聖なる樹の家の啓蒙 中
>>>
バスリーちゃんの お茶は、
ぼくでも、思わず、餡子の お菓子を、
食べたくなるような 味だ。
こんな風に、彼女と、
先生と、ぼくで、
お茶をしている、不思議さ──。
素朴な、直線が ひとつも無い、
木の机の上で、
金色の、女の子の手が、
湯のみを、くるくる、まわす。
小さな水面は、香りを含みながら、
ゆったりと、回った。
──ガチャ、と。
ふたりのエルフが入ってきて、
それは、よく知った顔だった。
200年ほども経っても、
やはり、その顔立ちは、かわらない。
コココとリリリは、
とうとう、夫婦に なったらしい。
ぼくは、少女の身体だったので、
反応に、困ってしまった。
「本当に、お前なのか?」
ぼくである彼女は、
黄金の目を、見開いただろう。
それでも、声は、出なかった。
──がしり。
コココは、構わず、
嫁さんの前で、ぼくを、抱きしめた。
おいおい。
そっちも、新婚だろ。
怒られるぞ。
すぐに、リリリも近づいてきて、
旦那の長い耳でも、
引っ張るのかな、と、思っていたら、
──がしり! と、コココごと、
ぼくを、抱きしめやがる。
借り物とはいえ、生身の身体。
かっ、と、あたたかいモノが、
灯る気がして、
なんとも、気恥ずかしい笑みが、
ほころんだ。
「>>>……あつくるしくって、いけない///」
「お前がした事は、伝説と なるだろう。
この村の、花の夜を見ていないから、
そんな、軽いことが、言えるのだ」
「私たちの子供が、あなたの墓を守るわ。
ずっと、ずっと、よ。エルフは、
ここに住み続ける限り、
この恩を、忘れることは無いの」
バスリーちゃんは、椅子に座りながら、
杖を床に立て、笑い。
先生は、机に肘を付きながら、
ぼくらの方を、微笑みながら、見てた。
「>>>た、頼むから、バカみたいに、
>>>祀りあげないでくれよ?///」
「なんだ、ダメなのか、つまらない。
これから時間は あるんだ。
神殿くらいなら、
建ててやったんだぞ?」
「ふふふ。それじゃあ、あの、
ステキな林檎の、木の下の お墓だけで、
勘弁してあげるわ」
やっと、200年来の、
旧友の抱擁から解放され、
すると、結界柵の、礼を言われる。
ぼくは、ちがうさ、と、言っても、
ちっとも、聞きゃあ、しない。
彼らは、椅子に腰かけ、
しばらくは、しゃべって、
いくようだった。
「最近の夜は、たいそう、美しい。
光る花畑など、心和まぬ者など、
あろうものか」
「最近は、光蝶も、集まってきているの。
花が、ダンスを踊っているみたいで、
夜は、本当に、幻想的よ」
「それでも、ある深夜を超えると、
すうっ、と、光が、
穏やかになるんだ」
「ふふふ、まるで、七色に光るみたいだわ。
最近、ヤムネコが増えてしまったけど」
「>>>ヤムネコ?」
ヤムネコは、弱い光属性を持つ、
名の通り、猫の魔物らしい。
最近の夜は、もっぱら、
光る花、光る蝶、光る猫、の、
大集会だそうだ。
ヤムネコは、弱い魔物なので、
強い魔物が、精霊花によって弾かれる、
この地に、住み着いてしまっているのだ。
それは、つまり、
ここが、より安全な聖地であるという、
証拠では、あるらしかった。
「アイツらは、昼は黒猫、
夜は白猫だからなぁ。
昼間に見ると少し、景観がだなぁ……」
「やあねぇ、可愛いじゃない!
コココったら、気にしすぎなのよ♪」
「>>>そう言えば、あそこの屋根に、
>>>黒猫が いるなぁ……」
おなか を上にして、
のんびり、昼寝をしている。
まぁ……可愛らしい。
あ、あそこに、歩いても いる。
アレが、夜になったら、
花と一緒に……光るのだろうか?
少し、見てみたい気はする。
妙な、守り神が、居着いたものだ。
コココは、お茶を飲みながら、
「ひとつ、聞きたい。
あの、巨大なやつの事だが」
「>>>カンクルの ことかぃ?
