はじん①
ここで、閑話シリーズをぶっこむ暴挙(爆)
おい! アンティを出せ!(●´ω`●)
という方は、ちょっと休憩⋯⋯
一部の徹夜組は、ちゃんと寝ましょうね!
↑どのくち
男が2人、俺っちの話をしよる。
それを木の籠ん中から、見よる。
「旦那。あんたの廓の、新しい遊女にどうや」
「えらい幼いのう……。なんや目つきも悪い」
「旦那、旦那やから言おう。確かにこいつは雑種じゃ。言葉も悪い。自分を"俺"と言うし、言葉の音も変じゃ」
「がはは、お前がてめぇの商品を貶すなど、雨が降る。言え。何が売り所じゃ」
「流石や旦那。こいつの目を見てみぃ」
「目やと?」
籠が、無理くり、傾けられよった。
ベタベタした俺っちの髪が、腰の方に動きよる。
「おお……おお……! "金"の目!」
おい、顔を近づけんな、汚い年寄りのにおいがしやがる。
「おい! こいつ、妖か!」
「半妖じゃ、旦那。どうやら、"岩鬼"と女の仔らしい」
「なんと! たまげたな! どこで見つけよった!」
「流れの遊女に、こき使われとった。その前は、山賊に囲われとったらしい。山狩りで拾った奴らが、売ったんやと」
「ほほぅ……」
ギラギラとした目で見くさって……
あいつらと同じ目じゃ……。
「して、それが何か」
「くく、孕まん。こやつ、人と交うても、孕まんのじゃ」
「ま、まことか!」
「山賊に慰みになっとって、腹ひとつ膨れんのが証拠じゃ。病ひとつ貰わんでな」
「面妖な……所詮、畜生か……だが、よい!」
「おぅとも旦那。病もせず、孕みもせん。これは永く持ちよるぞ……」
「かかか……! おもろいなぁ! この黒髪も、磨けば光ろう。おい、いくらじゃ!」
「まいど」
そうして、俺っちは買われていった。
世はわからんが、わかる。
ここでも、昔と一緒じゃ。
男に押し倒されんのじゃ。
飯はどうじゃろうか。
ずっと、岩や鉄を食わされとった。
それさえあれば、いい。
ガタッ、ゴトン。
俺っちの入った籠が、家の中に運ばれよった。
「しかし汚い……このままでは、ボロ布と変わらんな」
おめぇの茶色い着物のほうが汚かろぅ。
この欲にまみれた年寄りが。
「おい! 大! 大を呼べ!」
年寄りが、羽織を直し、声をあげよる。
「はい、こちらに」
女が応えて、走った。
「これを、水で叩け!」
「な……新しいお仲間ですか?」
「そうじゃ、お前が育てろ」
「…………」
女は、ポカンとしておった。
いきなりじゃったのじゃろう。
くそ爺は、小走りで奥に消えよった。
大と呼ばれた女が、籠に近づきよる。
「……この籠……鋸を借りたほうがええやろか……」
籠は金具を抜けば開きよる。
どんくさい女のようやった。
水を打たれると思うたが、湯の箱に連れられたので、驚いた。
「……浸かると湯がいかれよる。堪忍な」
そういうと、大は俺っちに、手桶でゆっくり湯をかけよる。
この女は、前まで住んでいた遊女と、違う顔じゃった。
「長くて太い、綺麗な黒髪やなぁ……」
湯から、泥のように滴る水じゃ。
よう、そんな言葉が出る。
「まぁ……あんた、その目」
「…………!」
こんなまっすぐ、他の目を見たことがなかった。
垂れた目。俺っちと同じ黒髪。
あまり美人ではなく、ふっくらとした女じゃった。
金の目を、怖がらん。
「きれいねぇ……」
そう言って、撫でよるので、調子が狂うた。
ふろ、という場所から帰り、大が持ってきた、白服を着とった。
くそ爺がきて、布を投げつけよる。
「おい、これを着せよ」
「な! 親様! これは喪服ですぇ!?」
大が持っている布は、黒かった。
「それがなんじゃ。よい布でできておる。勿体ないものよ」
「親様……」
そこで言葉を切り、歩き去る。
大は、唇を噛んでおった。
粥を出され、驚いた。
てっきり、岩や錆びた鉄などを食わされると思うとった。
白いむにゃむにゃに、草が入っており、初めて見るものに戸惑った。
「……大丈夫やぇ。わっちの粥は、天下一品や」
その言葉は、本当じゃった。
その温かさと、優しい味に、俺っちは夢中に食べた。
「ふふ……」
食い終わると、大は、壁にもたれ、俺っちを膝に抱きよった。
大はふかふかで、ぬくかった。
俺っちは母にさわった事はないが、こんななのかな、と思うた。
「そちら、名はなんと……?」
「……あらん。俺っちは、人ではない」
「まぁ……人でなくても、名前はありんす?」
「それは……」
「では……"花"と。花、わっちは、"大姉"とお呼びんさいな」
大姉は、天下で一番、似合わぬ名を、俺っちにつけた。