はじん⑤
……ここは、地獄ぞ?
燃えておるな。
夢か?
あの時の火事か?
……?
俺っちは、裁かれよるか?
ガッ!
体が、持ち上がりやがる。
う、動けん。
覗きこまれた!
な、なんじゃこいつは!
「□□□□□□□□□□……」
言葉はまるでわからん!
おお! 髭のすごいことよ!
なんという筋と肉じゃ!
ま、まさか、閻魔大王か!
ほ、ほんとうにおろうとは!
「□□□□? □□□□□……」
お、お、お。
あれは、"炉"か?
恐ろしいのぅ……。
まさか、地獄が本当にあるとはのぅ……。
大姉は、極楽浄土に行ったに違いない。
また会いたかったのじゃが……
仕方ない。俺っちは、畜生じゃからのぅ……。
変じゃ……。
閻魔大王が、何か考えとる。
俺っちは、何やら鉄の台に置かれとる。
体は全く動かん。
手は、足はどこへいった?
いや、首は千切れたな。
いま、俺っちは首だけか?
大王が俺を転がした。
鉄の台は、磨かれて、鏡のようじゃ。
えらいもんを見た。
な、な、な!!
────"魔石"じゃあ!!
俺っちは、この魔石を見たことがあるど!
"金を包んだ、黒の魔石" じゃ!
こいに写っとるは、俺っちの魔石じゃ……!!
ぐわわ!
ぐわわわ!!
も、もしや!!
俺っちは、死んだ後、心が石に宿ったか!!?
え、な、お!?
ここは、まだ、現世か!?
ど、ど、どうして……!?
ゴトッ……!
ひっ!
閻魔が何か握りよる。
槌じゃ!
で、でかい……!
ま、まさか……!?
お、俺っちを殴りよるか……?
ここが現世なら、何故、閻魔がおるんじゃ!?
ひぃ、や、やめりゃんせ……!
ぐわわわわわ────!!
閻魔は容赦がなく、俺っちは、"炉"に突っ込まれた後、殴り続けられた。
余りにもガンガン叩くので、驚きと恐怖が互い違いにきた。
途中から、恥ずかしくも、目を瞑り、大姉の事を考えとった。
守ってくれ。
守ってくれ。
大姉、守ってくれ────。
気づくと、俺は水に投げられ、湯気が立ち上っていた。
温うなった水から出て、俺っちは、目が覚めよる。
……気ぃを失っとったか!
ど、どうなったんじゃ。
やはり、俺っちは地獄に堕ちたか……?
お……?
閻魔に掴まれた。
おお!?
閻魔より、でかい者がいよる!
でかい!!
でかい男じゃ!!
む、待て。
待て待て待て……。
俺っちは、いま、魔石よな……?
よもや……。
俺っちが、小さくなったか?
そ、そうか……。
こやつら……人なんか?
お、お!
閻魔が、もう1人の大きな人に、俺っちを渡しやがる。
向きを変えられて、見られよる。
な、なんじゃ……。
廓客と違うて、真剣な顔じゃ……。
いや、今の俺っちは、女の体は持たん……。
色目など、成さんか……。
何を見ておるのじゃ……?
「□□□!! □□□□□!!」
わ、笑いよる。
豪快な、笑いじゃ。
暗い部屋から出よる。
明るい。
晴れておる。
ふと、側を見る。
か、鏡じゃ!
あ、おい、大男!
少し、俺っちを傾けい!
お、お! そうじゃ!
もう少し、もう少し!
あ………。
鏡に、小刀を握る男が、写りよる。
唖然とした。
────俺っちは、人殺しの道具になったか。