>>>精霊花が、
>>>身体から咲いてる獣なんて、
>>>きみら からしたら、
>>>ビックリ仰天だよな」
ここからも見えるが──、
大きくなったカンクルは、
複数の尾を、ゆらめかせながら、
花の大地に、満足そうに、
座って、くつろいでいる。
「ちがう、ちがう、
聖獣様の、方では無い。
あ、ちなみに、あの聖獣様の像は、
作ることを、許可してくれよ?」
「>>>本人に聞いたら、どうだぃ。
>>>ん? するってーと?」
「あの、ウサギのことだ」
なるほど、うさ丸のことらしい。
彼も、大きな身体を解放して、
花畑のベッドの上で、
あの、でっかいニンジンを、
バリバリ、やっているはずだ。
彼は、この村に来る度に、
あの、巨大なニンジンを、
一本、まるまま食べるのを、
楽しみに している。
「>>>うさ丸が、どうか したのかぃ」
「その…… 一応の、確認なんだが。
あのウサギは……安全なんだな?
いや、そもそも……あれは、ウサギなのか?」
横に座るリリリが、くすくすと、笑った。
「>>>ぼくが、保証するよ。
>>>彼ほど理性的な兎は居ない」
「でも、見ろよ……」
促されて見ると、
大きくなった、うさ丸は、
エルフの子供たち、何人かに、
ちょっかいを、かけられているようだ。
カンクルは、畏れ多い聖獣として、
少し、エルフたちから、
距離を保たれているらしい。
一方、うさ丸の方は、
大きくなっても、謎の珍獣である。
まぁ、見た目も、愛らしい所はある。
エルフの子供たちは、
あまり、カンクルに近づくな、と、
大人たちから止められてる分、
大きなウサギの勇者のほうに、
興味が、流れるんだろう。
「さっきから、ウチのチビ連中が、
あのウサ公の毛並みに、
ニンジンを、ぶっ刺してるんだ。
気が、気じゃ、ないぜ……」
よく見ると、確かに、
コココの言う通りのようだ。
子供たちは、
なかなか、大ぶりのニンジンを、
ランスのように、
純白の、うさ丸の毛並みの中に、
押し込んでいる。
どれだけ入るか、試しているんだろう。
『『『 ……にょきっとなぁ…… 』』』
うさ丸は、こまっているようだ。
「>>>大丈夫だよ。
>>>彼は、ぼくらが思うより、
>>>はるかに知能が高いんだ。
>>>簡単なのなら、字も読めるんだよ。
>>>とても、優しいラビットさ。
>>>見ろよ、あの表情。
>>>実に、戸惑っているだろう?」
「それは、本当に、そう思うが……」
「ふとましい耳ねぇ〜〜!
見て! 登ってる!」
よじ登られている、巨大うさ丸に、
ビッグ・カンクルが、近づいていく。
助けに入るつもりだろう。
なんにせよ、楽しそうだ。
「#……こそばすだろうなぁ」
「>>>でしょうねぇ」
精霊花の聖獣は、
うさぎの勇者を助けるために、
無敵のコショコショを、
発動するようだ。
今は、鼻先だけでなく、
たくさんの、尻尾もある。
エルフの子供は、笑顔で、
蹴散らされるだろう。
コココが言った。
「その身体の少女たちは、
どうしたんだ?」
少し迷ったが、素直に答える事にした。
「>>>今は、眠っているんだ」
「#……ふ、正確には、フテ寝している」
「心の中に、世界があるのね?」
リリリの鋭さに、
先生と共に、ドキリとする。
だが、まぁ、否定も、肯定も、
しないで おいた。
先生が、ぼくに目配せをし、
ぼくは、これから先生が聞きたい事に、
充分に、察しが ついた。
「#……バスリー殿。
#……それに、コココ、リリリとやら。
#……無粋だとは思うのだが、
#……今だからこそ、
#……聞いておきたい、事が あるのだ」
「なンだぃ。急に、かしこまって」
「少女の身体で、武人みたいな、
言い回しを、するヤツだなぁ」
「今だからこそ、という事は、
アンティちゃんと、マイスナちゃんに、
聞かれたく、ないのね?」
「>>>…………」
やはり、リリリは、
けっこう、するどいな。
ただ、声にするのが、
いつも、ベストってワケじゃ、
ないんだぜ?
「……なンだぃ、キナくさい、話かィ?」
ほらぁ。
バスリーちゃん、
警戒しちゃったじゃないかー。
「#……そうとも、言えるかも しれぬ。
#……ただ、あなた方の、聡明な、
#……古の知識を、
#……お借り、したいのだ──」
先生は、かなり、ヨイショして。
ずいぶんな気遣いをしてから、
────本題を、切り出した。
「
#……かつて、遙か南西の地に栄えた、
#……今は、滅び去りし大国。
#……──" リバースレイブ 帝 国 "。
#……その、滅びし大地に封ぜられたという、
#……──" 死神 "、について。
#……何か、ご存知のことは、
#……ないだろうか。
」
「「 ・・・! 」」
「 ……なンだってィ? 」
コココとリリリは、ともかく。
バスリーちゃんは、
たいそう、怪訝そうな、顔をした。










