王の学ぶ椅子
── がちゃん、がちゃん、ガチャん、
チャキ──……!
王城の紋章が刻まれた、
立派な全身鎧を着込んだ、
初老と、若い、二人の衛兵が、
祭りを 歩いている。
どちらも大柄だが、あまり、威圧感は無い。
双方の鎧は、美しく手入れされている。
持つ斧槍の刃は、
核闇山羊の革で保護されており、
祭りを行き交う人々への、
配慮が見て取れる。
魔力を籠めると、
この簡易な革鞘は、
即座に、燃やし飛ばす事が出来る。
この二人は、歳は離れているが、
関係は、良好のようである。
「けっきょく、なんだったんでしょうかね?」
「うーむ、わからん……」
実は、この二人。
先ほど、西の王街門で あった、
"ちょっとした出来事"を、
調査しに行ったのだが──、
結局、原因は、分からず仕舞いとなった。
人混みを、歩きつつ、
ふたりは、話す。
「本当に反応が……、
あったんでしょうか?」
「トーマスの奴は、はっきりと見た、
と、言っていたがな」
「だとすると……お忍び、ですかね」
「うーむ。だが、
西門なのは、おかしい。
来るとしても、"東"から、だろう?」
「あぁ! 確かに、そうですね!」
「──ふむ。最近、仲が、
よろしいとは聞くし、
もしや、あり得るのやも、
とは、思ったが。
ぅうむ。なにか、引っかかるな?」
「そうですね。
ぁ……実は、全くの別人で、
例えば……! 別の国の方々が、
こっそり、来てらっしゃったり……?」
「はっは! 御二人もか?
ふふふ、そりゃあ、中々の、大事件だな?
はっはっはっはっは……!!」
二人は、あまり深刻そうでは無い。
何とも、不思議なことでは、あったが。
だからこそ、西門の同僚5人に任せ、
彼らは、本来の任務に、戻ったのである。
「まぁ、あそこには、
五人も居るのだ。調査は任せ、
本来の任に戻ろう。この人波の中……、
最悪、明日の朝までには、
見つけ出さねばならん」
「そうですね。というか、実質、
今夜までに、という事ですよね……。
ああ、なんてこった!
こんな日に、こぉんな お祭りが、
開催されるなんて!」
「まったく。神々の戯れ、と、いうやつさ」
「いやぁ……本当に、見つかりますかね?
これですよ? 街中」
「いやはや。目が、くらくらするな?」
当然、勇猛な二人の衛兵の周囲も、
金のクルルカンと、
銀のオクセンフェルトで、
埋め尽くされている。
初老の兵が、聞いた。
「というか、良かったのか?
本当は、今日も非番だったのだろう」
「いやぁ、いいんですよ!
この混み合いです。
人手は居た方がいい」
「連れ合いが、いたのだろう?」
「キャサリンのヤツとは、
昨日、一日、
ゆっくり、回りました!
はは、おかげさんで……///
今日は、あいつ、懐かしの、
御学友と、一緒に回ってるんですよ。
男が一人、祭りの日に、
家に居るもんじゃない、ははは……」
「ほぉう、だからといって、
兵舎に顔を出すもんじゃない。
せっかくの休日が、
こうなってしまうだろうに」
「いゃあ、第三訓練を過ぎてからは、
よく、休ませてもらってる、
方ですよ、僕たちは。
今日くらいは、いいでしょう。
男友達は、みぃんな、
仕事場にいると、気づいたんですよ!」
「はっはっは!
それで、こんな老兵と、
祭りを回っている という訳だな?」
「家に1人で居るかよりは、
よっぽどマシですね!
今日は、辛い酒しか、
家に、なかったしなぁ……」
「ふん。こんど、卓板亭の、
肉もやし炒めを、おごってやろう」
「ぁ、またですか! ちゃ、ちゃんと、
飯は、食っていますよ!」
「そんな事は、心配していない。
私が、食べたいのだ!」
祭りは、たいへん賑わっており、
今も、屋台で、
くじ引きを していた親子が、
何やら、景品を引き当て、
店員のラビット族のレディが、
ハンドベルを、軽やかに、
鳴らし揺らした。
────カロン、かろん♪♪
──────かろぉあ──ん・・・♪♪
すると、若いほうの衛兵が、
全身鎧の上から、
自分の胸元を、ガントレットで、
カン、と、押さえ、
「ぁ……」
といった、顔をした。
老兵が、たずねる。
「なんだ、どうした」
「鎧を着込む前に、
胸元のポケットから、
景品を出すのを、忘れました」
「ん……?
