星と白花の黄金考察 下
「刃物……ですか」
「いいかね、マリー君。
小さな刃物ほど、
個人の性格や、技量というものが、
よく、見えるものだ。
これを、見たまえ」
「これは……普通の封筒ですね。
10通?」
「綺麗に、切り裂かれているだろう」
「たしかに……寸分の、
狂いも、ありません」
「最初はな、マイスナ君の方が、
剣技に優れていると、
思ったのだ。彼女は……、
何処からともなく出した、
ミスリルの刃で、
何百枚も重なった、
ワラ紙のポスターを、
一刀で、斬り落としていたからな……」
「私も、起きてから拝見しましたが、
1番、上と、下の、ポスターを、
重ねても……まったく同じ、
大きさでした。今から思うと、
信じられない技量ですわね。
さすが、プレミオムズ……と、
言ったところでしょうか……?」
「"二人一組"と聞いて、
まず、思ったのは、
片方が運搬、片方が護衛という、
役割分担だ。だが──……」
「そうでは、ないと?」
「封筒がな……ひとつ、
足りなくなったんだ」
「は、はぁ……」
「花糊は、あったんだ。
ただ、封筒は、切り出さねば、
ならなかった」
「……それを、アンティさんに、
頼んだ?」
「空に舞った紙が、
ペーパーナイフで、
封筒のカタチに、
斬り落とせる、訳がない」
「……」
「は、は。アレだな。
彼女たちは、多忙に なると、
少し、常識を、置いてきぼりに、
するらしい」
「……空中に舞う紙を、
正確に、あのような鈍い刃物で、
斬り抜くなど……"魔法"です」
「あれは、暗殺者の技術に近い。
アンティ君も、間違いなく、
達人の域だ」
「そこまでの……」
「身体能力も、おかしい。
彼女たちは、
隠している、つもりだったようだが、
上部の、本棚の書籍を取るのに、
何度も、普通にジャンプしていた」
「……あの本棚は、中段でも、
13メルトルテは、ありますが……」
「うまく、本棚の影に、隠れていたが、
ふふ……天井に反射する光と、
本の隙間から見える影で、
丸わかりだった。
弾み方も、おかしい。
トン、と、踏み込むだけで、
弧を描くように、
真横に、飛ぶ──。
あの本棚の島の横幅は、
7メルトルテ、あるのだから、
冷静に考えれば、異常だ。
あんな姿勢では、不可能だ」
「……彼女たちの運搬速度は、
激しいものだと、聞きます」
「思うに、彼女たちは、
殺しながら、直進するのだろう」
「まさか……」
「簡単なことだ。
まっすぐが、いちばん、速い」
「……。他の、プレミオムズの、
皆さんは……知っているのでしょうか?」
「おそらく、そうだろう。
ただ、運ぶ者が、
気に入られる、はずがない。
いや……アレらは、気立てが良い。
性格も、気に入られているのやもな」
「……たしかに。良い意味で、
少女っぽいですわね?」
「うむ。だからこそ、
あの能力は……目立つ」
「運搬能力だけでなく──、
戦闘能力も、Aランク相当だと?」
「……率直な質問だが、マリーよ。
"総合的な能力"とは、
その、すべてが……、
"比例"すると思うか?」
「は、ぃ……? 質問の……、
意味が、よく……」
「……。あの二人は、間違いなく、
あの分館にある書籍の知識を、
すべて……把握している」
「その、ようですね。
たいへん、助かることです」
「彼女たちが、あの部屋に入ったのは、
数回だな?」
「はい」
「つまり、そういう事だ」
「……」
「時間を考えれば……ぜったいに、
有り得ない」
「……"ユニーク・スキル"だと?」
「おそらく、彼女たちは、
その場で、すべての書本の"情報"を、
"読み込む"ことが、できるのだろう。
前に……"立った"だけでな」
「……、……"本を、開かずに、読み取る"」
「そうで無ければ、説明が、つかぬ」
「……本当ならば、
とんでもないスキルです」
「情報は、すべて引き抜かれ、
街と街を、一昼夜にして、駆ける」
「……、……。
"ドニオスギルド"は、把握、
しているのでしょうか」
「あんな、仮面を着けさせているのだ。
当然、そうだろう」
「どこから……あんな人材を」
「西の巨人は、たいへんに有能なようだ。
あれは、"走る宝"だ、マリー。
しかも、ふたつ、ある」
「……」
「それが……厄介だ。
奪いあえて、しまう。
あれなら……王城で働いていた方が、
まだ、安全なものを……」
「……! で、では、
アバンテ様が、あれだけ熱心に、
勧誘、なさっていたのは……」
「半分は、本心だ。
あれらは、素晴らしい。
半分は……ここが、確実に、
安全だからだ」
「……アバンテ様……」
「……ふ、ふんっ///。
ま、まぁ、だからこそ、
あんな物騒な、護衛が、6人も、
ついているのだろう」
「……はぃ?」
「食後、最終の資料整理を、
している時──。
途中で、いつの間にか、
見慣れぬ、給仕が6人、
茶を、出してきただろう」
「そ、うでした。
冗談で、斬りかかられて、
おいででしたね、ホホホ……♪
あの仮面……あのお二人に、
ソックリで、ございました。
あの8人で……ひとチーム、
と、いうこと、なのでしょうか?」
「ふん……。"金"、"銀"、"銅"、か……。
出来すぎて、いるな」
「アンティさん達に、
メイドを寄越しましょうか、と、
提案したら、断られてしまいましたね」
「二人とも、苦笑いを、していたな……。
ふふふ……、本来は、
まずい事だと、分かっているのだろう」
「……? お抱えの使用人を、
勝手に、入室させたことを、ですか……?
