クルルカンと臆病ジャンプ さーしーえー
月末試験まで、残り10日をきっている。
カーディフに帰る日は近い。
色々な事があった。
呪われたり、
落ちたり、
襲われたり、
咲かせたり、
認められたり。
全部は話せないかもしれない。
でも。
父さんと、母さんに、話をするのは、楽しみだ。
一方で、試験の事が頭に過ぎる。
……うぅ、やな感じだ。
成績云々が、ではない。
みんなと顔をあわせるのが、だ。
私は、魔法が使えない。
だから、あそこから、逃げてきた。
今、使っているチカラは、スキルでは、ある。
でも、魔法を使っている訳では無い。
無限の空間を使った、魔法ではない、"手品"。
やれやれ……まさに"道化"だわ。
もちろん、自分を見つめて、やれる事を探し、進んだ。
そして、確かな成果は、あった。
何人かの人の想いを守れたし、
たくさんの手紙を届けた。
でも、それでも。
「私は私の道を見つけた!
だから、逃げたんじゃない!」
そう、言いきるには、私は臆病すぎた。
私が教室に入れば、みんな、みんな思うはずだ。
「逃げた奴が、ノコノコ、試験だけを受けに来た」
……ぜったい、そう思うよ。
──パチンッっ!
両頬を、叩く。
あ〜〜やだやだ。
あ〜〜〜〜やだやだやだ。
アンティ、しっかりしなさい。
もう、そこは割り切ろう。
バカにされるわ。
確定よ。
しょうがないのよ。
だから、あきらめなさい。
あきらめて、うごくのよ。
絶対に、止まってたら、良くはならないわ。
だから、あきらめて、うごく。
そこに、まず、片足つっ込むのよ。
じゃあ、多分、いやなこと、半分くらいは、終わるわ。
嫌なことに、あきらめて、足を踏み入れなくっちゃ……。
あきらめて、前に進むことを、あきらめちゃだめだ……!
それが、こんな私にもできる、未来への進み方なんだから!
『────案。試験当日は、深めの帽子等で、クラウンギアの隠蔽を推奨。』
「うわぁ……試験、3ヶ月分くらい、まとめて受けれないかな……」
王冠なんかつけてたら、イジられまくるわよぅ……。
……カリカリ。
真面目に勉強してます。
座学は割と得意だ。
色々考えて、なんだか逆に、落ち着いている。
落ち着いていたのだけれど────。
……コルルゥ──────ン……!
……コルルゥ──────ン……!
……コルルゥ──────ン……!
「…………うおぅ」
一度、聞いたことのある、
鐘の音が、耳に入った。
あのベル、すごい聞こえるわね……。
40メルトルテは離れてるはずなのに。
空気を震わす、よく通った音だ。
けど、さぁ……。
テスト勉強くらいさせておくんなまし……。
アブノさんから徴収した部屋着を脱ぎ、ぱんいちになったら、もう馴染みつつあるあの格好を装着する。
「クラウン、"変身"!」
『────レディ。装着変身シークエンス。』
きゅうううううううん!!
シュルルルル────!
両肩から吹き出したマントは、私の肌を隠す。
────ジャキジャキ!
────カシャカシャ!
────パシュパシュ!
足元と、手元から、黄金に包まれていく。
装甲の亀裂がじわじわと塞がり、身体に密着する。
くるくるくる────……
目の前で、乱回転していた仮面が、ピタリと、いつもの向きで止まる。
そのまま、私の方へ────……
────カシュ! ガチン!
シュバッ……!
『────装着完了。クルルカンスタイル。』
「ひゃーい、クルルカンでーす……」
イマイチやる気のない、きんっきらきんの娘が、そこにいたとさ。
下を見ると、やっぱ、高い。
まだ、ちょっと怖い。
でも、一回やってるしな。
下に見える、受付天窓には、誰も見当たらない。
私がどこに降りるか、よくわかっているみたい。
……やれやれ。じゃあ、期待に応えてあげますか!
「……この姿の時は、臆病な、女の子じゃダメだ」
世界に一人だけの郵送配達職は、空中に、身を任せた。
例のデカすぎた絵です(*´﹃`*)