表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
111/1216

おっぱい羊ども さーしーえー

 

 う、上から姉に抱きつかれ、立ち上がれない……。

 うぐぐぐ、なんだこの圧力は……。


「むふふむふふ! いないと思って、きてみたらヒキハちゃん、床に座りこんで絵本を読んでいるんだもん! あらかわわぁ〜〜! いもうとかわゆすぅ〜〜!」


 スリスリスリ、ぎゅうぎゅう!


「ちょっと姉さま! 顔をグリングリン擦り付けないでくださいまし! あ、あと、むねが……」

「え──! な──に! たまにはスキンシップしないと、私、調子でないんだよぅぅ。そんな冷たいこと言わずにさぁぁ──……」



 はんぬらァ────……。


 な、なんだ、この押しかかりかたはっ……!?

 まるで、新しい擬音語ができたようだわッ……!?


 なぜ、こんなダラリと、もたれかかられているだけなのに、腰が浮かないんですの!?

 姉さま! これはまさかの拘束術ですか!?


「ふっふっふ、ヒキハちゃん! 姉の愛からは逃げられんよ……!」

「姉さまっ! ちょっと! お離し下さい! 姉さまったら!」


 なぜ、こんないい天気の日に、孤児院の床に拘束されねばならないのっ……!


 ぐ……ぐぐ、ぐ……。

 ごっそ、ごそ。

 むにっむにっ。


 ──なっ……!


「……こらぁぁああ! お姉ちゃん! メェェエエエエですわぁぁあああああ!!」

「ひゃっはァ────! ヒキハちゃんが、おこったァあ────!!」


 なぜ、そんな嬉しそうなの、お姉ちゃん……。


「はぁ、ハァ、はぁ……」

「いゃ〜〜育ってるね、ヒキハちゃんっ!」

挿絵(By みてみん)

 ……あなただけには言われたくありませんわ。


 目の前に立つのは、まったく私と同じ髪の色。

 (ふし)のある、特徴的なヨロイ。

 頭には、羊の角をあしらったヘッドガード。


 そして、左足に輝く"剣技"のプレミオムアーツ。


 王都、"剣技職(ソードマン)"部隊、総隊長。

 "プレミオムズ"剣技職(ソードマン)


 ────────オシハ・シナインズ。


 私の姉が、ニヤニヤと立っていた。


「い、いつも言っているでしょう……! 横から手を突っ込んで、胸を揉まないでくださいまし!」


「──いやだっ!! 私はヒキハの乳を揉むッ!! 私と同サイズになるまではなっ!!」


「姉さま……」



 じゃあ、ちょっと縮んでもらっていいですか……。







「……用件はすんだのですか?」

「あいあい。マザーにおふせ(・・・)と、今期の引き抜きは見送るって伝えてきたよ〜」

「やはり、年齢的な?」

「ま、それもあるけど、やる気云々(うんぬん)がね〜? だいいち、私は孤児院から騎士団員組むのは、正直なんだかな〜と思ってるやん? もっと安全な職について欲しいワケよ!」

「……ふふ、私たちが言っても、説得力がないですよ」

「ま、まぁね〜〜……有名になっちゃったしな〜〜……」


 ふはぁ〜〜、と気の抜けた、ため息をする姉。


 もし彼女がヨロイとヘッドガードを外せば、こんなうら若き女性が、王都で最強の剣技職と言われているとは気づかれないだろう。


「ねぇねぇヒキハちゃん、そろそろヘッドガード、つけない?」

「! いゃですよ! それのせいで、獣人の方と間違えられるじゃないですか!」

「えぇ〜〜? 可愛ぃじゃ〜〜ん……」


 まったく!

 それのせいで、"羊雲姉妹(ツインフェルト)"なんて、ふたつ名が広まるんですのよ!?

 一度ためしに付けてみた事がありますが、まるで仮装ではないですか!


「ね〜ぇ? そろそろおっぱいのサイズに合わせて、上の装甲、変えるでしょ? それと一緒に新調しようよ〜〜!」

「な! 何故それを!?」

「……はっ、お姉ちゃんをナメるなよ……!」


 ぐっ……!

 こ、この人は……もういい大人なのに……!

 なんで、こう、おっぱいへの執着が強いのだ……!


「ねぇ〜〜? ヘッドガードつけよ〜〜? 頭丸腰はあぶないよ〜〜!」


 両肩を掴まれて、横から覗きこまれる。

 ……う〜ん、そんなキラキラ見られても。


「……ち、違うデザインなら考えておきます!」

「な、なぜだ……」


 いや、姉さま。

 あなた、陰でなんて言われているか知ってるんですか?

 "おっぱい羊"ですよ?


 私はカンベンですわ!






 ココォン、ココォン、ココォン────────。



 孤児院から教会へ続く廊下。

 姉妹の足音は、響く。



「……もう、気配をころして来たので、ビックリしましたわ」

「ふへへへ……そりゃビックリさせようとしてるからね?」

「ぶぅ……」


 剣士の頂点と言われているには、おちゃめすぎますわ。


「……ねぇ、きいていい?」

「? なんですか? 姉さま」

「なんで、あんな悲しそうに絵本を読んでたの?」

「────────」



 コォン──……。



 ちょっと、思考が停止してしまった。


「さっき読んでたの、"クルルカン"の絵本でしょ?」

「あ────……」

「あんな顔、ほんとに久しぶりに見たよ?」

「あ、あのですね……」

「なんで?」




 う……。



 お姉ちゃんは(・・・・・・)さすがだ(・・・・)


 この人が、あの荒くれ者の剣士の中で隊長をやれているのは、こうやって、気づいた問題にすぐに立ち向かうからだと思う。


 この"目"はズルい。


 心がこもっている。


 話して、しまいたくなる。


 でも、そうは、いかない。




「──大丈夫です、姉さま。何でもないですって」

「──お姉ちゃんにも、言えない事なんだ……」

「……ぅ……」


 そ、そんな寂しそうな顔をしないで……。

 こ、これは演技ではない……。

 だからこそ、反則だ……!


 しょんぼりおっぱい羊である。


 フリフリ、フリフリ。


「…………!」


 両肩を振り出した……。


 あ、いじけてる……。


 しょんぼりいじけおっぱい羊だ……。


 だ、だめだ、ど、どうしよう……。










「────かわいそう、だと思ってしまったんです」



「──"かわいそう"? えと……誰が?」

「その……クルルカン」

「ほぇ?」


 あ、なんか呆気にとられてる……。

 あはは、姉さまのこんな顔、久しぶりに見たな。



「多分、ずっと一人で戦っているんです」

「うん?」

「誰かを助け続けて、みんなを笑顔にして」

「……」

「でも、強すぎるから、誰も助けられない」

「ヒキハちゃん?」

「孤独で、かわいそうだなって」

「……ヒキハ、ちゃん」

「そんなこと、考えてました。……変ですよね?」


 これ以上は、私の心が持たない。

 少し、逃げよう。

 私は、教会のほうに歩き出した。


 姉さまは、少しだけ歩き出すのに、時間がかかったようだった。








「……"隠れSランク"……まさかね」


 姉のつぶやきは、いっぱいいっぱいの妹には、届かなかった。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『今回の目次絵』

『ピクシブ百科事典』 『XTwitter』 『オーバーラップ特設サイト』 『勝手に小説ランキングに投票する!』
『はぐるまどらいぶ。はじめから読む』
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