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カミングアウト

先いっとく。

今回の改行、スマホ用です。

パソコンの方、ごめぬ。

いよいよです。

 

 私に覆い被さるように、

 泣いているひとがいる。


 肩を震わせて、声を噛み殺して。

 優しい肌色の髪の、香りがした。



「ヒキ……ハ、さん……」

「……ぐ、く……ぅ……」



 私の中で何か、壁のようなものが、

 パラパラと、崩れていく気がした。


 何かが、壊れようとしている。



「……なッぜ、あなだがッ! そん、な、ものでッ!」

「…………」



 年上の、歳が近い女の人に、こんなふうに、

 覆い被さるように、泣かれた事など、ない。


 何故だろう。

 なんで、こんな事になっているのだろう。


 (なか)ば、放心しながら、

 私は、彼女を壊さないように、

 こわごわと、背中に手をあてるしかなかった。


「ヒキハさん……大丈夫、大丈夫だから……」


 何が、大丈夫なのだろう……。


「…………」


 泣き声が、おさまった。

 でも、少しも動かない。

 覆う体の、その硬直は、

 私の人生で得た物では、

 溶かせそうになかった。


 バカな私は、明るさをぶつけてみることにする。


「はは……ヒキハさん、大袈裟だよ……みて、私、このヨロイを着て、ケガしたことなんてないよ? ドラゴンのヨロイだよ? すごい、強いじゃない!」


「…………」


「とっても……つよいでしょ! ね? ヒキハさんが、しゃがんで泣いちゃうくらいつよいから! だいじょうぶ、だよ……」


 動かない。

 動かない。

 どうすれば。


「…………ひとりで、ですか?」

「……え?」


 沈黙を破りたいがために引き出した言葉。

 それに、こたえなきゃ。

 また、沈黙になってしまう。


「そっ、そうだね、ほら、こんな、義賊のカッコしてたら、誰も「あなたの」……」


「……あなたのしている事は、"殿"です」

「……しん、がり?」


 しらない、言葉だった。


「……最期の守り、すべてのツケ。その強さで、皆の盾となる者。一人で、多くの犠牲のかわりになる者」

「な、なにいって……」

「確かに、あなたは、つよい。私よりも、ずっと、ずっと。でもそれは、その"黄金"を与えられているから!」

「! ……」

「今日、ヨロイを着る前のあなたは! あの火精の前で、殺されそうになっていたではありませんか!!」

「あ……れは」

「あなたは、つよい!! その金をまとって、誰よりも強い!! でも、中身は、それらが剥がれれば、ただの女の子なんです!! それを、忘れちゃいけない!!」

「────────」

「あなたは、普通に死ぬんです! それなのに、あなたは、全部を守ろうとする!! みんなのために、守り続けてる! それは、あなたに、なんの(えき)があるのッ! あなたの人生は……これからの人生は! 他の何かに食い潰されていくの!?」


 は、はは……。

 背中の布団が、あたたかい。

 ヒキハさんが、あたたかい。


 なんだこれ。


 ばかだなぁ、ヒキハさん。


 組織なんて、うそだよぅ。


 私はただ、夢を、描いてみたいだけ。


 自分の物語を、書いていきたいだけ。


 たまたま、少しがんばって、助けてもらって。


 たまたま、大きなチカラを、得て、しまった。


 そうだよ?


 ただの、おんなのこだよ?


 でも、守りたいって、思ったよ?


 それは、わたしの気持ちで、


 私の人生で、いいじゃない。


 私、そういうので、いいよ。




 はは、どうしようかな。


 嘘を、つかなくちゃ。


 安心させる、嘘を。


 泣きやます為の。


 とっておきの。


 絵本の様な。


 やさしい。


 幸せな。


 嘘を。














「私は…………孤児、でした」


「────────」


「飢えない、幸せな、孤児でした」


「────────」


「でも、あなたの両親を見て」


「───、───……」


「とても、うらやましかった……」


「      」


「あんな、すばらしい、親がいるって……」


「      」


「ほんとに、いいなって……」











「あなたには、あんな人たちと、幸せに暮らしていてほしい……」














 ────バリン。


 ……。
























 ねぇな(・・・)




 ここで(・・・)嘘つくとか(・・・・・)




 ────────────ねぇな(・・・)















 ガッ────!!


「うぇっ!?」


 ヒキハさんの、首根っこ掴んで、横にほる。


「ぶぇッっ!!」


 あら、いい声で鳴くわね?

 ほてった身体を、起こす。


「あ、アンティ、さん……?」

「…………私に、(えき)は、あるの」

「え?」

「守る力が……隠し通すチカラが、必要だから……」


 クラウン、ごめんね。

 ちょっと……とるよ?


 そっ、と、くるくる回る王冠を手にとる。

 胸の前で見ると、ちょうど、赤い宝石が見えた。


「……ヒキハさん、見て」

「……えと……?」


 起きあがってきたヒキハさんに、

 王冠の赤を見せる。


「ほう……せき、ですか?」

「……私が、命をかけて、隠さなければいけないもの」

「────え?」


 ゆっくりと、顔を、顔へ、近づける。

 あまり、大きな声では言いたくない。

 でも……この人の、肌色の優しさを、

 無碍(むげ)にするほど、私は、おちぶれていない。








 くちを、みみに、ちかづける。


 こんども、彼女はうごかない。


 ふふ、何だか、どきどきする。


 さあ、ささやこう。


 黄金の、秘密を────────。











「 、 、 、  、  、 」


「───────────────  ……」







 真横から、目が見開かれるのが、わかった。








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