの?
いや、どっちにしろ、あの紐はもう、肉専用だわ。
────いやぁぁああああ!!
試験会場に、パジャマコースだぁああああ!!
『────何故、混乱するのか、原因が不明。』
「(い、いや、だって着るものないでしょ! バッグ歯車の中のタンスの中身、全部干されてんのよ!)」
『────衣服装備は一式、バッグ歯車内に、揃っています。』
「え」
『────装備自動最適選択。
────頭部:ラワムギの帽子。
────胴部:黄色いワンピース。
────脚部:革のウッドサンダル。
────臀部:ごーるでんぱんてぃ。』
お、おお! そっか!
あのワンピースがあった!
け、けど! あのワンピ、かわいいけど、
ちょっと色とか派手じゃない!?
いつもショートパンツ派の私にとっては
少しレベルが高いっていうか……
ていうか、学校にも、あの金色ぱんつ
履いていくんかいな……
なんか、人として恥ずかしいんだけど……。
「……アンティ、良ければこれをどうぞ」
「え、ヒキハさん、何これ」
「剣の握り紐ですよ。薄い革で出来た、リボンのようなものですわ。滑りませんし、これは新しいので汚れていませんわ」
「え! あ、ありがと」
「……ちなみにアンティ? あなた、どんな髪型を?」
「ふぇ? 後ろでぐるぐる巻きにしばる」
「な……なんて……勿体ない!!!」
「ふええ?」
「あ、あなたのようなサラサラの髪に、私がどれだけ憧れていたかッッ……!!」
「え、ちょと? ヒキハさん……?」
「後ろを向きなさい、アンティ! 私が結わえてさし上げます! というか、あなたの髪でしたら、少しワンポイント入れるだけで充分ですわぁッッ!!」
う、うおお、なんだなんだ、この羊さん。
ん、羊? あ……
天然モコモコヘアーだから……。
「後・ろ・を・向・き・な・さ・い!」
「ハイッ!」
目がこわい。
わたし、ど〜〜なっちゃうの?
『────追加装備に、革紐のリボンが設定されました。』