はぐるまは止まらない さーしーえー
「捜索は中止だ」
は?
「訳を言え」
父さんが、最低限の言葉で問う。
「今からの捜索は、火を使う」
だからなんだってのよ。
だから子供を見捨てる理由に、なんのか。
「何がまずい」
「ウルフ程度なら、火で逃げる。だか、ヤツは違う。火は目印にしかならん。ユータ達を見つける前に、必ず俺たちが喰われるだろう」
「だが……」
「だからって」
思わず声がでた。
「だからって! 子供が2人! 外にいるのがわかってて、門を閉めたまま知らんぷりするの!! おっちゃん! おっちゃんは門番なんでしょ!? それで! そんなんでいいの!?」
涙目になって、食い下がる。
「危険はそれだけじゃないんだ! 火はな、街の道標になっちまうんだ……。門が、閉まっていたら刺激せずにすむが、人が出たり入ったりしてたら、ここに食いもんがあるってばれる。バーグベアは、食いもんがある所から絶対に動かなくなる。住み着いてずっと狙われるんだ……。そうなっちまったら、商人もそうだが、冒険者ギルドに使いを出すことも難しくなる。街は死ぬんだよ……」
「だから、だからって……」
父さんが手で遮って、私の言葉を止める。
「どうするつもりだ」
「森への探索はヤツを刺激するだけだ。そして俺たちは弱い。会えば喰われるだけだ。ドニオスに使いを送る。今の声は、森奥の小山からだ。街道は、まだ通れる遠さにいるはずだ。」
「朝になれば捜索できるか」
「……難しい。この街の最高の鎧は、オークの革鎧のハンパが2つしかない。部下に、会えば死ぬ相手のもとに行けとは言えない。ドニオスの冒険者を呼ぶまで、ユータ達が隠れていることを祈りたい」
涙をこらえて、おっちゃんの話をきく。確かに私も父さんが捜索にでる事を想像すると、絶対にやめてほしい気持ちがある。でも、だからって、待っていてもどうにもならないじゃない。少し近場まで行って、運良く2人を見つける可能性はある。
「アンティ、ログ、家へ帰れ」
「でも!」
「帰るんだ!」
真剣な顔の父さんに何も言えず、ログの手をとって、早歩きで家の方に向かっていく。
「あ、アンティねぇ……」
火を使ったら、街に危険がおよぶ……。
でも、でも今日はこんなに月が明るいじゃない!
身を潜めて、そっと探し出せるかもしれない。
門はおっちゃんらの仲間がいるから通れない。
壁をこえて外に抜けられる所はないか……。
「! そうか……」
「? アンティねぇ?」
ログの手を離す。すぐに行かなくっちゃあ。
私は走り出す。
「アンティねぇちゃん!どこいくんだよぅ!」
水引き門は、街の畑に水を引き入れる水路の事だ。
門と言っても、補強した水路に滑車で開く、せり戸が付いている簡単な物だ。今は子供の手が届かない上の方に、木製のかんぬきがされている。ユータらは、これがかけられる前に、ここから抜け出したのだ。
さて私、アンティ・キティラは、ぶっちゃけ幼女体型だ。
い、いや、幼女体型モドキだ。
背は、クラスの連中に比べて、頭ひとつ分くらいちっこい。
胸は、まぁこれから大きくなる。
お尻は……でかくはない。
うわあああああ。
ぐ、ようするに、私はこの水引き門を、何とか通れるのである!
しくしくしくしく……
あほしてるばあいやない!
かんぬきを外し、滑車を回す。
ちゃぽ、と音がして、小さな穴が壁にできる。
濡れてしまうが仕方がない。
今も歯車で髪はまとめてある。引っ掛かりはしないだろう。
「よい、しょ! と……」
体の後ろっかわが濡れてしまったけど、割と簡単に通れてしまった。……通れてしもうた。
胸。
「ぐっ、あんのアホタレ勇者! 見つけたらボッコボコの、ギタンギタンに……」
森の方へ視線を向けると、すぐに異変に気づいた。
「燃えてる……」
少し続いた森の向こう。小山の中腹に、光が広がっていた。