はじん⑥
俺っちは、布に包まれて、運ばれよる。
気が気ではなかった。
体がある時、俺っちは、人を泣かさんと死のうと思った。
でも、今の俺っちは小刀じゃ。
人を殺す事ができる。
……いやじゃ。
そんなの、嫌じゃ。
大姉の願いを、踏むような事はしとぅない!
ううう、ここは、やはり地獄じゃ……。
大男の住処に着く。
布を取られると、大きな女がいた。
こやつらは、殺し屋か?
女の髪と、目を見て、驚いた。
……俺っちと、似ちょる。
黒い髪に、金の目じゃ。
いや、少し、赤いか……。
このような女も、人を殺すか……?
大男が、大女に、俺っちを渡す。
お、木の板に、肉が乗っておる!
な、なんの肉じゃ!!
人かっ!!
ひっ、まさか!
あれを切るか!
「□□────!」
女が、俺っちを振り下ろしよる。
────パァン!!
な、なんじゃこの音は!!
お、な、な!
肉が、絶たれておる!!
な、なんと!
俺っちは、刀に成り立てやが、わかるぞ!!
まるで、刀身に油が着いておらん……!
この女、なんという腕じゃ……!
今の一撃、人の足でも飛ぶぞ……!
「□□□! □□□~」
な、なぜそんな喜びよる……。
うお、また構えよった!
やめろ~~……!!
肉が……細切れになっておる……。
ここまで、せんでもよかろう……。
よほど、怨みがあったか……。
んん、次はなんじゃあ!
……ん、ん?
…………。
……草ではないか。
……ん?
……あ、おい。
「□□□~~!」
────バシャシャシャシャ────!!
は、はやい……!
こやつ、只者ではない……!
と、とても、酷使された。
視界が小刻みに揺れるのは慣れん……。
今思うと、さっきの草は、毒薬の材料ではないか。
とても細かく刻んでおった。
何かに混ぜるに違いない。
…………!
なんじゃ?
人が、ぞろぞろと入ってきよる!
このような危うい者たちの所へ、何をしにきよった!
な!? や、やや子や、わっぱも、いるではないか!
か、帰れ!!
なぜそんな笑顔なのだ!
こやつらがその気なら、瞬く間に首が飛ぶぞ!
ぐ、ぐわああああ!!
「□□、□□□□□!」
「□□□□、□□□~~」
「□□□□□、□□□!」
「「□□□!」」
ん、な、なんじゃ……?
こやつら、顔見知りかぇ……?
むぅ……?
な、何か、変じゃ……。
ここは、何なのじゃ。
区切られた部屋におるので、よく見えん。
何やら、喋り声が絶えぬ所よのう……。
お、お! また、俺っちを使いよるか……!
お、今度は草か……。
一尺ほどの、白い棒のような草じゃ……。
んん……?
俺っちは、この草を見たことがあるど。
どこじゃったかな……?
……あ!
ああ!!
なんと!?
これは……葱じゃ!
これは、野の菜ではなかったか!?
大姉が、よく粥に入れてくれよった……!
少し太いが、間違いあらん!
…………。
………………。
……………………ま、さ、か。
女が、四角い銀の器の側に、俺っちを置いた。
俺っちが、面に、写っておる。
まじまじと、自らを、よく見てみる。
…………
……刃面が、平たすぎる。
……柄に、紐が巻いてない。
……反りが、全くない。
……大姉が、使っていた物に、似ちょる。
お、お、俺っち。
確かに刀じゃが……
これは……まさか……!
────"食丁"ではないかっ!?
ヾ(*´∀`*)ノキャッキャ