"景品"、と言ったか?」
「はい。実は、兵舎に行く前に、
僕も、くじ引きを数回、
やったんですよ。
なるほど、道理で、
なんだか、いつもより、
装備が重いと 思う訳だ……!」
「……ははは! ひ、
ひとりで、やったのか!
何が、当たったのかね?」
「最初は、エット・ビールが一瓶、
当たったんですよ!
こいつは、良かった!
ただ、2回目は、完全に、
売れ残りでした」
「はっは! ひとりで、
二回も、やったのかね!」
「そぅいう事を言うのは、
やめてください。
いやぁ……。残念賞も、
しっかり、"お祭り仕様"に、
なってましたよ」
「うーむ。屋台の出店者からしたら、
普段の売れ残りを、
このバカ騒ぎの波に乗せて、
叩き売り飛ばす、
良い機会だろうからな。
ニッカー通りの、
クルルカンと、オクセンフェルトの、
絵が描かれた、壺を見たか?」
「ありましたねぇ!
あれは、ひどいモンだった!」
「そこらじゅうに、
描き足されている。
なんとも、素晴らしい祭りだ!」
「ええ、本当に!」
王都を護る堅牢な兵たちも、
祭りの空気に、幾ばくか、
話への花を咲かされ、
ゆっくりと、ねり歩けば、
やがて、王都一と言われる、
雄大な、中央大学。
その、モニュメントが、
建物の乱立から、
顔を、出し始める──。
「ほぉう、あれが、
ウワサのヤツか──……!」
「ぇ? あ、そうか……! 一班は、
こちら側の、警備コースの巡回は、
初めてでしたね──……!」
──視線の、先。
王都の城と、
まっすぐな、通りで連なる、
──"王都中央大学"。
通称、──" ヤキソ・バパン 大学 "は、
その、流麗な 学院名の響きと共に、
都市、内外 問わず、
ひろく、愛される学院である。
名の由来である古代語の意味は、
失われて久しいが、
過去の、魔道ギルドの
崇高な研究によって、
" 素晴らしき調和 "という意味に、
とても近い文字列である事が、
かたく、結論づけられている。
" 学問とは、調和である。"
この表題を礎に、
絢爛たる学院は、
今日も、王都の一等地に、
どどん と、居を構えるのである。
──さて、
件の" ヤキソ・バパン大学 "、
その、バカデカい 正門 には、
誰もが知る、記念彫刻が有り、
すなわち、それは、
── " 王の学ぶ椅子 " である。
高さ、20メルトルテを超える、
玄魔岩から削り出された、
バカデカい、椅子の彫刻は、
まさに、" キング・チェア "と、
呼ばれるに、相応しい、スケールである。
もし、初めて王都に来た観光客が、
この、めたんこ・でかい、
イスの彫刻を見れば、
それは、喜びに、喜ぶだろうが。
この二人の衛兵は、
王家に仕え始めてより、
かなりの時が経つ。
いつも通りの、
天を突きそうな、
巨大な、アホみたいな大きさの、
石のチェアを見ただけでは、
驚く、はずも無い。
────ただ、今は。
そのイスに、あるものが、
乗って、いるのである──。
「──見事、だな……!」
「ええ。あれは、本当に──!」
────" 仮面 "だ。
ヤキソ・バパン大学の正門、
大きな、大きな、石のイスの上に。
金と、銀が、混ざったような──、
バカでかい、ひとつの、仮面が、
コトン……と、置いて、あるのである。
「……"クルルフェルトの仮面"、か……!」
「はは。あんな、巨大な仮面、
どうやって、作ったんでしょうね?」
その、大きなイスには、
つい、さっきまで、
読書を、していた、かの ような──。
その、主が、
ふと、立ち上がって。
そっと──、つけていた、
自身の、"仮面"を、取り────、
──そこに、コトリと、
置いていったような、
そんな、感じなのだ。
「ははは……! つい、さっきまで、
そこに、大きな化身が、
居たかの、ようだなあ……!」
「あの、無造作に、
椅子の上に、置いてある感じが、
いいですよね……!
しかし、でっかいなぁ……!」
さっきまで、巨大な、王が居た。
そう、思わせてくれる、
クスリとする彫刻が。
そうだ、
なんとも、心地よいでは ないか。
シーッッd(ºε- )










