ある女剣士の気づき
あの少女は、何者なのだろう。
今までに、見たこともない、
綺麗な青い炎のエレメント。
その攻撃を、剣の技のみで、
はじく、はじく、はじく。
炎のエレメントは、移動が速く、
攻撃力がとても高く厄介だが、
攻撃時の行動が読みやすく、
遅い、という特徴がある。
だから、視界の端にいる、
金の髪の少女を、少しだけ、
見ておく事ができた。
目を疑う事が、起きる。
少女の手足が、何かに、喰われたのだ。
声を出して、その場にかけつけそうになる。
それをしなかったのは、
彼女の手足を喰った"何か"が、
鮮やかな黄金を発していたからだ。
黄金の4つの顎が、彼女の手足に、
緩やかに、集束する。
戦いながら、私は、騎士の研修時代を思い出す。
高位の魔物を倒し、その血肉を剥ぐと、
その素材に、"意志"や、"特性"が宿ることがある。
"ソウルシフト"現象。
当時の教官は、そう教えてくれた。
硬い甲羅を持つ魔物は、無敵の盾に。
毒を撒き散らす魔物は、無情の毒に。
風をつかさどる魔物は、無数の風に。
聖なる力を持つ魔物は、無垢の剣に。
その特性は、死を超えて、引き継がれるのだ。
だが、その特性の中でも、とてつもなく、
厄介で、危険で、有名な"ソウルシフト"がある。
────"捕食"である。
この、おぞましい特性は、
"ある種族"の魔物の素材に、
必ず付与されることで、知られている。
あの種類の魔物は、誇り高く、貪欲だ。
教官は、こう、言っていた。
属性ではなく、個性でもなく、
ただ、"食らいつく"という、呪い。
それは、まるで何かを取り返すかのような。
自分の生命と、身体を奪ったものから、
何かをむしり取るような、そんな特性。
彼らは、奪った者を、赦さないのだと言う。
だから、
だから。
その素材で、作っては、いけないものがある。
剣ならいい。
食われるのは、敵だ。
自分は、少しだけですむ。
それは、最強の武器となるだろう。
盾ならいい。
食われるのは、外だ。
自分は、耐えることができる。
それは、無敗の防御となるだろう。
鎧だけは、ダメだ……!
自分だけが、食い殺される。
彼らは、何かを返してほしいのだ。
あきらめは、しないだろう。
すべての彼らに、その特性がつくことが、
それを証明している────。
"捕食"の、ヨロイだけは、ダメなんだ──────!
「──あああ、あああ、なんて、こと……!」
青の炎を、はじく、はじく、はじく。
愚かにも、目線は、黄金を向く。
敵の前だというのに、私の心は、
彼女にかけよりたい気持ちで、
埋め尽くされている。
「──なんてモノを、着ているの……!」
濡れ刃の剣で、はじく、はじく、はじく。
彼女の無事を、心から、祈って。
「アンティ……!? あなた、それが、なんでできているか、知っているの……!?」
心の宿らない、その剣で、防げるほど、
高位なる火精は、あまくはない。
「アンティ、それは……それは、
"ドラゴンの素材"で、できていますわよ……!」
────ボオオゥアアアアアア!!!
────キィン……!
剣は、宙を、舞った。
川の中に、腰を付く。
ドレスの中には、
びったりと、水が染みてきている。
目の前に、広がるは、白金のマント。
二つ結の、金色の髪。
炎は、消し飛ばされ、黄金の手には、
吹き飛んだはずの、剣が握られている。
「……あんたねぇ、なーにやってんの?」
「……あ、あ……」
のん気な声で、剣を投げてくる。
慌てて、ぎこちない動作で、受け止める。
彼女は足を広げ、
片手を腰にあて、
もう片方で、炎の精霊を、指さした。
「おぅい、火の玉……」
──彼女は、高らかに、言い放った。
「私を、ノーパンにした罪は、重いぞゴルァぁぁぁああああああああああああああああああ!!!!!」
────割と、平気そうだった。
アンティがヨロイに喰われない理由は、
62話を読むとなんとなくわかるよね〜
(*´﹃`*)