追跡者のうわさと、冒険者ランク
ちょうど、朝とお昼の真ん中くらい。
カーディフの街門で、
馴染みの門番のおっちゃんと
話しこんでいます。
どうやら、カーディフの山火事を、
調べてる人がいるみたい……。
「その人、なんで私を探してるんだろう……」
「いやまぁ、確かに嬢ちゃんは、あの事件の当事者だからなぁ。そのローブの冒険者は、昨日、ここに来たんだけどな? ……そこで、一悶着あってよ」
「え!? な、何があったの!?」
そんなすぐに騒ぎを起こすやつなの!?
私の地元で、なぁーにを、
やってくれてんのよぅ!
「あ、いや、一悶着ってのは、ちょっと言いすぎた! ほら、あの山火事の時、嬢ちゃん、アナとユータと一緒にいただろ?」
「え? ええ。それが何??」
「そのローブの御仁はな、まず、アナとユータに話を聞きに行ったんだよ」
「アナとユータに!?」
……正直、心配になるわね。
ローブを着た正体不明の冒険者が、
子供たちに話しかけるなんて、
そいつに悪いけど、けっこう警戒する。
いや、そりゃ私も、
ガキっちゃガキだけどね……?
度合いってモンがあるでしょう?
「……嬢ちゃんの考えてる事、わかるぜ。実際、その時に周りで見守ってた大人らは、俺を含め、それなりに、その冒険者を警戒してた」
「……それで? 一悶着ってのは、なにが起きたの?」
「アナがよ、掴みかかられたんだよ」
「──はぁ!?」
「両肩を、ガッ、とな……?」
「だ、大事件じゃないのよ!!」
女の子に詰め寄って肩ワシ掴みとか……!!
うさ丸バスターじゃ済まされないレベルよ!?
「おっちゃん、それ、黙ってみてたの!!?」
「あ、いや、まあ聞け。その、肩を掴んだ時の流れが、何だか妙でな……」
「え?」
「アナと、その冒険者はな────」
"アンお姉ちゃんが、助けてくれたの!"
"アンお姉ちゃん、ですか……"
"うん! アンティお姉ちゃん!"
"────!!"
"? ……冒険者、さん……?"
"────ガッ!!"
"えっ、わ!!"
"その人は、その人はどこにいるんです!?"
"や、やぁ、痛い! 離して!"
"おい! お前、子供に何すんだ!"
"はっ……すみ、ません……"
──おっちゃんの、一人芝居、終了のお知らせ。
「……私の名前を聞いて、掴みかかった……?」
「ゴホン……そうなんだよ。ローブで、もちろん顔は隠れてたんだがよ、なんか、血相変えてよ……随分、切羽詰まった感じだったぜ?」
「…………」
……いやな、感じね。
服の下で、背中をひと筋、汗がつたった。
その人の反応からして、
私の名前を前もって、知ってる感じだ。
私を知ってる冒険者……。
一番、可能性が高いのは、
ドニオスの冒険者だ。
爆走追いかけっこした仲だし、
顔なじみの人も、ちらほらいる。
私を訪ねてここへ来た……?
いや、それはない!
私は、あっちではクルルカンの格好をしているもの!
私の実家の場所なんて、
絶対知らないはずだわ!
どういうこと?
ドニオスからの冒険者が、
たまたまカーディフに来て、
私の名前を聞いたのかな……。
でも、何だ……何か忘れてる。
「あ……」
「? どした? 嬢ちゃん……」
ドニオスの街以外でも、
私の名前が広まっている場所……ある。
それぞれの街の、ギルド出張所だ……!
ドニオスの他に、
パートリッジ、
ホールエル、
ナトリ、
そして、王都。
中規模以上の街門の近くにある、ギルド出張所。
そこで私は、名を名乗り、手紙を預けた……!
そこには、私を見ていた冒険者が、何人かはいたはずだわ!
でも、クリーム色のローブの冒険者なんて、いただろうか……?
いや、ダメだ、ぜんぜん覚えてない。
ただでさえ、"ううう、義賊のカッコでこんな所入って、吊し上げられないかなぁ"って事で頭がいっぱいだったんだもの……。
途中からは、なんかもう、割り切ったが。
とにかく、周りの冒険者の風貌を覚える余裕なんて、なかったわ!
まずい……。
まさかとは思うけど、
手紙を区分けして出した時に、
"時限結晶"に気づいた冒険者が、
それを狙って、追ってきている……とか?
