キミのナマエ
「 …── カンベンしてよね 」
アンティが呟いたのは、
クラウンが、
プレミオムズ、リビエステラ、エコープル、
そして、ブロンズ・ワークスの、
すべての角膜に、
コンタクト・レンズ型の
デバイスを転送したのと同時だった。
各自の片耳には、小さな歯車に、
光のような鎖が絡み、
イヤリングのようなソレは。
"神々の声"を届けると共に、
彼らの視界に、"前時代的"で、"最新鋭"の、
敵勢力の、リアルタイムの情報を、表示する。
未知のデバイスに、しかし、もはや、
誰も、驚きの声など、あげは、しない。
皆、見上げている。
── 空は、一面の "標的" で、埋まっている。
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『────:縮尺が……イカれています☼』
『>>>まったくだ……無茶苦茶だな』
「どういうこと?」
アンティが、クラウンと、カネトキの、
素早い返答を待つ。
先ほどの、"小型の戦闘機タイプの雨"、
とは、打って変わり、
今、頭上から降ってくるのは、
──"大型の爆撃機たちの墜落" である。
その、異様に長く感じる、
スロウ・モゥションの落下速度は、
まるで、" ストップ・アニメーション " 。
その大きさは、ちぐはぐ だった──。
『────言葉どおりです:アンティ……☼
────あの:爆撃機たちは:
────"縮尺"が、統一されていません☼』
『>>>今、シゼツとアップルの記憶データを元に、
>>>先代の神さまの言葉を借りるなら──、、、
>>>"第二改世界"の、"兵器一覧"の情報と、
>>>お空の飛行機さんたちを、付け合わせてる』
『──なによ、アレ……❖
── B-63/ZE爆撃機が……❖
──あんなに、大きいワケ、ない……!❖
──本来の大きさの、3倍くらい❖
──あるじゃない……!❖』
『──うおっほぉ……❍▽❍;
──逆に、あっちの M-3TFの後期型は▽
──あれだけの破壊力があるのに▽
──小さすぎるぜ……▽
──プラモデルの、1/100 や、1/144 じゃ▽
──ねぇんだゾ……???❍▽❍;;;』
マチマチの、大きさ。
まるで、たくさんの、適当に撮影された、
飛行機の写真から、切り取り、
空のキャンバスに、貼り付けたかのような、
歪な──、" コラージュ "。
勝手に、拡大と縮小を、
行われ、"編集"されたかのような、
まっくろな、飛行機の、雨。
あまりの光景に、聖女たる、
リビエステラと、エコープルも、
神獣たちの上で、狼狽する。
いつもの、桃色から、
より、淡白く発光する、
ふたりの御髪に、冷や汗が、絡む。
「……なんて、光景ですの……!」
『……クルルルルるるる……!!』
「どんどん、ふってくる……!」
『 に ょ わ ぁ ぁ ー !! 』
……BUUUUU──GUNNNOOOoooooo──……!!
空に、響き渡る、
その音は。
まだ、竜の声では、なかった。
『────エンジンの駆動音を確認☼
────私たち由来では:ありません☼』
『>>>……ッ! チッ……!
>>>見ろ! 機体が……機首を、
>>>上げやがった!
>>>あいつらは……落ちてこない!
>>>空を"旋回飛行"する気だ……。
>>>こいつぁ……厄介だよ!』
"爆撃機"たちの、"旋回飛行"。
それが────意味する ことは。
──しゅぅぅううウウウ・・・!!
「・・!! 、・・・── 」
危機的な状況で、
しかし、アンティは、
自分の、黄金の右腕から生じる、
焼きつく ような音に、気づいていた。
装甲のスキマから──白い、蒸気が、
立ちのぼっている・・・!
