助けを求めるもの
どん! どんどん! ……どん!
何か叩く音で、目が覚める。
どん! どどん!
「なに、ウチの、ドア?」
こんな時間になんなのよ!
ウチは晩ご飯やってない食堂なんだってば!
もぅ、久しぶりにその事を知らないお客がきたかな。
目ぇ覚めちゃうじゃない。
「~~! ~~!」
ん~、何か叫んでるし、これは父さん達も起きたよね。
しばらくして、ガチャ、と音がした。多分、父さんがドアを開けたんだ。ややこしいお客さんじゃなければいいけど。
「────! ────?」
「~~~! ~~!?」
うーん、うるさい。かんべんしてほしい。
……ダン、ダン、ダン。
階段を登る音がする。この足音は父さんだ。
足音が止まると、扉越しに声がかけられる。
「……アンティ、起きてるか」
「起きたわよ、そりゃ。誰かいたの?」
「いや、今もいる。それが、ログなんだ」
「ログですって?」
こんな時間に何やってんだアイツ。
「それがな、どうやら、お前に話があるらしい」
「私に?」
「すまんが、降りてきて、聞いてやってくれんか?」
「こんな夜中にどうしたってのよ……。」
「俺もそれは少し怒ったんだ。でもな、泣きまくって、お願い、お願い、って必死に頼んでくるんだよ」
? どうしたんだ? あいつ、いつもはふんぞり返ってるイメージがあるけど。なにか急ぎの用事なんだろうか。
ふ~、仕方ない。とっとと聞いて、お説教してやるか。
父さんを引き連れて1階におりる。食堂口に降りると、母さんとログがいた。ほんとだ、何か泣いてるな。
「こぉーらぁー! あんたなに、またユータとケンカ……」
「!!! あんてぃーーーーー!!!!」
話かけて目が合った途端、物凄い勢いてログが両足に抱きついてきた。う、動けん……。めっちゃ泣いてる。こいつこんなに泣くのは尋常じゃない。どうしたんだろうか。
「……時間のことは後で怒る。……どした、なんかあったの」
少し落ち着いた声で、きいてやる。
ログは少しだけ泣くのをとめ、ヒックヒックと、私の顔を見上げる。
「…………ちゃったんだ」
「あん?」
「ユー…………ゃったんだ」
「おい、ログ、男の子だろ、でかい声で言いな」
ログの目に、また、涙が溢れる。
衝撃の言葉を口にする。
「ユー、タだぢ、が、バーグベア、たお、しに、いっぢゃだ、んだ~~!」
…………。
……おまえ
……おまえ、ふざけんなよ。
……そんなことしたら、しぬだろ。
ガッ!!
ログの胸ぐらを、思いっきりつかんで引き寄せる。
「外か」
「ヒッ!!」
「外いったか」
「う"、う"ぁ」
「おまえ、おまえ何で止めなかった!! わかるだろ!! お前でもよ!! ふざけるんじゃねぇ!! こんな時に子供で外いって、どうなるかわかんねぇかよ!!!」
普段の接客の時には考えられない口調で詰め寄る。
ログは私より6歳ほど年下だ。でも今はそこに遠慮している場合じゃない。私のあまりの剣幕に、でも、ログは言葉を紡ぐ。
「とめた! とめだんだ! でもいうごときかなぐぇ、おればにぜものじゃないって! だいどごろの、火のませきでだおすっで、アナと、いっしょに!!」
「くそっ!! あいつらの両親は!! 知ってんのか!!!」
「めのまえの、いえっが、さわいでたから、たぶんもういないの、ばれて、るっ。おれ、それ、うえからみてて! こわぐなって、でも、ユータらの! 親にはこわくていえながった!」
「ばかやろう……だからって、何で、私のとこ来んだよ……」
ただ、時間ロスしただけだろうが……。
「いつだ」
「さ、3ジカくらい前」
「もう門しまってんだろ」
「みず、引き門ならっ、あいてるって」
! くそっ、いらん知恵つけやがって……。
「たいへんだわ」
「おれは門番に知らせてくる、ソーラ、隣を叩き起こして、ユータとアナの家に伝えに行ってくれ」
「わかったわ」
「! 父さん! 私も行く!」
「! お、おれも!」
「お前達が来てもどうにもならんぞ!」
「だからって家で大人しくできる!? 父さんなら!」
「……わかった」
「ログ! しぬ気で走んな!」
「う、うん!!」
夜警をしている門番の所に3人でいく。
ログは遅れがちだか、食らいついて走っている。
夜警をしている2人のうち、1人はおっちゃんだった。
「おう、どうしたデレク! ……アンちゃん、とログ? なんだ? 子供2人引き連れて」
「トルネ、子供が2人、外に出ている。ユータとアナだ」
「…………嘘だと、言ってくれ、デレク」
父さんの言葉をきいた瞬間、おっちゃんの肩からがっくりと力が抜けたのが、わかった。おっちゃんと父さんは長い付き合いだ。声質で、嘘か本当かなんて、すぐわかったはずだ。
「門は閉めたはずだ! 誰もでていない!!」
「水引き門を使ったらしい。ログが聞いている」
「クソッタレが!! コノボ!! 詰め所からいるだけ引き連れてこい! 油もだ! 捜索するぞ!!」
「は、はい!!」
もう1人の革鎧の胸当てをつけたお兄さんが走っていく。
後ろの暗い街の中には、ちらほらと火と声が増えていく。
小さな街だ。街門の前は村の名残がある。
2人の不在はすぐに伝わるだろう。
少しずつ騒がしくなる夜の街に、言い知れない気持ち悪さが胸にひろがる。
────そんな時だった。
……ぐぉぉぉぉぉぉん……
「────やめろよ、やめてくれよ。オレは、今日、酒を呑んでねぇんだよ」
おっちゃんが、夜の闇に、懇願するように、言った。