しっとりおしゃべり さーしーえー
今回の挿し絵は、あったかヘタッピだ!
(*´﹃`*)
「じ、げ、ん、けっ、しょ、う」
「───────────────うそ……」
──むにっ。
「……らんえおっへ、うえんおんぁ」
「あ……いえ、その、なんとなく……」
は〜〜な〜〜せ〜〜。
ふるふる〜〜、ふるふる〜〜。
グにっ、ぐにぐにっ。
……この羊、なぜ顔を振っても、離さんのだ。
おとめのほっぺが、のびるではないか。
「……うぉい……」
「………じげん、けっしょう……そう言いましたか?」
「ぁい」
「……あの、伝承の?」
「しあん」
「しらんって……でも、いやそんな、ありえませんわ……」
「…………」
目を閉じる。
口は閉じれんけども。
腹はくくってる。
口はのびとるけども。
────信じて、もらうしかない。
ほっぺをのばす、両手をつかむ。
ゆっくりと、いたわるように。
目を開く。
カッコつけても仕方がない。
普通に、いつも通りだ。
「……ほんほよ、ほんほあのよ、ほんほに」
「…………」
くるくるくる──……
クラウンが、
ゆっくり旋回しながら、
私の頭に戻っていく。
ヒキハさんと、私の顔の間を、通った。
彼女にも、赤く光る魔石が、見えたはずだ。
少しずつ、少しずつ、頬の指から、力が抜ける。
「────────」
ヒキハさんは、目線こそこちらを向いているが、
目は、どこか遠くを見ているみたいだった。
両手が、シーツに置かれる。
ぼ────っとしている。
……。
…………こいつ、大丈夫か?
試しに、上半身を、左にずらしてみる。
うおっ、目線が追ってきた。
ようし、今度は右だ。おら、どうだ。
おおっ、ちゃんと顔が、追ってくるわ!
なんだこいつ、ちゃんと動くぞ!!
ようし、今度は後ろだ……。
────バチン。
……かお、思いっきり、
はり手でサンドイッチにされた。
ほっぺが潰れる。
いたい。
頬の手が、王冠に、のびる。
あ……たぶん、回転が、止められた。
ヒキハさんが、目を見開いて、アレを見てる。
「……………なぜ、ここにあるの」
「……とれないのよ」
「なぜ」
「……この王冠は、私のスキルなの」
「なぜ」
「一体化したの。とれないのよ」
「なぜ」
「ちかくにあったのよ」
「……」
「きづいたときには、こうなってた」
「……じゃあ」
「……そう。簡単に言うとね? うん〜〜と……わたしを手に入れた国は、戦争で負けなくなるんじゃない?」
「……」
「無限の空間、時間停止。充分じゃない?」
「……」
「……とれないのよ。だから、バカやって、隠してるの」
「……ぜったい?」
「ぜったい。あの親、脅されたら私、いやよ」
「……アンティ」
「隠さなきゃいけないのよ」
「……アンティ」
「だから、このヨロイと、仮面がいるの」
「────」
「ごめんね?」
「…………」
ヒキハさんが、私を抱き寄せる。
あたたかさと、安心する香りがある。
お姉ちゃんがいたら、こんな人だろうか。
心地よい沈黙で、私の部屋はいっぱいだった。
「この、歯車が……」
「そ。この中に、無限に入る」
「それで、あの雨を……」
「吸い込んで、出しただけよ」
「信じられない……なんて、もう言えませんわね」
「ふふ、そうね、随分見られたわ」
「……あなたのスキル、世界で、一つだけ?」
「ええ。ドニオスの神官の人は、そうじゃないかって」
「…………」
「言う?」
「え?」
「私のこと。いいよ? ヒキハさんが言いたい人に言って」
「アンティ!」
「いいの。あんな心配の仕方してもらって、止めたくないのよ」
「……この子はッ、その心で、損をするッっ!」
「勝手に損得きめんな」
「うぅッ……」
「いいって言ってる」
「……ふう」
ヒキハさんが、ベッドの上で、膝をかかえる。
「だめだわ……」
「え?」
「言えない」
「なんで? その……あ、お姉さんとかに」
「! ……言いません」
「え……お偉いさんとか」
「……大奥様たちのことを言っていますの?」
「え? いや……」
「……だめ。この情報は、持っているだけで、生命を狙われる可能性がある」
「……!! ……人から言われると、くるね」
「う……。もし……例えば、催眠や魅了魔法で、時限結晶の場所を知っている、と喋ってしまったとしましょう」
「……その人は、永遠に追求される?」
「それだけではありません。それから、あなたに繋がります」
「はは、そりゃそうだね」
「人に言えば言うほど、すべての危険があがる」
「……ごめん、言っちゃって」
「……謝る必要のない謝罪をしないで」
「でも……」
「ふ────……」
ヒキハさんが、上を向いて、息をはく。
「……なぁに?」
「あなたのヨロイは、確かに、いる……」
「!」
「丸腰で持っていい、シロモノじゃない……」
「そう、ね……」
「私があなたより強ければ、ずっと……」
「そんな迷惑かけるのは、ごめんです!」
「……私、言いませんわ。拷問されても、言いません」
「いや拷問されたら言いなさい!?」
「言いません!」
「いや、言えって。それであなた死んだら私お先真っ暗だから」
「……!」
「わかった?」
「……ふふ」
「あによ」
「……あなたの輝きは、ヨロイじゃない。その心だった」
……なに、小っ恥ずかしいこと言ってんだ、こいつ?
この日から、ヒキハさんは、
私に "さん" を、つけなくなった。