悪約御礼、手ノ成ルホウヘ。梦[ゆめ]⑤
挿し絵を描く時間がないが?(*´ω`)
『肉を食うぞ』
『本当なのか? 信じられない……』
『俺たちも食われるんじゃないのか!?』
『今のところ、従順な ようだがね……はっ』
『他の機体は、どうなったんだ!?』
『何故か、ああなったのは、ブルースカイだけだ……』
『パラシュートで、ピクニックしながら見たぜ……。
アンタ以外の機体は、あっという間に、肉塊さ……』
『どうなっているんだ』
『その腕は……大丈夫なのか』
『感覚は鈍いが……滑らかに動くようだ。
中身は どうなっているか……考えたくもないが』
『頭部まで達したら、どうなってしまうんだ……』
『ちょっと待って、まだ、混乱してる……。
いったい、どういう事なの……』
『世界が、どうなってしまったかなんて、
俺たち、バカな パイロットにとっちゃ、
計り知れないことさ』
『誰も、こんなこと、理解できるもんか……。
見たままを、受け止めるしかない』
『……仮説を立ててみた』
『なんだと?』
『恐らくだが……本来は、あの黒い女神は、
空からは倒せないようになっているんだ』
『あんなものが、女神なもんか……。
最初は、天使の親玉みたいなのが、
出てきていたが……』
『ああ。あの金色のビッグ・レディは、
途中で、INKを被ったみたいに、
切り絵のシルエットみたいに なっちまった……』
『……フン、”フリーダム・レディ” とやらを、
取り壊さずに、とっときゃ良かったんだ……。
デカい女同士、説得してもらえただろうに……』
『……”自由の女神”のことを、言っているのか?』
『依田話は よして。
……空からは倒せない……、とは、
どういうこと?』
『そのままの意味だ。仮定の域を出ないが……。
あの黒い巨大な お嬢さんの足元には、
例の……”迷宮”が存在する』
『……”四聖の迷宮”、か』
『地上部隊から、報告が上がってたヤツか』
『バカげてる。魔法やら剣やらで、
あんなモンを、倒せるっていうのか』
『ミサイルよりは、女神に効きそうだがな』
『実際に、”冒険者ども”、と協力した陸軍は、
まるで……”ゲームじみた”、”ダンジョン”の存在を、
確認してる』
『バカなゲーマー共は、非常に協力的だったと、
報告を受けているね』
『そんなヤツらが……俺たち軍人と、
渡り合えるって言うのかよ!?』
『貴重な戦力なようだ……。少なくとも、
今は取り締まるよりも、手を取り合った方が、
良さそうだ』
『結論を急ぎたい。どうなの?
空では なくって、まさか……、
その、”迷宮”とやらを、
攻略しなければ、ならないって事?』
『どうも、そのようだ。陸軍と共に動いている、
”冒険者”たちの中で、特に戦力になる、
5人の戦士と共に、かなり奥地まで、
戦い進んでいるようだが……』
『……”戦士”、ねぇ……』
『……”迷宮”の最深部、手前には……、
こう、刻まれていたそうだ。
”空の虚構に通ず力は能わず”。
”無は有に、有は無にへと、帰すだろう”──と』
『……”ゲーム・マスター”からの、
お優しい、ヒント、ってやつか……?』
『……。”無は有に、有は無に……』
『まさに、俺たちに起こったことだろう』
『バカな……。じゃあ……、』
『ああ。上空から、あの巨像に近づいた者は、
人間は、”人形”に……。
戦闘機は、”肉塊”に、なるってことだ』
『……本気で言っているのか……』
『俺の腕を見ろよ。どうだ。はっ……。
俺が ガキの頃に こうなってたら、
大喜び してたかもしれん』
『そんな……。接近するだけで、
体が……無機質の物質に、
置き換わると言うの……』
『不思議な気分だ……。
この駆動人形のような手が、
あの……立ちすくむ、巨大な女神に、
どこかで……繋がっているような気がして、
ならないんだ』
『隊長。もう、あれを女神なんて言うな。
仲間が何人、やられたと思う』
『お前の言うとおりだ。すまない』
『副座席に乗っていた奴は、どうしたんだ?
脳みそまで人形になっちまったのか?』
『首の上は まだ、体温がある。
大好物のパニーニが飲み込めねぇって、
嘆いてやがった』
『アンタの隊の飛行機 乗りは……、
みんな、メンタルがイカれてやがるのか?』
『そうだ、飛行機、だよ!
なんで、アンタらの機体だけが、
肉の塊ではなく、
あんなファンタジックな姿に、
なっちまったんだ……?』
『それだ……。ブルースカイ以外は、
みんな、空で、生焼けの、
ハンバーグの種みたいになって、
地面に叩きつけられちまった』
『……”肉”の中から発見された”人形”の中で、
動き出す個体は、隊長と、副操縦士さん以外では、
見つかっていません……』
『落下の衝撃で、みんな、
ガーリック・チップみたいに、
砕け散ってるそうだ』
『何故、隊長たちだけが……』
『アレと、意思は、
疎通できるんですか?』
『……わからん。ただ、アイツには、
ハンバーグとは違って、翼が あるからな……。
もちろん、変化が起きた時は、驚いたが、
どうも、アイツは、俺の言う事を、
聞いてくれる気がして……』
『オイ。聞いてくれ!
