⚙⚙⚙ クルルカンのいる日常 ⚙⚙⚙
王都の西にある街、ドニオス。
その、だいたい真ん中にある、"ドニオスギルド"。
そこには、白いレンガで建てられた、高さ40メルトルテの塔がある。
昔は龍見台として、魔物の侵攻を監視した、大切な場所だった。
しかし、街ができてからは、その機能を失う。
街壁には、見張り台がいくつもついているからだ。
"役たたずみ台"として、愛着を持って? 親しまれている、この塔。
そのてっぺんに、小さなお家が建っている。
その家には、最近噂の、
"クルルカンの格好をした郵送配達職"
が、住んでいるのだった。
────そうで〜す、私で〜す!
「ふんにゃあああ〜〜……」
だらけていた。
ふにゃふにゃしていた。
ここ数日、私は自分で思っていたより、疲弊していたみたいだった。
食堂の時は、夕方にはゆっくり休めてたからな。
夜ご飯営業やってなかったし。
ここ最近は、森で一夜明かしたりしてたからな……。
気が張っていただけで、けっこう疲れが蓄積されてたみたいだ。
せっかくお部屋をいただけたのだし、今日はとりあえず、お昼までのんびりすることにした。
ベッドにうつ伏せになって、枕にあごをのせ、片手を床に垂らす。
なんて、完成された体勢なんだっ!
……至福の時だわ。
「……寝巻き、買いに行かんなならん……」
カーディフに、えらい忘れ物をした。
パジャマを忘れたのだ。
昨夜は、肌着を付けて寝たけど、このままだと、性格上、裸族になりかねないわ。
「……また、アブノさんのお店に見に行くか……」
どうやら、お店をたたむのは、やめたらしい。
……ぜったい私のせいよね。
変態をドニオスから追い出すチャンスだったのにな。
ただ、肌着や、このヨロイを見るに、腕は確かなようで。
くやしいけど、あの特別料金で、この質なら、一生お世話になる可能性もありうるわね……。
ギルドには、正式に郵送配達職として登録された。
ランクは最下位の"G"。
まぁ、しゃあない。
ただ、溜まりに溜まった手紙の山を片付けたら、その配達報酬プラス、少しだけ、お給料を貰う事になった。
それも、定期的にだ!
私が、仕事サボったらどうすんだ?
いや、サボらんけども。
しかしどうやら、これはギルマスのヒゲイドさんの、優しさのようだ。
郵送配達職は儲からない。
貯金できる時に、しておけって事だと思う。
今回は4万7千通分の報酬がでた(!)ので、特別だったが、これからチマチマ手紙を配っても、そんなに貯金できないと思う。
ありがたく、受けとることにした。
食堂の切り盛りに携わっていたからね。
お金には、しっかりしている、つもり?
使う時は、使うけどね。
さて、要するに私は、お買い物がしたいのだ。
大体、家具は揃っているが、食べ物や、部屋着は欲しい。
カーディフに売ってないものは、たくさんあるはずだ!
ただ……外を歩く時の装備が、問題だ……。
「……やっぱ、ダメだ。普通の服は着れん……」
休み、と決めた日には私服で歩こうかな、とも思ったが、こんな塔から、女の子が出てきたら……目立つわな。
「ああ〜……ダメだ。あらゆる場面で顔が割れる可能性がある……」
なんで、こんな指名手配の盗賊みたいな心配をしなきゃならんのか……。
どっちにしろ、この装備でお出かけする事は、不本意ながら、もう、ほぼ、確定だ……。
ヨロイを取って、素顔をさらせば、「あ! カーディフのキティラ食堂の、アンティちゃんだ!」って、なるかもしんない。
……うわぁ、最悪だ。
地元、名字、クルルカンの時と、いっしょの名前。
全部バレるじゃないの……。
ポタタづる式に、"時限結晶"のこともバレる可能性がある……。
それだけは、避けねば……。
「あああ〜……外行きの普段着とかは、やっぱ封印よね……」
ていうか、"アンティ"の本名は隠しておけばよかったな……。
それこそ"クルルカン"で登録しておけば……。
あ……露骨すぎて、偽名だろ、って指摘されちゃうか。
だめだ、しゃあない……。
登録名も、お出かけも、
"アンティ・クルル" でいくしかない……。
「てか、この回る王冠を見られたら、色々アウトよね……」
『────クラウンギア本機の格納は、現在不可能判定。』
「知ってます……」
この相棒は、何故か、バッグ歯車に入らない。
あと、ポケットとかに入れても、意識すると頭に戻ってしまう。
ここじゃないと、ダメみたいだ。
私としても、頼れる相棒を隠したりするマネはしたくない。
散々いっしょに戦ってきて、都合の良い時には隠す、なんて、いやだ。
できれば、堂々と頭の上で、クルクルしていてほしいものだ。
『────クラウンギアの好感度が上昇傾向。』
……スキルの好感度あげて、どうせぃと。
……あ──あ。
休みの日も、クルルカンかぁー。
いや、いつが休みって、決まってる訳じゃないけど……
あれだけ一気に手紙を配れば、またすぐに溜まるって事はないだろし。
定期的に配達したらいいかな?