……うーん……。
「……おぅい、嬢ちゃん? 大丈夫か? 考えこんでいるようだが……」
「う……あ、なん、でもない! ありがとう、教えてくれて。気をつけるわ」
「ああ! 見つかっちまったら、人が多い所に逃げちまいな!」
「う、うん、わかった!」
「えっと、こっちを通っていいの?」
「ああ! 今日から嬢ちゃんは、こっちの、"冒険者専用"入口だぜ!」
門番のおっちゃんが、
いつも出入りしていた門とは別の入口を、
大きな腕で指し示す。
少し小さな印象を受けるが、
木製のアーチ状になっている場所がある。
カーディフだから、
ちょっと小さい作りなんだろう。
ここには、のどかさ以外、
なんにもないからなぁ……。
この街宛に、手紙を出す人は、
ほとんど、いないみたい。
ドニオスからの手紙は、一通も無かったし……
地味に、けっこう、ショックだったわ……。
まぁ、あそこはけっこう近いからなぁ。
直接、馬車で会いに行けってなるわよね……。
あ、私、割と、カーディフ推しなのよ?
「ちゃんと、ポケットには、ギルドカードが移してあるし……」
「ん? うつして?」
「あ、いや! こっちのハナシ!」
クルルスーツに、
入れっぱなしにはしてないわ!
キッティに、ギルドカードは、
"アイテムバッグ系に入れちゃダメ!"
って教えてもらったし!
「では、いざいざいざぁ……!」
「お、おうともよ……!」
いや……まぁ、街門を通るだけなんだけども。
"冒険者"としては、初めてこの街に入るワケで。
なんかほら、気持ち、入る、でしょ?
「──とうっ!」
ぴょんっ!
──どすっ!
「…………」
「……いや、嬢ちゃん、もっと普通に進んでいい……」
「へ……そなの?」
「にょきっと?」
──照れまふ。
テクテクテクテク……
今更だけども、足音が普通って、いいよね。
例の黄金ピエロの時は、キンキンいうのよ。
謎だわ。
────────ヴォン!!
「うぉッ──!?」
「ははっ! 嬢ちゃん、なんだその声!」
「なんか、ヴォンってした! ヴォン! って!」
「ああ! ギルドカードが、水晶球に反応したんだよ。嬢ちゃんは、まだドニオスしか行ったことなかったか?」
「え……あ、うん……」
えええ……?
いや、それが、超、行きまくってるんだけど。
流石に、おっちゃんに、
王都の周りの四大都市を
全て制覇した、とは言えん……。
こんな風に、
ギルドカードが震えたことって、
……あったかな?
あ……わかった!
乳装甲の下に、ガッチリ固定されてたから、
まったく気づかなかったんだわ……。
恐るべき、最強の乳装甲よ……。
「あ、そうだ! おっちゃん、私のギルドカード、見る?」
ランク"G"だけんども……。
「いや、いい。なぁ嬢ちゃん? ギルドカードは、あんまり人には見せないもんなんだぞ?」
「え! そうなの!?」
「にょやや?」
おい、うさ丸、耳たらすな。
前、見えん。
「……でも、クラスとか、ランクとか証明するのに、必要なんじゃないの?」
「街から街へ行くのは、"ギルドカードを持っている"ってだけで、管理できちまうからなぁ……わざわざ出したりはしねぇな」
「う、うん、水晶球の事だよね? でも、例えば冒険者内でとかは、なんでギルドカードを見せないの?」
「うーん、色々理由があるんだけどよ、イチバンは、"ランクは絶対じゃない"って事があるからだ!」
んん?
どゆこと?
「あ──……つまりな? 例えば、2、3人でパーティ組んだ時とかに、すげぇ有能なリーダーだなー! と思って一緒に戦ってたら、よくよく話したら、実はリーダーの方が、自分よりランクが低かったりするんだ」
「ほぅほぅ!」
「ギルドカードを見せびらかして、"オレすごいんだぜ?"的な空気を出すやつは、二流よ。俺は、CやDランクで、本当にすごい知識を持った人達を、たくさん知ってるよ」
「そっか……私、パーティを組む時とかに、互いのギルドカードを見せあって、だいたい同じランクの人が集まるのかと思ってたけど、そうじゃないんだ……」
「ああ……ランクより、教会で見てもらったレベルとか、"ゼルゼウルフ倒せるやつ"とか、"回復職の人!"みたいに、具体的な内容の声掛けで集まるのが普通だな! 勉強してない高ランクのアホより、皆を気遣い、チームで役割を果たす低ランク冒険者の方が、とても有益だったりするんだぜ?」
なるほど〜〜!!
ランクは、ある程度の目安にしかならないんだ〜〜!
勉強になりまする……!
ところで……
私はランク"G"の郵送配達職なんだけど……
そこんとこ、どすか?
ギルマスのパンチはよけれるよ!
しくしくしく……。