タイヘンさんの手記 下
実はね……めまいするほど、
大忙し だったんですよ(笑)
「 どうか、よしなに── 」
「「 ぇぇぇぇぇ……??? 」」
──ふ、ふ。
ふたりの少女は、
四大属性の魔法使いに促され、
遅れてしまった手前、
立たぬ訳には、いかない。
スネイオ先生は、もはや、
立てた杖に両の手を置き、
目を瞑るばかりである。
「「 ぅ・・・── 」」
コト、コトン、と──。
せっかく、同年代の中に、
なりを潜めていた、美しさが、
──スラリと、燃え立つのを感じた。
「「 ・・・////// 」」
サラサラと、金と銀の、
天の川のような髪が、流れ。
いや、あれは、"金"と"銀"、
などという、単純な、色では無かった。
あらゆる光が、反響し、
時が遅くなるのを感じた。
今の歳だから解るが、
この時の彼女たちは、ふ、ふ、
ウォッカを やった後のように、
胸と頬が、カッと、
なっていたに、違いない。
番なのも、いけなかった。
とにかく、同じ動きだったのだ。
背丈も似通っており、
互いを、とことん、惹き出し合う。
衆目もあり、
恥ずかしがる 対は、
わずかに、頭を垂れ。
前の髪が作った、淡い影の中で、
四つの瞳が、上目遣いで、
おっくうに、輝いていた。
「うへへ、顔、まっかだぜ」
「なんで、立たされたのかしら?」
「あいつら……まるで、正反対だなぁ」
「たしかに。でも、まだ信じらんねぇ……!」
「美しいな……」
それは、奇しくも、
双子の女神の、彫像のようで、
あったかもしれない。
しかし、本人たちは、ふ、ふ、
それどころでは無い。
思わず、スネイオ先生も、
言ったものだ。
「ふ、ふむ、、、
気を、わるく、するでは、ない!
遅れた ことが無くとも、のぅ?
お主たちには、
話を聞く、つもりで あったのじゃ!
じゃのに、タイミング良く、
お昼寝とか、しちゃうから・・・」
「「 〜〜〜〜っ……!!////// 」」
「「「「「「「 ははは・・・! 」」」」」」」
「しちゃうから……」という台詞に、
皆で、軽やかに、笑ってしまう。
この先生は、
威厳のある方なのだが、
時たま、実に、お茶目なのである。
「おっほん……!
ミス・キティラ。ミス・オクセン」
「「 ///──! 」」
「街の外は、どうじゃ」
四つのEYEが、
まぁるく、開かれる。
「そなた達の──、
歳の、近い者たちから、
聞く、外の世界のこと。
それには、
大きな、意味が、あるのじゃ」
その、スネイオ先生の言葉を、
聞いた、私たちは、
先ほどとは、少し、
違った感覚で、
立つ、ふたりを、見た。
私は、この街を、愛している。
ただ、憧れは、あった。
"外の世界"。
あの ふたりは、
私たちの未来を、
示していたのだ。
「そとの、せかい……って」
「ええ、と……」
「少しだけ、聞かせてやって、
ほしいのじゃ。
ふふ……難しく、
考えずとも、良い。
これは、歳寄りの、
ワガママに、過ぎぬよ……♪」
「「 ……、── 」」
スネイオ先生は、
穏やかに、笑っていた。
ふたりの少女は、
ずいぶんと紅潮が、
落ち着いたものだが、
なにを、話したら、良いものか、
実に、迷っている。
魔法使いの、助け船──。
「ふふふ……♪ 今、東の地は、
どのように、なっておるのじゃ?」
「「 ──! 」」
ふたりの、少女は、
しばらく、しずかで。
でも、ポツリ、ポツリと、
語り始めた。
「西の……ど、ドニオスの、街では……、
ぁ、ぇえと──あの街には、
真ん中に、大きな、白い、
塔が、あるんです。
昔、魔物を見張るために、
丈夫な金属のレンガで、
作られた、塔なんですけど、
硬すぎて、壊せなくて──」
「ぅ、うん……。その、塔の、
根元を、守るように、
冒険者ギルドが、建っています。
ガタイの良い人が、多くて、
けど、みんな優しいです。
とっても大きな身体の、
ギルドマスターが、
みんなを、まとめています」
みな、不思議な気持ちで、
それを、聞いていた。
「イースト・ハニーという、
とっても美味しい、
パン屋さんがあります。