こまめに、ギルドに依頼される配達物の量に気を配っておこうっと。
このクルルスーツには、かなりお世話になりそうだ。
女の子らしい格好は、もう夜しかできないかもだけど、それ以前に、くちゃい女の子にはなりたくない……。
「……やっぱ、今日も洗濯しよう」
幸い、歯車洗濯はかなり便利で、このまま洗濯屋さんができんじゃないの? ってレベルだ。
〜クルルカンのお洗濯:入門編〜
①高熱ミストでにおいと汚れを浮かす。
②バッグ歯車で汚れを格納。
③歯車の歯を、風車状にして乾かす。
するとあ〜ら、不思議!
ふわっふわで、においもしない!
みんな! 洗濯物は、クルルカンに持っといで!
「……クルルカンの洗濯屋さん……ねぇな……」
ちなみに、自分の身体も、同じようなやり方で洗えるが……ちょっとあれは、もう勘弁だ……。
簡単にいうと、シャワールームが一瞬で蒸し風呂にかわる。
それも、かなり、熱い。
クラウンが"ていおんさっきん"とか言っていたが……あれは火傷してもおかしくないレベルだった……。
一度、あの蒸し風呂を体験し、確かにその後は、体の上から下、口の中、耳の穴までスッキリしていたけどさ……。
汗、だらんだらんかくのよ……?
終わった後で鏡を見たら、自分の肌と、あらゆる穴から、湯気がでてんのよ……?
お水、がぶ飲みしたわ……。
今は普通にシャワーの中で、歯磨きしております……。
「ふんぬぁ〜〜……」
きん、きん、き──ん!
きっ、ききっ、キ──ん!
寝転びながら、枕の前に外した、黄金の仮面を、爪で弾いていた。
いいおと、なるわね。
──コンコン、コン!
──んん?
──コンコン、コン!
「? なんの音?」
────アンティ〜さ〜ん……
「!?」
この声……あ!
「キッティ!?」
ガバッと振り返り、ドアの方を見る。
────コンコン。
「あけてくださ〜〜い……」
「あ! ちょいまち!」
や、やばっ!
今、全裸ッ!
さっき、着替えようとして、全部脱いで、もういっかい寝たんだった!
まだ床に、クルルスーツも置いたままだわっ!
いや、そのまま寝るなよって感じだろうけど!
急いで、新しい"アブノ製:ごーるでんぱんてぃ"を履き、
床の装備に両足を通す。
「クラウン!」
『────レディ。自動装着。』
────きゅううううん!
────かち、かちっ!
────ガシャガシャガシャ!
クルルスーツの各所には、小さな歯車が出しっぱなしにしてある。
その歯車ごと、スーツが持ち上がり、私の身体に食いつき、絡んでいく。
────ギャォォオオオンンン……!
「っ……」
クラウン言わく、この歯車ってのは、歯車法の"経験の値" を使って出してるんだって。
小さい歯車は、それをほとんど使わないらしい。
今、私の歯車法は、Lv.3だ。
つまり、そこまでの合計の経験の値を使って、歯車を召喚。
しまう時には、また私に、経験の値は戻る。
そゆことらしい。
……そいえば、歯車をそのまま、ずぅっと出しっぱなしにする事も、できるんだろうか?
────カシュ、カチン。
────シュルルル……
クルルカンの仮面が持ち上がり、歯車とともに、私に装着される。
一応、劇場幕のマフラーも展開しといた。
────アンティ・クルル、爆☆誕ッ。
「ふぅ……おしっ! はーい! ただいま〜〜……」
ガチャ。
「………………」
「うぉぅ…………」
キッティ……。
なんでそんな、精魂尽き果てた顔してんの……。
「……大丈夫?」
「かいだん……やだ……」
「あ……」
休憩含めて、30フヌほど、かかったそうだ。
うん。
なんか、ごめん。
誤字がありまくりで、修正しまくってます。
ごめぬ⋯⋯(ㅎ.ㅎ )