「・・、く・・・」
巨大な、空に伸びる、黄金の砲身たちも、
いつの間にか、その轟音のナリを、ひそめる。
視界は、ゆらぐ。
砲身と、アンティの片腕から、
白い湯気が、立ちのぼり続けるのは、
マイスナが、機転を利かせ、
攻撃中のアンティを、その神秘の"氷"で、
"冷却"、し続けていたからである。
「・・・・・」
「・・・・・」
刹那。
見つめ合う、アンティとマイスナは、
同じことを、考えていた。
( スキルが、進化して・・・
レベルが、あがって。
大きなチカラを使えるようになったけど、
でも、身体への負担が、大きい・・・ )
( まだ、アンティは、"熱暴走"は、
していない・・・。
でも、こんなに急激に上がる、温度差は・・・。
わたしも、本気で氷の力を、使ったら・・・ )
黄金の、天空の龍のヨロイ。
白銀の、天空の鯨のヨロイ。
とある、変態が生み出した、
神の領域に立つ、一対無二の装具。
だが、今、アンティとマイスナは、感じた。
改めて……、確信した。
この、すさまじき ヨロイのチカラを、
わたしたちは、まだ、
まったく、まるで、引き出せて、いない。
(( "名前"が 分かっていたなら、
ちがったのだろうか・・・ ))
にがい想いを、アンティと、マイスナは、
自身の、金と、銀の、手甲を見ながら、
刹那の合間に、思う。
彼女たちの "同調する呪い"が、
その、"真の力の解放"を、
いまだに、妨害する。
切ない、想いだった。
「・・・ごめんね、マイスナ。
私が・・この子の名前を、
知らないから」
「アンティ・・・だいじょぶ。
だいじょぶだよ。
そんなことで・・謝らないで」
白銀の鯨が、"ナユタ"と言うなら。
黄金の龍の、その、" 真の名 "は、
果たして、なんなのか──。
その、さいごの、" 歯車 " を、
アンティと、マイスナは、
まだ、知らない。
確かに、どこかに 繋がる、
その、" 鎖 " を。
この迷いは、ほんの、数ビョウの、" ゆらぎ " だ。
焼けついた、黄昏の砲身たちは、
ズズズ・・・と、地面の歯車の環に、
降下し、吸い込まれていく。
ギン---- ギン---- と、
マイスナが、特徴的な 足音を、鳴り清めながら、
アンティの、となりに、立つ。
彼女たちは、まず、自分たちが、
試さなければ、ならないことを、
知っている────。
「いこう、アンティ」
「うん」
キン・ギン・・・!!
金の左手と、銀の右手が、
しっかりと、繋がれた。
" 恋人つなぎ " 、って ヤツ だ。
同級生たちが、見守る中で、
金の髪と、銀の髪が、"接続"される。
光が行き交う、その様子は、
それを、初めて見る、同年代の子供たちには、
不思議な光景で あったに、ちがいない。
──それは、苦肉の策でも、あった。
ひとりだけで、大きなチカラを、
一気に、使い続けてしまったら。
わずかでも、とおくに、はなれ、
空間接続が、切れてしまったら。
この身が、
燃えつき、凍りつき、
お互いを、殺すというのなら。
わたしたちは、バカみたいに、
ともに、いよう。
いっしょに、泥を、
かぶり、続けよう。
ふたりの温度を、
ともに、殺し合おう。
わたしたちは、これから。
生涯を、連れ添う、
最愛の──" 敵 役 "、なのだから。
かがやく、つながった、うしろがみ。
アンティとマイスナは、
つないだ、その手を、
うえに、あげた。
ライケンという、
アンティの同級生が、
仲間たちと、うしろで、それを見ていた。
彼は、とても、不思議に思った。
彼女たちが、天に掲げた、
ふたつの、つながれた、うでが、
ひとつの、美麗な銃身 に なったこと も、
そうだったが。
ライケンには、どうしても、
その、輝く銃身の中に、収まったはずの、
ふたつ の、彼女たちの、うで が ────、
い っ ぽ ん の 、 う で に 。
なったように──、
おもえて、ならなかった からである。