ギルドの食堂にも、
パンを、卸していて。
サンドイッチも絶品だけど、
モーニングのピッツァも、
格別で──」
「──冒険者の人も、朝には、
よく、そこで、ご飯を買います。
ギルドの入口のとこでは、
新人の冒険者さんのために、
安くて丈夫なアイアン・ソードを、
売り続けている人がいます」
私たちは、惹き込まれたものだ。
結果から言うと、
彼女たちの"語り"は、
たいへん、すてき だったのだ。
「北の……パートリッジの街は、
氷の大流路が地面の中に 通っていて、
冬期には、めちゃくちゃ寒いです。
雪が積もらないように、
屋根は、すっごく、とんがっていて──。
北を、空に届くような、
大きな雪の山が、塞いでいます」
「とっても寒いけれど──、
冬に、ギルドに行くと、
モコモコの、可愛い制服を着た、
ギルドの職員さんが、働いています。
ギルドマスターは、細身の、
おじいさんが、やっていて、
ちょっと、怖いです」
「ええっ、おじいさんの、ギルマスなのか」
「とんがり屋根、見てみたいわぁ」
「大きな、空まである、雪の山、かぁ──」
「東の──ホールエルの街は、
坂道の街です。
北東……地図で言うと、右上の、坂の上に、
山と、山を、橋渡すように、
壁のような、古い要塞があります。
階段が、少し、多くて……、
でも、それが、街の下の方から見ると、
とっても、綺麗です」
「聖女サマが、ギルドマスターを、
兼任していて、
まだ、13歳だけど、とても、
賢いです。ギルドの皆と協力して、
街を、守っています。
山の幸と、河の幸、
どちらも美味しいお店が、
たくさん あります」
「じゅ……!? 歳下じゃん……!?」
「階段ばっかりって、疲れないのかしら?」
「山の要塞跡……見てみたいよな!」
まるで、物語のようでは ないか。
彼女たちの話を聞くだけで、
一度も見た事のない世界が、
私たちの中に、芽吹いた。
何人もが、思っただろう。
" 本当は どのような場所なのか "
" 確かめたい "
────と。
「南の──ナトリの街は、
街の中に、大きな水流が、
引き込まれていて、そこでも、
新鮮な魚が取れます。
ウチの街でも、生卵は有名だけど……、
同じで、美味しい魚が、
ナマで食べられるのは、
今の所、ナトリだけかも」
「建物も、街の人が着ている服も、
他の街と違って、
とっても不思議な形を、
してるものが、多いです。
ナトリのギルドマスターは、
領主さまが、兼任しているので、
小さな、別の国みたいな、
不思議な雰囲気があります」
「さ、魚って、ナマで、食べられるの!?」
「ていうか、他の街って、ナマタマゴ、
食べないの!?」
「なぁ! なぁ! おうと!
王都は、どうなんだ!?」
「それ、気になった!
どんな、トコなんだよ!」
「ぉ、王都……? え、ぇえと、
落花生市場っていう、
バカでかい、市場があって、
なんでも、そろう、かな?
あと……4階建ての、
化け物みたいな、大きさの、
カフェが、あるわね……?」
「街の外からでも、お城の塔が見える。
街の外壁は、どの街よりも高くて、
装飾で、トゲトゲしています。
王都の道のブロックには、
たまに、場所に因んだ、
浮かし彫りが、あったはず。
街全体が、芸術みたいな所があるかも」
「うぇえ〜〜っ! 行ってみてぇー!!!」
「お城……見てみたいわぁ……!」
「やっぱ、お姫さまとか、
住んでんだよなぁー!?」
「はて……?」
皆が、未知の話に心躍らせる中、
スネイオ先生が、わずかに、
首を、傾げる。
「まるで、見てきた、
かのように、言うのじゃのぅ?」
「「 え"っ 」」
「ミス・キティラ、ミス・オクセン。
お主たちの活動拠点は──、
てっきり、ドニオスの街、だけだと、
思って、おったのじゃが──…… 」
「「 ── げ っ ・・・!! 」」
「まさか、四つの王凱都市、そして、
王都の話まで、聞けようとは──……!」
この、魔法使いの言葉に、
なにやら、あの二人は、
たいへん、慌てた様子で──。
「あ"っ、あのっ、スネイオ先生っ!
