なんでいるんです? さーしーえー
ばばばばーちゃんこと、バスリーさん宅。
テーブルに人数分のコップが並び、みんなで座っている。
バスリーさんは、やっと私を直視して話せるようになった。
「は~~……いや~~あんた……。年寄りをあんまり笑わすもんじゃないよ。30年くらい若返っちまうじゃないか」
「若返ったんならいいじゃないですか……もう。この格好には、色々、ワケがあるんですぅ」
「かっかっか! いやぁ、しかし、それはすごいよ。あいつを思い出すねぇ!」
「あ、やっぱり、似てます?」
「雰囲気というか……とにかくそっくりだね! その王冠はなかったが」
「そ、そんなにですか」
実際にクルルカンに会った人を唸らせるとは……
アブノさんの再現度、ムダにすごいわね……。
多分、色んな絵本や書籍を見て、研究したんだろうな、あの変態……。
「その仮面……おあつらえむきだよ」
「……!」
そうだ!
この仮面、借りパチしてたんだった……!
か、返した方がいいかな?
「あ、あの、バスリーさん、これ……」
「もっときな」
「!」
にやりと笑い、バスリーさんに言われる。
……先を、越されてしまったみたい。
「で、でも……」
「……なぁアンティ」
バスリーおばあちゃんが、肘をテーブルに置き、
ぐっと、体を前に乗り出す。
「確かに、その仮面は、あたしの思い出がいっぱい詰まっている、大事なモンさ! でもね、だからこそ、アンタに持っておいて欲しいって、何故わかんないかねぇ?」
「……!」
大事だから、持っていて欲しい……?
「……アンティ。その仮面は……アイツは、あんたを助けてくれるかぃ?」
「……とても」
何度も、助けてくれてます。
この仮面が無ければ、本当に死んでいたかもしれない。
「ふん……ならいいんだよ。それは、あんたが今、必要な物のはずだ。そうだろう?」
「…………」
「……あたしは前に言ったね? それを持つのは、"縁"があるからだって。運命ってのは、あるって」
「はい……」
「アンティ。あんた、鏡見な! 不本意かも知んないけどねぇ、そいつは、よく似合ってるよ! "運命的"にねぇ!」
「ぐっ!」
「くっくっく。それに、そんな格好をして、今さら仮面だけしないなんて、そんな事をできるのかぃ?」
「う…………」
……そうなのだ。
私は今、正体を隠して冒険者をしている。
クルルカンの仮面があって、
クルルカンのヨロイを着た。
スキルの助けも大きい……。
もう、私の装備の重要な一部になりつつある。
そして、かなりの人前に、この姿で立ってしまっている。
それぞれの街のギルド出張所では、もうこの"クルルカン"で顔が通っているはずだ。
うう……
……今さら、外せないよぅ……。
「うぅ……お預かりしていて、よいですかぁ……」
「だから、前からいいって言っているだろう。あんたに預けたいんだよ! お嬢ちゃんも、あたしの大事なヤツの一人だからねぇ!」
「お、おばあちゃん……!」
ありがたかったり、情けなかったりで、私の声は弱々しくなる。
この仮面とは、本当に、長い付き合いになりそうだ。
「……しかし、お嬢ちゃん、そのナリでドニオスをうろついてるのかい? かっかっか! 子供が見たら、大喜びだろうねぇ!」
ぐうっ!
すでに、子供達に、何度か囲まれているとは言えん……
歩いてたら、よく、指さして笑われるし……
何故か酒場からお客さんが全員見に来て、マスターから苦情がくるし……。
とっ、年頃の乙女が、なんて道化なの……。
「……な、なんで泣きそうな顔するんだい」
「ううっ……やっぱり、呪いの仮面だぁ……!」
あの時、私の青春は、真っ金金になっちゃったんだわ……。
「……で、そろそろ突っ込んでいいかい?」
「は……はいっ!」
「このコ……何だい?」
「かんくるるぅ~~! くるくる、くるくる……」
しゃむしゃむしゃむ……。
「わぁ~~!! また食べた~~!!」
「おもしろい! かわいい~~!!」
ロロロとラララが、花おおかみに、むっさ精霊花、食わしとる。
お、おい、ええのんか。
貴重な花、なの、よね……?
「いや、ははは……」
「……今さら笑ってはごまかせないよぅ?」
「じ、実はですね……」
「かんくるるぅ~~!」
「……つまり、お嬢ちゃんが持っていた"おおかみの素"のようなアイテムが暴走して、精霊花を取り込んだ魔物ができたと、そういう事かい?」
「そ! そうです!! まさにその通り!」
なんてわかりやすいの!
さすが、ばばばばーちゃん!
三百歳は、伊達じゃないわ!
「あんた、何をやってんだい……」
「か、返す言葉もありません……」
しょぼん……。
「かんくる、かんくるるぅ」
しゃむしゃむしゃむ。
「あ、あの、今さらですけど、精霊花、こんなに食べてもいいんですか……?」
「「かわいい~~!」」
「う~ん……本来は、許されない事なんだけどねぇ……」
あ、やっぱりそすか。
「……アンティ。屋根、見たかい?」
「あ、はい。その……」
「"精霊花まみれ"、だったろ?」
「あ、はははは……」
うん、真っ白でしたね。
「私もね……群生した純精霊花が、こんなにも繁殖力が高いとは、知らなかったんだよ……最近は、家の中まで生えてくる始末でねぇ」
「うわ、中もですか……」
「ほれ。そこ」
「え……うわ!」
て、テーブルの下の床材のスキマ!!
気づかなかった……うわ。
精霊花が20本くらい生えてるわ……。
「最近、とうとう見かねて、引っこ抜いて、外に植え直してたんだよ……」
「あらんま……」
「うーんだから、こいつが家の中の精霊花だけでも食ってくれたら、とても助かるねぇ!」
「ほ、ホントですか! あ、でも、魔物なんですけど、大丈夫ですかね? 一応、肉はめちゃめちゃ嫌いっぽいんですが」
「肉、食わないのかい?」
「ええ……ミートボールあげたら、ひっくり返って、脚をバタバタします」
「ええ~~何それ~~!!」
「見てみたい~~!!」
「これ、アンタ達、可哀想だからやめな!」
「ははは……」
……よかった。
この子、ここに預けてよさそうだ。
新鮮なご飯がある方がいいからね。
「しかし、こんな精霊花の群生した場所に、こんな小さな魔物がいて、よく平気だねぇ……。よっぽど高位な魔物か、伝説の精霊獣なんかしか、入ってこれないはずなんだが……よしよし」
「かんくる~~♪」
あ、なんか普通に懐いてるな……。
「そうなんですか?」
「ああ……普通の魔物や、邪悪な存在は、この花畑には近づけすらしないよ。まったくこの子といい、お嬢ちゃんの側にいるヤツといい、どうなってんだか」
「へぇ~~……ん?」
"側にいるヤツ"……って??
「で? そっちの子は、何を食べるんだい? まさか、その子も精霊花かぃ?」
「え? バスリーさん、さっきから、何言って────」
「……にょきっと!」
「……………………」
…………。
………………。
なぜだ……。