食後のお茶はいのちとり!
「お茶が飲みたい」
山火事で、生命のカケラさえ感じさせない。
そんな場所で、私は欲望を口にしていた。
「あったかいお茶、飲みたい」
『……────飲めばいいと思います。』
おっと……?
相棒が、割と冷たいわ?
「なによぅ……ご飯の後は、ちょっとゆっくりしたいのが、人のさがってモンでしょう?」
『────クラウンギアは、スキル媒体です。』
「あんたねぇ、心はもう、人間みたいなモンでしょが」
『────食後の感覚が不明瞭。』
あ……そか。
ご飯食べないもんね……。
失礼しました。
「うさ丸、あんたお茶いる? ……寝てるし」
「にょやぃ〜〜……」
……おかしいなぁ。
ドキドキハラハラの追跡劇になるはずだったのに、なしてこんなに、のんびりしてしもぅたんやろ……。
あれ、ラビットにお茶って、あげていいんだっけ?
「……いいや。私があったかいお茶を飲みたいという想いは、かわらない。沸かそ」
『……────。』
●歯車法式・お湯の沸かし方●
・はぐるまを、だそう!
・はぐるまから、お鍋をだそう!
・はぐるまから、お水をだそう!
・はぐるまを、地面におこう!
・はぐるまに、お鍋をおこう!
・はぐるまから、山火事をだそう!
コトコトコトコト……。
「……父さんらに、今の職業のこと、なんて言おうかなぁ……」
お湯が沸く間に、ウチに帰った時のことを、考える。
「郵送配達職……って言ったら、正体がバレる可能性があるのよねー……私一人だけだし……」
例えば……
"ウチの娘、郵送配達職なんですよ〜"
"え、それって、あのクルルカンの?"
……はい、アウト〜〜。
ちゃんと、お給金を貰っている事は、一人娘として、ぜひ報告したいけど、義賊クルルカンの格好で、そこらじゅうを徘徊しているのは、マジで隠したいわ……。
「ううう〜〜どうじだらいいんだ〜〜!!」
思わず頭を抱えてしまった。
あの素晴らしい両親も、まさか娘が、絵本の英雄の仮装をして、ぴょんぴょんしているとは思うまい……。
「……お茶しばいて、気分転換するか……んん?」
ジュウウウウ……
んんんん?
お鍋から音がする……。
アレッ?
「……お水がない……?」
空焚きやないの。
え? なんで?
「ええっ、お湯どこいったの?」
ちょっと、私の食後のお茶。
あれぇ〜〜〜〜?
「どゆこと? 蒸発した? いやいや早すぎる……」
おかしいと思って、歯車から噴き出ている炎を見てみる。
「! ……青い?」
火が、青かった。
……? いつも、赤よね?
昨日まで、山火事色だったのに。
なんで、今日は青い火なんだ?
「……なんか火の勢いもすごいし、変なの」
ちぇ。
お茶飲みたかったけど、仕方ない。
お鍋をしまって、と。
鍋敷きにしていた、山火事歯車も、消そうとする。
「……!? 火が消えない?」
ボォォオオオオオ────!!
な、なんでじゃ……!?
岩の上の歯車からは、今も、
激しく青い火が噴き出されている。
『────警告。魔力干渉を受けています。』
「なッ……!?」
ちょっとちょっとちょっと!
クラウンが『警告』の2文字を言った時は、たいていロクな事にならないわ!?
「干渉って、何が!?」
『────干渉対象、"カーディフの火"露出部。』
「! この炎か!」
なに、なんなの!?
炎が魔力で、変になってるって事!?
──ボオゥ、ボオゥ、ボボボオゥ────!!!
「わっ!!」
炎の勢いが、増している!!
「うわぁ────ん!! 私、今回もなんもしてないわよぉ────!!?」
『────アンティ! 危険です! 距離をとってください!』
「ううう、食後のおちゃ────!!!」
ガッ!
「──にょやッ!?」
うさ丸を掴み、岩から離れる。
足には歯車が展開している。
「よっ、とぉおあああ!!」
大きな岩から、飛び降りる!
下には、小川が流れている所がある!
山火事で、よく残ったもんだわぁああ!
「うわぁあ! 濡れる! クラウン!」
『────座標固定。』
グググッ────!
おっ、わっ!
右足が、空中に止まった!?
すごい!!
足にある、歯車のバネで、
衝撃をころしてくれてる!
"距離滑り"の歯車と歯車の間には、弾力性のある空間が挟まってるからね!
「おしっ!────よっといッ!」
そのまま、空中を蹴る!
────トン!
「ほっ! なんとか小川に落ちなくてすんだ!」
『────次回行動時の着地点の確認要請。』
「ごめん! 気ぃつける!」
『────警告。炎属性の魔力が、集約しています。』
「集約?」
ゴオオオオオオオオ────!!
なっ!? 岩の上の、あの青い炎は、何……!!?
「──でかい!! さっきの火なの!?」
『────スピリット系の魔物反応。顕現します。警戒を。』
「魔物ですって!?」
オアアアアアア────!!
炎が、青い炎が、うずを巻いている。
火の勢いは、まったく衰えない。
円状に、炎上している。
……シャレじゃあないのよ?
とどまる形は、球体。
炎の色は、綺麗な青。
空中に浮いたその姿。
──ちいさな、青い太陽みたいだ。
『────検索完了。
対象名【 ファイア・エレメント 】
弱点部位:無。弱点属性:水。
全長、2メル70セルチ単位。
────上位個体です。』