その……勝手に、"元・貴族様"だと、思い、
黙認して、しまったのですが……」
「あの時の、"羊雲姉妹"の、
顔を、見たか……?」
「ぇ……? ぃ、いいえ……?」
「……ふ、私も、かの姉妹の剣士の顔を、
今日、初めて、まじまじと見たが……、
ふふ、あれは、複雑そうだったな」
「ぁ、アバンテ、男爵、さま……?」
「旧敵と、あのような形で、
触れ合って、おればなぁ」
「……???」
「ふ、マリーよ。
"銅色の6人組"と聞いて、
まず、何を思い浮かべる」
「……!!!?
な"っ……!? ぁ、ありえません!!!!!」
「あの態度、動き……。
思ったより、忠義を、
尽くしているようだ」
「ぶ、ぶぶ、ぶ……!?
──"銅の刑死者"……ッッ!?!?!?」
「現在の頭領は、
あの、二人なのだろう」
「ぶっ、ブロンズ・ワークスがっ、全員っ、
王城内に、侵入しているっ・・・!?!?」
「慌てるな、マリーよ。
あの、剣士、二人が、
複雑な表情とはいえ……、
黙認していたのだ」
「え、Aランクの暗殺職が、6人も、
王城に、侵入しているのにですかッ……!?」
「ふふふ、ずいぶんと、面白いことに、
なっているようだな?」
「わ、笑い事では、ないのですが……!?
へ、陛下に、なんと、
ご説明、すれば……??」
「ふ、黙っておけ。バルドアックス王も、
あの6人の方は、知らぬやもしれぬ」
「ぁ、アバンテさまぁああ〜〜〜〜っ!?///」
「責任は、私が取る。
あの能力の値……、
護衛がつくのは、当然やもしれん。
ふ……それに、あの"処理能力"は、
Aランク以上と言っても、
過言では、無いかもしれんな。
もし……"戦闘"も、同じ域だとしたら……」
「かっ、彼女たちぃ……"実力"で、
あの暗殺者たちを、束ねてるって、
こと、無いですわよねっ……!?!?」
「ふふっ、どえらい主人公たちに、
"お手伝い"を、頼んだものだな?
マリーよ♪」
「ひぇぇえええぇぇぇ……!?」
「8人、全員が、揃いの鎧を、
着ているあたり……裏に、
何やら、大きな思惑が、
ありそうだな……?」
「ゃ、やめてくださいなぁっ……!?
ち、ちょっと、没落したっ、
ワケありの、貴族令嬢ふたり、
なのかなーっ、くらいに、
思っていたのに……!?!?」
「あの鎧も、あの二人の、
作品なのか……、それに、あの、
"銀のプレミオムアーツ"……、いや、
それとも、また、別の、
アブない製作者が……???」
「や、やめてください、アバンテ様。
また……胃が、
痛くなってきましたわぁぁ……!?」
「──ふっ、それくらい、
我慢したまえ!
少なくとも、昨日までの、
胃の痛さよりは、マシな部類であろう!
なぁ、マリーよ!
ぅうむ……しかし、
あの事務能力は、欲しいぞ……!!
歳を重ねれば、身体能力は落ちるのだから、
よし、やはり、もう数十年、
経ってからでも……?」
ひとりは、胃をキリキリ、
いわせながら。
ひとりは、未来のスカウトを、
夢見ながら。
星と白花は、
城の道を、進むのだった。