まだ帰らんのかーい!
────帰ってきた、この街へ。
さっきは、門番のおっちゃんへの、
うさ丸弾道攻撃を繰り出したお陰で、
実感がなかったけど……。
こうやって、門をくぐって、
懐かしい街並みを、見る。
ああ……! 帰ってきたんだな、私!
故郷から離れて、はや一ヶ月。
色んな事があったけど、
なんか、あっという間だった気もする。
冒険者ランクは最下位だけど、
たくさんの人に助けられて、
なんとか生活はできている。
ちょっと、むずがゆいような、
誇らしいような、
変な気持ち。
さすが、私の故郷……かな?
カーディフの街は、前に見た時より、
とっても、優しく見えた。
さぁさぁ、今は、お昼前!
実家に向かっている、わたくしですが!
……誓おう、今、あの場所は、戦場だと。
────私には、未来が見えるわ……!
父さんが、豪快に笑いながら鍋をふるい、
母さんが、微笑みを浮かべて野菜を断ち、
プライス君が、泣きながら卵をかち割る。
それが、"キティラ食堂"と言う所よ……!!
「……ま、まぁ、今帰ったら、間違いなく、お手伝いコースね……」
致し方なし。望む所よ。
たまの帰省に、親孝行しろってんだわ。
カーディフの中は、お昼時ってこともあり、人通りは少ない。
みんな、行きつけの店に吸い込まれたり、家で食べたり、仕事場で食べたりするからなぁ。
この時間帯は、いきなり街の所々が、静かになるのよね。
ドニオスみたいに、オシャレなオープンテラスのケーキ屋さんとかあれば華やかなんだけどな〜〜。
『────注。一日に、ケーキ3個以上の摂取は、体に毒です。』
「ぐっ、いや、あの時は、そのぅ」
『────くれぐれも、食べ過ぎないように。』
「……ひゃい」
スキルに、食生活管理される私って……。
「……そいえばクラウン、あんた、今、外、見えるの?」
「にょきっとな?」
『────モコモコしています。』
あ、さいですか……。
ずっと頭にうさ丸を乗せているけど、なんでか首が疲れない。
不思議だわ……。
「にょややぃ!」
さてさて、もうすぐ街の中央だ。
さすがにここは、けっこう人がいるわね。
市も立ってるし。
「……ん?」
果物を売っている露店の前で、何か違和感がある。
ん? 何だ、あの空間?
後ろのクリーム色の壁と……同じ色のローブだ!!!
「あいつ……!!」
見つけてもぅた!!
多分、あの人だわ!!
私を探していたのって!!
コガネリンゴを買ってったみたいね。
あ……行っちゃう……。
「ど、どうしよう……」
……つけました。
「……何やってんだかな、私」
今頃、実家では、かきいれ時だってのにね。
でも、私を探してる奴が、何者かが気になった。
幸い、ここは地元で、抜け道などの地の利は私にある。
歯車法の力を使えば、いざと言う時は、逃げ切れると思う。
「……どんどん人気のない方に行くわね……」
『────案。これ以上は、足音を察知される可能性:大。こちらを。』
「え? ……!!」
あ、足が、浮いた?
慌てて足を見る。
黄金の車輪に、それを支える幾つかの歯車……!
これって、"距離滑り"!?
『────足が地面に接地する前に、空中に固定します。』
……なるほど!
足を宙に固定して歩けるのか!
そりゃあいいわ!
絶対に足音が鳴らないもの!
……ん?
あれ……これってヤバくない?
……これ、空、歩けるんじゃない?
さらっと、とんでもない事、してない、私?
「……まぁいいか」
てゆーか、前にユータの木の剣を、屋根からとった時、これ使えば良かったじゃないのよぅ!!
ここは、水引き門がある外壁だ。
(なんで、こんな所に……)
近くの納屋の陰から、様子を見る。
足音をたててないから、気づかれてないみたい。
クリームローブの人は、
ちょうど、水引き門の所にいる。
ひと月前、あそこをくぐった時の、
水に濡れる感覚を思い出す。
(……? 上を、見てる?)
外壁の上の方を見て、何をしているんだろう?
……ん、壁から離れていく……。
移動するの?
────トットットットッ!!
──ダンッ!!
「────!!」
ちがう!
戻ってきた!
助走をつけたんだ!
壁に向かって、飛んだ!?
────トン。
ローブの人が、
地面から3メルくらいの所で、
外壁に片手を着く!
────クルッ!
う、うわぁ!
手を軸にして、体が回転した!
頭が下! 足が上!
────ドンッ!!
「────!?」
あ……足で、手をついている近くの壁を蹴った……。
な、なんで、それで、体が上にあがるの……?
────ブワッ!!
壁に沿って、上にあがる、クリーム色のローブ。
シュッ……!
「…………うそぅ」
あの人……カーディフの外壁、飛び越えちゃった……。
「ど、どうしよう……」
「にょや! にょやにょや!」
え、"はやくおいかけろ"って……?
……うさ丸、アンタ、怖いもの知らずね……。