小さな勇者の旅立ち さーしーえー
ユータの顔を見ると、どうやらハシゴおじさんにかなりシメられたらしい。じゃあ、もっと広い所で遊びなよ……こんな所で力いっぱいおもちゃの剣を振り回すから、いつも花壇ひっくり返したり、屋根にのったりすんのよ。
屋根の上を見ると、おもちゃの木の剣はまったく見えない。キレイに上の方に乗っかってるようだ。
うーん、もし見えてたら棒か何かでとれたんだけど。私もハシゴおじさんには昔おこられた記憶があるので会いたくはない。ハシゴを使わずに上に上がる方法……そうだ。
「ねぇ、私が手品でとってあげるわ」
「てじな?」
アナがかわいく首を傾ける。
「アンティてじななんてできるのかよ」
「なんで呼び捨てなのよ」
ふん、こちとら歯車を出すのなら世界一のアンティ様よ!
……ホントに世界唯一の謎スキルだったらどうしよう。
「ほ、ほんとに剣をとれるの?」
「……まぁ、見てなさい」
小さな歯車はいっぱい出せるし、空間に固定できるのも確認済みだから……。
(クラウン、階段状に歯車だして)
『────レディ。
─────状況下に適応、展開します。』
にゅ、にゅ、にゅにゅ。
「「「わっ!」」」
目の前に金属質の円盤がいくつかでる。
すぐさま歯がはえていく。きれいなオレンジゴールドだ。
ゆっくりくるくる回っている。
「なにこれ!」
「かわいい!」
かわいいか? その感覚はちょっとよくわからん……。
歯車たちは、ゆっくり上にあがっていく。ある高さでひとつが止まり、また少し上に行くとひとつとまり……。
「はい完成」
「す、すごい」
はぐるま階段、でっきまっした~~。
ちょうど建物の裏でよかったよ。多分誰にも見られていないはず。
……ていうか歯車、回ってるじゃないの。
足のせられないでしょうが!
「とまって」
ぴたっ、と全ての歯車が動きを止める。
「わぁ~!」
「アンねぇ、こんなことできるんだ……」
「びっくりだ……」
そーね、びっくりよ。
私も数日前までは、こんな事できるとは思ってなかったよ。
もっと魔法に夢を抱いていたわよ。ぐすん。
「よ、っと」
ぐにっ。
な、何か弾力があるんだけど。ちゃんと固定できてるの……
いきなり落ちたりしないわよね。こんな所で転落死はシャレになんないわ。
「よ、いしょと」
お、おお乗れた。でも何かやっぱり妙な反発がある。
歯車は硬いんだけど、その下の空気が弾力のある固まりになっている感じ。クッション性があって、ちょっと乗りにくい。
1段、1段、確実に登っていくことにする。
びよよよよ。
わっ、びっくりした。
後ろの足を離したほうの歯車がビヨビヨ震えている。
見えないバネで地面と繋がってるみたいだな……
てか、こわっ!! 下見ちゃったじゃないのよ!
いや、こわっ!! 足場ちっちゃ、こわっ!!
内心ガクブルで屋根と同じ高さまで登りきる。
あったよ……。このやろう……。
ちょっとはみ出ていればいいものを……。
さぁ、おり……こえぇ……。
「はぁ、はぁ」
かなりそぉ~っと、そぉ~っと、降りてきたので、超疲れた。
普段使わない筋肉が痛い。2度とこの方法で登り降りはしないと、心に決める。
「ほれ、大事にしなさいよ」
「か、かんしゃする!」
「おねーちゃんすごいねー!!」
「なんなんだ、これ……」
しゅぱ!
ログが、浮いたままの歯車に触ろうとしたので、慌てて歯車を消す。
「わっきえたぞ!」
「は、は~い、手品おしま~い」
「え~もっとやって~」
「だーめ。そうだ、あんた達もう知ってるだろうけど、今日は外に出ちゃダメだからね。バーグベアに食べられちゃうわよ」
「たべられない! おれがたおす!」
「むりだって……」
3人に外を出歩かないように念を押して家に帰る。
食堂のお客さんはいつもよりか少なく、いる人もバーグベアの話題一色だった。両親に、閉門が長続きしたら仕入れがままならないんじゃない? ときいたら、それはそん時に考えりゃいい、と言われた。そりゃそうだ。
────もうすぐ、日が暮れる。
「──これで、これでバーグベアをたおすんだ……」
「ユータ、なにしてるの?」
「わっアナ。なんでここにいるんだ」
「もーすぐ、まっくらになるのにユータがいえからでてきたからー」
「ふん、なんだ、バーグベアでもたおすのか」
「ログ! おまえもいるのか!」
「いちゃわるいか! このにせものゆうしゃ!」
「おれはにせものじゃない!」
「やめようよー! けんかだめって、アンおねぇちゃんもいってたでしょう!」
「みろ! これを!」
「? なんだそれ?」
「火のませきだ!」
「アナ、それみたことあるー! 台所にあるやつだよね!」
「そうだ! もりのまものは、火にちかづかないって、もんばんのおっちゃんがいってたんだ!」
「ば、ばか、そんなんでたおせるわけないぞ」
「うるさい! これと、ゆうしゃ剣があれば、むてきだ!」
「でも、もう門、しまっちゃうよー?」
「だいじょうぶだ、水ひきの門は、さいごにしまるんだ! こどもならあそこから出れるんだ!」
「お、おい、ほんとうにいくきか、やめろ、おかあさんらにおこられるぞ!」
「うるさい! おれはおまえみたいによわむしじゃない!」
「な、なんだと!」
「おれはゆうしゃなんだ! みてろ! おれはいく!」
「まって~アナも! アナもいく!」
「おい、まて、ふたりとも!」
………………………。
「お、おれはしらない、しらないぞ。おれはとめたからな、しらないんだ……」