へんっっっしんっ!! さーしーえー
恐怖!
でかい火の玉が、おいかけてく〜〜るぅ〜〜。
怪談的な怖さではなく、純粋に物量が、怖い。
──デカい。
きゅるるるるるる──!!
トットットットットッ!!
ボオオゥアアアアアア……!!
「にょんやや〜〜!」
『────敵対勢力:ファイア・エレメント。
────全長:5メル80セルチに成長。』
「うわぁぁああん! お母さぁぁああん!!」
「ちょ、ちょっと! あなた、ほんとに、あのクルルカンですの!? レッドハイオークをイッパツで倒したでしょうに!?」
「うるしゃいなあ! 装備を着込むヒマが、なかったのよぉぉおお!!」
「装備ッ!? あの、仮面ですか!?」
「あ……あッ!? やべ!? 仮面、ふっ飛んだままだ!!」
「えええッ!?」
「く、クラウン、回収できる!?」
『────可。固定されている歯車から、格納します。』
「耳のトコのやつね! お願い!」
「な、何を喋ってますの?」
「こっちの話よ! 大丈夫、仮面は回収できそうだわ!」
「な、なら、とっととクルルカンになってくださいまし!」
「か、仮面だけじゃムリなのよ! 身体のスーツも着ないと!」
「その時間は、どれだけかかりますッ!?」
「クラウン!」
『────約、17ビョウ。状況により変化。』
「だいたい17ビョウくらい!」
「いやに具体的な数字ですわね!?」
「なんとかなる!? 」
「くっ、時間を稼げばいいんですのね!!」
ボオオゥアアアアアア……!!
「おおお! 言ったそばからっ!!」
「くっ! さっきより、はやくなりましたわっ!」
青い炎を、避けながら逃げる逃げる……!!
「……くっ! いい加減に、せんかぁああ!」
ぎゅいいいいん……!!
「あなた、それっ!」
私の手には、2重構造の、はぐるま。
内側の小さい歯車は、回らない。
外側の大きな歯車は、空気を裂くように、回る。
「"チャクラム"!! クラウン、ほじょ!」
『────アンティ! それは……。』
「やってみる!!」
『……────レディ。軌道補正。』
ぎゃいいいいいん!!
「……なんて、エネルギーなの……」
ヒキハさんが、私の手元の歯車を見て、なんかビックリしてる。
そ、そんなすごいか?
回ってるだけじゃない?
「……ッ! 投擲ッ!」
きゅるるるるるるうううん!!
────ズポッ!
ぼっちょん。
「「…………」」
すどおり〜〜、からの〜〜川、落下。
「うわああああああ!!」
「ちょっとおおおお!?」
ダメだ、私、あいつキライだ。
「……ヒキハさん、二手にわかれない?」
「あ、あなた、私になすり付ける気じゃ……」
「いやいやいや! その方がどっちも逃げやすいんじゃないかって! 火の玉も、どっちを追っていいか、わかんなくなるかも!」
「そんな都合よくいきますか! そんなの、どちらか片方が追い詰められて…………なるほど、それはいいかも……」
「え……?」
「アンティさん、あなた、何十ビョウか、安全な時間がとれたら、あの装備に"早着替え"できますのよね?」
「は、早着替えって……大道芸じゃないんだから……」
「道化の代名詞みたいな人が、何を言ってるんです?」
「こんの羊……」
「どうなんです? 私も流石に走りっぱなしで疲れてきました」
「めっちゃ余裕そうね……うん、できると思う。……頼める?」
「ふ……では、わずかばかり、"恩返し"といきましょうか!」
トットットットットッ───!
えっ!
ヒキハさん!
そっち、川!
濡れるし、水に足、とられるよッ!
────ザシュ!
!?
川の浅い所に、剣を刺した!?
「──えぇぇぇええい!」
──バッシャアアアアアン!!
おおおおあああ!
すごっ!
剣で、水と岩つぶてを、はじき飛ばした!!
────ゴッ!
────シュウウ!!
「!? すごい! あいつに岩が当たった!? なんで!?」
『────解。岩が濡れているためです。』
「! なるほど! 水が弱点だから!」
ヒキハさん、すごぉ!
そういえば、初めて会った時、剣で石、飛ばされたっけな。
……剣の手癖、わるいわね、あの人……。
ヒキハさんの岩礫攻撃で、ファイア・エレメントが方向をかえる!
「くっ! 今です! お早く!」
「だっ大丈夫なの!?」
「あんまり大丈夫じゃないですから!」
ボオオゥ……!!
シュバッ!!