これは、そのっ、ちがうくてっ……!?」
「ぃやっ、あのっ、ちょっと、だけ、
きき、かじった、というか……っ!?」
「──ほっほっほ……!
まぁ、良い。この スネイオ、
無粋な ことは、いたすまい。
ふ、ふ、思うておったより、
ずいぶんと、素晴らしい話が、
飛び出たようじゃ── 」
スネイオ先生は、追求を、やめ、
三度、杖で、
床を、コツコツと、やる。
「──みな、聞いての、とおりじゃ。
この街は、素晴らしい。
じゃが、この街の、外の方にも、
もちろん、世界は、ひろがぅておる」
魔法使いは、ひと呼吸、置き。
「──世界は、広い。
この街にて、大人に成るも、
もちろん、良し。じゃが、
見聞を広めるために、
一度、外を知ることを、
ワシは、とても大切なことと、考える」
見ると、スネイオ先生の、
後ろにある、教卓には、
大きな、まるめられた、
セピア色の紙が、置かれていた。
そこへ、杖の音が、
コツコツと、響き。
「──そこで、じゃ。
今回、ドニオスより届いた、
結界柵の中に、このような物が、
紛れておった!」
魔法使いは、その用紙を、ばぁさり、と。
宙へと、広げたのだ──!
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旅行ギルド【隣街ツアー】ご招待!
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♚︎ 兼ねてより、我が ギルドにて、
飼育、繁殖させていた、旅行専用の
スレイプニル、及び、新型馬車の量
産が、この度、お陰様で、運用可能
な段階まで達する運びとなりました!
これも、偏に資金提供をして下さっ
た、アリーヴァ学童院の皆々様の、
お陰であります。つきましては、
今回ばかり、特別・格安料金にて、
我が本拠地・ドニオスまで、該当の
学院生徒様、全員を、ご招待いたし
ます!!!
※カーディフからドニオスまでは、
3〜4日ほどの予定ですが、
スレイプニルの気分次第で、
ちょっと速くなる可能性も
あります!
※安全性は保証いたしますが、
実験運用的な面も ございますので
その旨、ご了承くださいませ。
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スネイオ先生は、ニカリと、笑い、
「次の学年旅行、ドニオス、行っちゃう?」
「「「「「「「うおおおおおおおおおお」」」」」」」
「「「「「「「おおおおおおおおおおお」」」」」」」
「「「「「「「おおおおおおおおおおお」」」」」」」
「「「「「「「おおおおおおおおおおお」」」」」」」
「「「「「「「おおおおおおおおおおお」」」」」」」
「「「「「「「おおおおおおおおおおお」」」」」」」
「「「「「「「!!!!!!!!!!!」」」」」」」
なぜか、
「ば・・・・・・・ばきゃにゃぁ・・・」
「そ・・・・・・・そん、にゃぁ・・・」
ふたりの少女は、
くずれ、おちていた。
これが、私たちの、
"波乱の学年旅行"の
幕開けで、あった。
タイヘン・ヤッテン
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「ありゃっ、キッティ。
おまえ、あの、バカ デカい、
スクロールみたいな手紙、
アイツらに、渡したのか?」
「あれなら結界柵の荷箱に、
一緒に入れときましたよぉぉぉ!!
ううう、今、話しかけないで下さい!
ただでさえ、書類の確認、
忙しいんですからあああああ」
ᔪ(°ᐤ°)ᔭ Oh nooo!!!