”ブルースカイ”のヤツ、貯蓄している泥水を、
80リットルほど、飲んじまったんだが……』
『濾過 前のやつか? やれやれ……』
『まだ、人は食われて……ないんだな?』
『アイツは……旧型の水素エンジンを積んでいてな。
今の時代には珍しい、フレアバースト式の、
燃焼機関だったんだ』
『水素エンジンですって? 隊長の機体が、
博物館 行き、一歩 手前だっていう噂は、
本当だったのか……』
『旧式の戦闘機が……有機体に変換された場合、
あのようになるって事?』
『それしか、考えられない……のではないか?
あの、黒い女王様は……つまり、
” あべこべ ” の、魔法使いなのさ』
『なぁ……整備班の女の子が、
”ブルースカイ”に、ベロベロ、
舐められて いるんだが……』
『食われかかっている訳では、ないんだな……?』
『隊長の戦闘機は、前世で、
猫か、なんか だったのか?』
『……俺は、アイツと、もう一度、
空から、行こうと思う』
『……!? ぁ、なんだって? 隊長!
今、アンタ……何と言った!?』
『……おっしゃっている意味が、分かりません』
『アイツはな……俺の、親父と、爺ちゃんが……、
ジャンク同然のパーツを、人生を賭けて、
組み上げた機体だ』
『おい、冷静になれって。
アンタ、大事なことを、忘れてる』
『そうよ……! もう変化してしまった、
あの子は、そのままかも、しれないけれど……!』
『隊長! アンタは……次に接近すれば、
本当に……』
『……ロボットに、なっちまう、ぞ……!?
体温の無い、”人形”に……!』
『もし、”迷宮”、とやらでしか、
アレを倒せないのなら、あなたが……、
これ以上、空を駆ける必要は無いわ』
『……、……。なぁ。俺は、思うんだ。
アイツは……アイツの、”ブルースカイ”の瞳は、
どうも……そうだ。親父と。
親父と……爺ちゃんの、あの眼と、
そっくりな気が、して、ならない……』
『おいおいおい……よせって。
悪いことは……言わねぇ』
『そうだ……”心”が、籠っていた。
あの機体には……そうだ。
”情熱”が、籠っていた。
つまり、だ。身体が、変わっちまっても。
肉が、プラスチックに、なっちまったとしても、
”心”は……そうだ。ソレに、
”収まってる”もんは、変わらないんだ』
『ホラー映画の主人公にでも、
なるつもりですか、隊長』
『心があるのなら、俺は、戦える』
『……無謀です、隊長』
『地上部隊の攻略は、遅れている。
聞いているだろう。銃では超えられない壁が、
もう、出現している』
『あなたまで……失っては』
『空から……得られる情報が、
まだ、あるかもしれん』
『やっぱり、イカれてるぜ……』
『飛んでいて分かったが、
あの黒い巨像に近づくと、
”変換”が進み、
遠のくと、緩やかに、治まるようだ……』
『……でも! 完全に”変化”してしまった、
”ブルースカイ”は、あの状態から……、
戦闘機に戻る兆しは、見せていません……!』
『隊長。アンタ、人間に、
戻れなくなるぞ……』
『アイツに乗った時点で、
多くの覚悟をしている。
地上は、もう閉鎖されている。
地下を、”彼ら”に任せるなら、
俺たちは、俺たちの出来ることをしないとな』
『……隊長! ”ブルースカイ”を、見ましたよ!
なかなか、可愛いですね!』
『おまえ……!』
『まさか、コイツ』
『ええ……副操縦士さんよ……』
『なんで、あんなに、笑顔なんだ……』
『ふふ。おう、元気か、兄弟』
『隊長も、なかなか、
イカしたボディですね!
はは、長生きは、するもんです』
『ふ。まだまだ、若造かと思ったが?』
『いやぁ、この、ご時世ですから。
軍人にしては、楽しんでる ほうですよ。
それに、子供のころから、夢だったんですよ。
こんな、スーパーヒーローみたいな体に、
なるってのがね!』
『……、……』
『……俺は、アイツに乗って、もう一度、
飛ぼうと思う』
『いいですね、ついて行きますよ!』
『ちょっと!』
『ミサイルは効かなくても、
”ブレス”は効くかもしれん』
『ええ。オレ、アイツの眼を見ました。
あいつは仲間ですよ、わかります』
『……ふ、お前が相棒で、良かったよ』
『……とめても、無駄なのね?』
『バイオ・スーツの調整を頼む。二人分だ。
この体に、どこまで機能するか、分からんが……、
人体が、どのように無機物に変換されていくかは、
重要な記録になる』
『ははは、オレ、もう、生身、
首だけですけど』
『アンタ、おかしいよ……』
『よし、偵察任務を、続行する。
”ブルースカイ”は、まだ、座席のみは、
残っているんだな?』
『はい! 確認してきました。
バッチリ、複座式ですよ。手綱でも着けます?』
『悪くないな。機銃用のロール繊維は、
残っているか?』
『隊長、おれ……何て言ったらいいか』
『カメラでも、積んでいけよ……。
いい、B級ホラーに なるぜ……?』
『もちろん、そのつもりだ。
取れる記録は、すべて、後世に残す』
『隊長……』
『ふふ。それに、俺たちが撮る映画は、
B級ホラーじゃあない』
『ははは、そうですね』
『” ドラゴン・ライダー ” ってのは、
ロマンが あるだろう? 』