じつはきえてない!
「──うわわ、うわわ、ちょっ!!」
──────ドッップぁあああああん!!!!
……川に、ナナメに、つっ込んだで。
「────ぶくぶくぶくぶく……」
『────はやく起きてください、アンティ。』
─
あい。
さーせん。
さーせんした。
────ザッパァァァアん。
ぱんつはいてなくて、よかった……。
もう、びっちゃびちゃだわ。
めっさ濡れた後に、
お天道さんの下にいると、
水が空気になる途中のにおいがする。
もうむしろ、清々しい気持ちだわ。
────ちゃぽ、ちゃぽ。
「あ……ヒキハさん」
ヒキハさんが、剣を鞘におさめ、
水をわけて歩いてくる。
「あなたがとても考え無しだという事が、よく、わかり、ま、し、た!」
「はは、は……あの玉、どうなった?」
「あなたが通った時、破裂するみたいに、四散しました。一瞬、青い輪っかが見えて、たいへん! 綺麗で、し、たッ!」
「なんか、怒ってんの?」
「──あなた、本当に身体は大丈夫なの?」
いきなり、ヒキハさんが、声をおとすので、ビックリした。
私は、家が食堂だから、色んな人の声を聞いて、育ってきた。
だから、多分、人の声色を聞き取るのは、得意だ。
ばばばばーちゃんには、負けるけどね。
いまのヒキハさんの声は、ガッツリ本気で、私を心配してる声だ。
「……さっきから、それ、言うね? ……何でなの? 何ともないよ?」
「…………」
誠意に、誠意で返すが、まだ、彼女の顔には、懸念と、恐れが見える。
どうしたんだろう。
少し、話題を変えてしまう事にした。
「……そいえば、なんでここにいるの? 一応聞いていい?」
「……! ふぅ……。あなた、私に教えてくれたでしょう? カーディフで山火事があった、って」
「ええ」
「あなたの言う通り、あの後に王都に帰ると、2つの大きな事件がありました」
「2つ?」
「ひとつは、カーディフの山火事について。もう一つは、手紙を届けにきた、クルルカン」
「あっ、片方、私か……」
「いいえ、多分、両方でしょう?」
「うっ……」
ヒキハさん、真剣モードのくせに、鋭いな……
前の時は、けっこう暴走してくれて、いなせたんだけど……。
「……詮索する気はありません。でも、山火事ときいて、少し心配がありました」
「心配……って?」
「目撃されたバーグベアも、少し警戒しておりましたが、私の探していたのは、先ほどの、"ファイア・エレメント"ですわ」
「! なぜ……」
「知らないのですか? 火事の後に、よく発生するのですよ?」
「!!!」
それは……まったく知らなかったわ。
表情で、ヒキハさんは返事を見る。
「ふぅ……あんなに強いのに、そんな所は、見た歳通りね」
「……! あによ、どうせ私はふつうのガキんちょよ」
「うしろ」
「?」
振り返ると……
川底が、学校の貯水池みたいに、えぐれていた。
ここ、浅かったよね〜〜……。
「……先ほどのワザ、水しぶきが、50メルは上がったと思います」
「あらんまぁ」
「はぁ……なんだか疲れましたわ……ねぇ、しつこいようですが、ケガはないのですか?」
「ほんとに、し、つ、こ、い! 大丈夫だっ────」
ボオオゥアア、ボオオアア────!!
"反射速度"は、とっくに発動している。
音が、のびる。
いや、水に潜った時の音に似ている。
んなこたどうでもいい。
ヒキハさんにのびる火のヘビは、2つ。
赤い!?
くっそ!! きづくのが、おそかった!!
ちかい!!
足で、水を蹴りあげる。
爆発みたいに、水が片方のヘビを打つ!!
もう片方が────────!!
「ヒキハさ────!!!!」
「────私とて、剣の刹那を見るもの!!」
くるりと、ローブを流し、
火は、白金のマントへ!!
────シュボオオオオ!!
赤い炎のヘビが、マントにいなされる!!
「やっるぅ!!」
「いえ、片方かたづけていただいて、助かりました! ……このマント、すごいですね……流れるように炎をかわせます」
「え、ええ、そうね……」
ドニオスの劇場館に掛けてあるわよ。
クラウンがスキル引き出してるから、
同じ効果はないだろうけど……。
あ……!! 考えたら、
これもアブノさん印かッ!!
「完全に球体になりましたわね……」
「あいつ赤いし、少し小さい……別の?」
「いえ、同個体でしょう。まったく、気配もなく復活するとは、厄介なものです」
目の前に、集まる、赤の炎。
大きさは、3メルくらいか……。
「アンティ。火事の後に出るファイア・エレメントが、なぜ危険か、わかりますか?」
「え?」
急に名前を呼ばれて、どきりとした。
いや、今までにも多分、何回か呼ばれている。
でも、なんか今は素だった。
「わからん!」
「ははっ……アンティ、火事の後に、燃えるものは少ない」
そりゃそうだ。
燃え尽くされているよね。
あ……。
「……なるほど。燃えるものを、探し続ける」
「ご明察です、アンティ。あれは、人里を好む」
「完全理解。ぶっころ確定」
「ふふ、やっぱり、地元なんですね?」
「後でって。やめてよね忘れたいのに。クラウン! "断罪執行"、もっかい打てる!?」
『────不明瞭判定。怪しいです。』
「そらあかん。違うやり方しかないか」
「クラウン? ちょくちょく話しかけますわね。妖精でもいるのですか?」
「あ、あー……そんなもん、そんなもんよ」
「うわぁ……ヒドいですね」
『────同感です。』
ちょっとクラウン……
あんた、声が聞こえない相手に同意しないの。
「ねぇ、あれ……デカい?」
「デカいですね。色はさっきよりマシですが。あなたのさっきのワザで、弱っています」
「風の剣、禁止」
「承ります。妖精さんは、先ほどのワザは出せないと?」
「私が、身体から煙を出して倒れる」
「……!! それ、は……」
「過剰な心配禁止!! 今は前!!」
「……! はいっ!」
2人、赤の火の玉に、構える。
ああああ〜〜……!
明日、試験なのに〜〜……!!
うさ丸、どこいったあぁぁああ〜〜……!!!