シュババッ!!
……!
水で濡れた剣で、炎のヘビをいなしてる!!
「ッ! あまり持ちません! いそいで! アンティ!!」
「────────!」
…………。
……ちぇっ!
アレをやると、ほどんど裸になっちゃうから、外ではゼッタイやりたくなかったんだけどな……!
でも、あんなに必死に時間を稼いでくれてんだ。
────やるっきゃない!
「クラウン! こーど入力! "クルルカンスタイル"!!」
『────レディ。
────コード入力確認。
────格納庫、展開します。』
"クルルスーツ・レディオル:改"。
マール服飾店、アブノ店長が生み出した、
女性専用、義賊意匠型、外殻系戦闘スーツ。
……"キラキラシリーズ"No.1、とか
なんとか言ってたわね……。
この、趣味に走りすぎた鎧を一言で言うと、
"装甲まみれの着るのがクソめんどくさいツナギ"
……である。
初めて、アブノさんの店で着用した時は、
大変……苦労した。
まず、あの変態店長の一言目が、
「ああ、下着は別につけずともよい!」
だった。
こいつ……女モンのヨロイ作ってる割に、
女性の心理を何も理解してねぇな、と、
割と、目に殺意を込めて睨みつけると、
"ごーるでんぱんてぃ"なる、
趣味の悪い、金色の下着をわたされた。
装着の仕方も、けっこう複雑だった。
私は、パンイチ。変態店長は男なので、
アブノさんには、壁の方を向いて立ってもらい、
声のみで、装備方法を聞いたので、
ガチで、朝方までかかった。
……あと、装備に時間がかかったのには、
もう一つ、大きな理由がある。
装着のさいしょに、大きな難関があったのだ。
着るのがクソめんどくさい"ツナギ"。
つまり、メインの装甲は、すべて、
あるもので、地続きに繋がっている。
しかし、そのあるものは、布ではないのだ。
────────肉だ。
……最初、まったく、気がつかなかった。
「わぁ……赤くて、艶がある布ね……」
あの時の、のん気さを、呪いたい。
装備の内側に、規則正しくならぶ赤を見て、
私はまず、美しいと感じていた。
さわった。
私は、食堂屋の一人娘だ。
すぐわかった。
「〜〜〜〜〜〜ッ!!!」
ある、魔物の、筋肉繊維を、利用してるらしい。
私は実家でよく、食肉を扱っていたが、
こん時ばかりは、半泣きになった。
──いまからここに、あしをとおすんだぞ!
しばらく放心していたが、
その時は時間がなかった。
冒険者登録の初期料金は、
15歳でドニオスに初めて訪れた者は、
一定期間、免除となる。
能力おろしの日から数えて、
もう猶予は、数日しかなかった。
さっさと、登録したかったのだ。
私は覚悟なんてせずに、無心で、
肉まみれのブーツに、片足を突っ込んだ。
あの時のことは、私の、
人生最悪の、思い出だ。
ブーツに足を入れた瞬間、
大きなクチのような何かが、
足首あたりから飛びだし、
私の右足を、ふとももまで、食った。
──食われた右足が、ヨロイになった。
……正直に、言う。
この時、私は、
15歳になってから……初めて、チビった。
右足だけクルルカンになって、
ジワリと目とぱんつをにじませながら、
10フヌくらい、あほみたいに、
突っ立っていた。
魔物の、捕食本能を、
装甲の装着に転用しているらしい。
このヨロイは、半分、生きているのだ。
左足、右手、左手で、
同じ事が起こった。
そう、
こんなふうに……………。
『────変身シークエンスを開始します。』
『────服飾の格納を確認。』
『────外甲殻基礎フレーム:転換。』
『────第一装甲:リローディング。』
『────バイタル正常:血流脈コントロル。』
『────フレーム内部:流路形成。』
『────全ジョイント:展開完了。』
『────右脚部:捕食展開。』
『────左脚部:捕食展開。』
『────右腕部:捕食展開。』
『────左腕部:捕食展開。』
『────関節部:気密圧縮。』
『────第二装甲:パウンテッド。』
『────四肢装甲:鎮静化に成功。』
『────ジグザグギア:正常鎮圧。』
『────マント生成:展開値抑制中。』
『────マスク部位:ツインギアに固定完了。』
『────装甲展開正常率:100パセルテルジ。』
『────クルルカンスタイル。スタンディング・バイ。』
「あ、やべ……金色ぱんつ、わすれた……」
装甲は、生きてるわけじゃないのよアンティ……。
バッグ歯車に入らないでしょう……?
((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル