⚙⚙⚙ さとがえり ⚙⚙⚙ さーしーえー
朝日が、登り始めている。
ここは、とても高い場所だから、光は遮られることなく、部屋に射し込んでいる。
あ……昨日、カーテン、しめ忘れたのね……。
久しぶりに、あの女の人の、夢を見た。
金色の目の、黒い服の人。
シャラシャラ鳴る、髪飾り。
いつも、私を膝にのせ、頭を撫でてくれる。
とても優しい手つきは、キラキラと光って、
夢の中でも、思わずウトウトしてしまう。
うーん、一体あのお姉さんは、誰なんだろうか……。
ふと、横を見る。
「────かん、くるるるぅ!」
「────にょきっっとぉお!」
シーツの上で、モフモフ大戦争が、起きそうだった。
え~~、こちらアンティ・クルル。
ただ今、ギルド受付カウンタ側まで、降りてきております。
うさ丸は、途中でロストした模様。
引き続き、作戦を遂行いたします……。
『……────幸運を祈ります。』
コソコソ……キョロキョロ……。
誰もいない……いないよね?
早朝だし……よぅし、今のうちだわ!
シュバッ!
「あ、アンティさんおはようございます!」
ズコ────!!
「……ちょっと、アンティさん! 床を顔面スライディングするのは止めてください! 床材が剥げますからっ!」
「お、お、おはようキッティ……随分はやいのね……?」
普通に受付カウンタにキッティがいた!
な、なんでこんな明け方に……!
「キッティ、あなたもしかして、徹夜!?」
「いやいや! 早番の日は、私はいつもこれくらいにはいますよ?」
「そ、そうなの!?」
う、受付嬢って、大変なのね……。
「それはそうと……アンティさん、その、でっかい鞄は何ですか……?」
ギクリ。
「え!? や、やだなキッティ……里帰りなんだから、荷物くらいあるわよ……」
「え……いや……アンティさん、魔法のマントに荷物、しまえますよね?」
「ぐっ! い、いや、すぐに使いたい物って、手元に置いておきたいじゃない?」
「…………」
「な、なに…………」
キッティが、超、ジト目である。
ほら、受付嬢なんだから、スマイルスマイル。
「……あやしい……」
「な、なによ……私が怪しいのは、いつもの事じゃない」
「いえ、今日は格好以外にも、あやしいです……。なぜそんな挙動不審なんですか?」
「あ、改めて言われると、失礼ね! な、なんでもないってば!」
「ほぅおぅお~~……?」
い、いかん!
かの塔の頂で、魔物を召喚してしまったなどと言えんっ!
これは逃げるが勝ちだわっ!
「あ! 馬車の時間だわ!? じゃあね!? キッティ!」
「え、アンティさん!? いってらっしゃい!? アンティさ~~ん!?」
その日、
あきらかに馬車など走っていない明け方に、
あきらかに馬車より速い義賊クルルカンが、
ドニオスギルドより走り去ったという。
「アンティさん……ウソ、ヘタっぴですね……」
さぁて、実家に帰る前に、ちょいと寄り道だわ。
森に入ってしばらく経った。
「ほら、もういいわよ」
ちょっと無理やり閉めてしまった、鞄の金具をはずす。
「くぃっ! かんくるぁ~~!」
腰にぶら下がっている大きな鞄から、花おおかみが顔を出す。
ふふ、耳がぶるぶるしてるわね。
「いや~~! まさか受付嬢の仕事が、あんな朝早いとは。危なかったわ!」
部屋に魔物を連れ込んでた、なんて噂たてられたら、えらい騒ぎになってたかもだわ。
「しかも、ユニーク個体だしなぁ……ん? そいやうさ丸もユニーク個体じゃないの……」
そ、そんなビビる必要なかったか……?
……いや!
もし、"勝手な事するなら家賃はらえ!" とか
言われてたら、泣きを見たわ!
さぁて、後は、ばばばばーちゃんがなんと言うか……。
あ! 仮面の事も相談しないと……。
視界一面の、輝く白い花畑。
その丘の上。
かわいらしい、お家がひとつ、建っている。
……建っている?
「うわぁ……」
家が……花に、覆い尽くされてるんだけど……。
これ、ホントに、あの家なの?
屋根も精霊花で白一色じゃないのよ……。
コンコン。
コンコン。
キンキンキン。
うぉっ。
ノックがグローブの向きによって、えらい金属音になるわね……。
足音といい……なんなのこのスーツ……。
「こんにちは──!! バスリーさんいますか──!? アンティで──す!!」
「「────!」」
「────!」
……ガタガタ、ゴトッ!
あ……、いるみたい……よかった。
ガチャ、ギィ────!!
「アンティかぃ? よくきた────……」
「あ! バスリーさん、お久しぶりです!」
「…………」
「……ん? バスリーさん?」
「「…………」」
あ、ロロロとラララも、いるじゃない。
「「「…………」」」
……目の前で、耳のとんがった老婆と、兄妹が固まっている。
……な、なんなの、その表情は……。
……ん?
あ……ああっ……!!
やばっ……!
私……今、アンティ・クルルだ!!
「……ぐっ」
「あ! あの!? こ、この格好はですねッ!?」
「ぐぁぁあっかっかっかかかっかっか──────!!!! あぁ、ア、あんたっ、なんて格好してるんだぃ!!! ぐぁかっかっかっかっかっかっかっか────!!!!」
「アンティだ!!」
「アンティが、変な格好してる!!!」
「あああああぁ~~~~……」
乙女の大切な何かがぁ……失われる……。
バスリーさんが落ち着くまで、かるく10フヌはかかった。