愛着と偽の正義
「うさ丸、お手!」
「にょきっと!」
「わぁ、それ耳だよ!?」
……ロロロとラララが、うさ丸たちと遊んでいる。
ていうか、うさ丸。
あんたの頭に乗ってるの、おおかみなのよ?
あんたうさぎでしょ……
そこんとこ大丈夫なの……。
「ふふ、ずいぶん人懐っこい魔物もいたもんだよ」
「え、ええ……世界は広いです……」
ん? ユニーク個体が2体……
逆か……
世界、狭いわね……
「この子、名前はなんてんだい?」
「あ、うさ丸と……」
「「カンクル!」」
「……!」
ロロロとラララが同時に叫ぶ。
「かんくるるぅ~~!」
……あんた、うさ丸の耳の間、気に入ったの。
綺麗に挟まってるわね。
「ほぅ……そのまんまだが、いい名前だねぇ……」
「そ、そんなんですか?」
「名前なんて、愛着がわけば、別に何でもいいんだよぅ」
「えええええ……」
「あんた、じゃあその、"うさ丸"はどうなんだぃ?」
「あ……」
うさ丸をじっと見る。
うーん、確かに。
うさ丸は……うさ丸ね。
もう慣れちゃったわ。
それ以外の名前は、ありえないとさえ、思えるな。
名付け親のキッティ、やるわね……。
目の前には、狼を乗っけた、兎が一匹。
「……しかし、あんたホント丸いわね……」
「にょきっとな!?」
「ははは! 変な鳴き声!」
「にょきっとな、だって~~!」
「かぁぁん、くるるぅ~~!」
確かにバスリーおばあちゃんの言う通りだわ。
こんだけ自分で、名乗ってるんだし。
愛着がわきそうね。
それに、ゼッタイ、忘れないし!
『────最後に本音が見えていますよ。』
う、うるさいなぁ。
覚えやすい名前がいい名前なんて、思ってないからね!
バスリーさんに言われて、空き部屋で着替えさせてもらった。
今は、アンティ・クルルではなく、アンティ・キティラだ。
最近は、塔の部屋以外では、ほぼクルルカンだったので、何だか妙な落ち着かなさがある。
……考えたら、ホントのわたしと、クルルカンの私、どちらの格好もできるこの場所は、とても貴重なのかもしれない。
テーブルの部屋に戻ると、クルルカンの仮面を被ったうさ丸に、カンクルがパンチを食らわしていた。
……ラビットとウルフの友情は、やはり、アレなのだろうか。
ロロロ達はとても楽しそうなので、良しとする。
「お! やっと普通になったねぇ。王冠は消せないのかぃ?」
「はは……普通て……」
ずいぶんな言われようね……。
「この子はどうやっても戻ってきちゃうので」
「この子……?」
「あ、いえ」
しまった。
「……なるほど。そいつも、仮面と一緒、ってワケかぃ?」
「い……」
『────。』
ちょこっと油断しただけで、これですよ……。
この王冠に、意思があるって、バレたな。
「……バスリーさん、鋭すぎますよ?」
「かっかっか。前に言ったろぅ? 年寄りは音音でわかっちまうんだよぅ」
「そんなのバスリーさんだけですっ!」
再び椅子に座る。
目の前で、2人のエルフと、2匹の魔物が遊んでいる。
あ、カンクルが仮面に乗った。
あれ、あったかいからなぁ……。
「あのコ……置いていくのかぃ?」
「あ……」
皆に気づかれないように、少しだけ声をしぼって、バスリーさんが問いかける。
私は、少し肩をすぼませ、両手を組んで、テーブルに置く。
「……はい、お願いしようかと。その……無責任だとは思うんですが……」
「いや、責めるために言ったんじゃないよ。そんな落ち込むのはやめとくれ」
「す、すみません」
「まぁなんだ、あんたも自分が魔物を生み出しちまうとは思ってなかったろうね」
「はい……」
「……なんだい、しょぼくれて」
ポロッと、言葉が漏れた。
「──自分勝手だなぁ、と思って」
「んん?」
少し、苦笑いしながら、喋りだしてしまった。
「……私、最初にあのウルフ……花狼が生まれるとわかった時、殺さなきゃ、って思いました」
「…………」
「でも、あんな小さな子が出てきて、知らないうちに、お水をあげたり、食べれるエサを探したりしてたんです」
「アンティ……それは」
「あの子、ユニーク個体の魔物です」
「……!」
「あの子の"素"になった魔物は、私がやっつけました……殺したんです」
「…………」
「すごい、強い魔物たちでした。私は怖がったり、怒ったりしてそれを倒したんです。私は、あいつらが嫌いでした。でも────」
目の前で遊ぶ、エルフと魔物。
──かんくるぅ~!
──お手っ!
──にょきっと。
──あははっ!
「……私、うさ丸も、カンクルも、好きです。勝手ですね……凄く」
少しだけ、後悔に似たものを感じた。
感じながら、言った。
「多分、私は……正義のために、あの魔物を殺したんじゃなかった……」
「…………」
「私は、私が嫌いだったから、私の大事な物を傷つけるから、倒したんです……それが、何だか、すごく自分勝手に思えてしまって……はは……」
バスリーさんは、目を瞑って、黙って、きいてくれている。
「ほんと、バカみたい。倒したオークの肉は、とても美味しかったし……何だか最低だな、私」
要するに、私は自己嫌悪をしてるんだと思う。
変なの。
ここで、バスリーさんに、こんな話をするなんて。
目の前で、みんなが楽しく遊んでいるのに。
何故か私は、私に自信が無くなっていた。
一ヶ月、何とか進んできた。
ここで、ひと息つけた。
だからこそ、出た弱さが、あるんだと思う。
「……ふふ」
「?」
「ふふふふふ……」
「……なんでわらうんですかぁ」
「はぁあァ……ませすぎだよ、アンティ」
バスリーさんが、目を閉じて、にやけながら、ため息をはく。
歳を重ねた人だからできる表情に、優しさがにじんでいる。
「お前さんくらいの歳じゃ、"悪い魔物をこらしめろ!" ……くらいの考えで、いいってのに……」
「…………」
「あんたの親御さんに、会ってみたくなったよ」
「は、はい?」
……なんでですのん。
「どうしたら、こんな真っ直ぐで、優しい娘が育つのか、聞いてみたいモンだねぇ……」
「え、ええ……」
ど、どうして、そんな流れになるのよ……?
「あの、ここだけの話……私、結構、魔物殲滅してますよ……?」
「だろうねぇ。あの実力なら」
「だったら、優しくはないでしょう……」
「なぜだぃ?」
「だって、自分の都合で、魔物を殺しているから」
「それだよ……!」
「あ……」
バスリーさんが、私を指さして、話の区切りをつける。
「あんたはさ、あの魔物の子らを見て、愛着がわいちまった。そして、こう思っちまった──」
「────」
「"魔物も、生活や、感情が、あるんじゃないか"。"自分は、自身の都合のよい時に、それを正当化して、魔物を殺す存在にすぎないんじゃないか"ってね」
「────────!」
ずっと正義の味方の格好をしてきたのに、
私は、全然、
"正義"になんて、なれていなかった。