世界一高いグラタン 上
前話のあらすじ。
未来は、にょきっとである。
酒場 " おうんごうる "は、
なんでも一品料理が美味い、
ドニオスの名店である。
ドニオスギルドからも近く、
最近、昼間もランチを
やっているのが、嬉しい。
冒険者クラン、
"アックスレイダーズ"の三人が、
お昼のピーク時に行くと、
それはもう、大混雑であった。
" がや がャ…… "
" ははは、おま…… "
" って、いうことが、あっ…… "
「うおぉ、アニキ、いっぱいだぜ……!?」
「う、ぅむ……どうしたもんか……」
「見通しが、あまかった、かなぁ〜〜……!」
どうやら、明るい時間も、
大盛況のようだ。
対応した、
女性の若い店員も、
申し訳なさそうである。
「すみません……、
椅子は余っているんですが……。
外に持って行って、食べられますか……?」
「あ、いや、ちょっとなァ。
書類が、あるもんで、
机が、良かったんだけどよ……」
特大斧を持った大男は、
その、たくましい筋肉に似合わず、
大量の書類を、抱えこんでいる。
となりにいる、
子分面の二人も、
大なり小なり、
たくさんの文字が書かれた、
紙の山と、お友達だった。
ツレの、ひとりが言いかける。
「しょうがねぇか……アニキ!
ここはひとつ、屋台か、
なんかで済ませて……」
「そうだなぁ……」
「ちがいねぇ。アニキ、後は、
ギルドの木っ端机なんかでよ……」
そこで、店主の声が響く!
「──ユウナぁ! 13番の机ぇ!
絵本ペアさんに、聞いてみな!」
「は、はァい!」
三人が、女性店員に案内されると。
少し大きめの、丸テーブルで、
黄金の義賊と、白華の狂銀が、
グラタンを食っている所だった。
「──ぉお!
クルルカンの嬢ちゃんら、か……!」
「こいつァ、天の助けだ……!」
「わ、わリィ、相席、いっか……?」
ちょうど、かっ食らっていた、
アンティとマイスナは、
ジェスチャーで、O.K.する。
女性の店員が、
いそいそと、三人分、
椅子を運んでくる。
──・・・ガタガタ・ゴトっ!
「突然、すまねぇなぁ、、。
コレ……広げちまっても、いいか?」
書類のことである。
「んん、いひ、いい」
「もんあぃ、ないえふ」
アンティとマイスナは、
木のコップの位置を、移動した。
大斧の男が、親しげに話す。
「よォ、久しぶりだなぁー。
いつ、ドニオスに帰ってきた?
昨日か?」
「んぐっ。そ、そっす、そっす」
「んぐーっ。昨日の、朝方だよ」
「おぅ。じゃ、今は、配達終わりかァ」
「すまねぇなぁ……ゆっくりしてる時によぅ」
「邪魔する気ぁ、なかったんだが……」
レモン水を飲み干した、
黄金の少女が、あっけらかんと返した。
「ぜんぜん、大丈夫ですって!
トレイガーさん達は──、
あっ! これ、例のやつスか?」
「" アックスレイダーズの新人講習会 "……!!」
「ああ、そーなんだよぉ……。
希望者の数が、ヤベぇんだよ……。
ふぅンゥ"──っ、……」
「こんな事に、なるとはなぁー」
「ちょっと、多すぎるよなぁ……」
筋肉質の斧の男は、
大きな体を、丸めこんで、
すっとんきょうな顔をしている。
ため息が、
書類の端を揺らした。
絵本の少女たちが言う。
「こっちまで、ウワサ、届いてますよ!
森や岩場での、効率的な、
野営の やり方とか、
物資の節約術が、学べるって……!」
「さいきん、歳の近い冒険者さんが、
同じ歳くらいの他の人に、
オススメしてるの、よく、
見かけます」
最近、アックスレイダーズは、
ヒゲイド・ザッパーの依頼の元、
急増した、ドニオスの新人冒険者の、
初期演習を、任されている。
「すこぶる、評判、いいですよっ♪」
「うん、みんな褒めてるっ!」
「えっ、ま、まぁなァ……?///」
「ょ、よせやぃ……!///」
「て、照れるぜ……へへへ///」
ウフフフ……と。
三人の筋肉質の男は、
ガラにも無く、顔を紅くしている。
素直に、掛け値なしに
褒められるというのは、
今まで、トレイガーたちが、
経験してこなかった事だ。
マイスナが、
机の上に広げられた、
たくさんの書類の山を見て、
質問する。
「これ、希望者さんの、やつ?」
「あぁ……みっつ、コースがあって、
これから、仕分けなんだよ」
「ほぇえーっ!
そんな、あるんスか……!」
物資節約、効率的な野営法、
効果的なクエストの進め方。
どれも、人気のコースである。
「うーむ、その三つの、
コースの中でも、また、それぞれ、
並べ変えなきゃ、なんねェし──」
「たいへん、なんだよなぁ……」
「今は、ギルドの連中も、
忙しそうで、頼めねぇしな……」
少し、うんざりとした、
表情を浮かべる、
アックスレイダーズたち。
しかし、絵本のふたりは──。
「んー。どれどれ──」
「あー。これなら──」
──ぺらぺらぺらぺらぺら……!!!
いきなり、アンティとマイスナが、
机の上の書類を、
手で、並べ替え始めたので、
トレイガー達3人は、面を食らう。
「お、おぃッ……!?」
「ちょ、ちょ……!?」
「どした、どした……!?」
「ん。マイスナ、これ、そっちだわ」
「あぃー。アンティ、それ貸してー」
ペラペラペラペラ、
ぱろぱろぱろぱろ──……。
────ぺらり。
「んぃ。完了ぉー」
「どっこいせー!」
「「「 ・・・・・・ 」」」
驚くことに、
300枚ほどあった書類は、
ものの1分ほどで、
大きな三つの山に、
綺麗に、分けられている。
積み上がった紙は、
美しく重ねられており、
まるで、セピア色の
ブロックのようである。
「これで、3コース分、ですよっ♪」
「ぜんぶの山、ABC順に、
名前、ならべ替えてありますっ」
アックスレイダーズは、
目が、点である。
「・・、……ぉ、、、おぅ……。
ありがと、よ……?」
「す、すげぇ〜〜……ッッ……」
「は、はえぇええ──っ……!」
アンティとマイスナは、
ニコニコしている。
「……さすが、" レターライダーズ "だな。
どれ。飯でも、おごらせろや」
「──んっ!?
ぃ、いや! それは……、
いーですって!」
「気に、しない。
ランチの、ついで だから」
「……はんっ♪ 歳上には、
払わせときゃあ、いいんだぜ?」
「た、助かったぜぇぇぇええ……!
泣けてきやがるぅぅぅ……!!」
「ほ、ホントに、名前順に、
なってやがらァァァ……!!」
トレイガーたちは、
せっかく整った紙の山が、
崩れないように、
慎重に、帯状の布紐で、
三つの書類束を、
むすび結わえた。
昼飯代は、
アンティ達が、押し切られる形となる。
「な、なんか、すみません……。
さっき、デザートも、
頼んじゃったんデスけど……」
「んだんだ♪
焼きコガネポタタ、
はじめんだってーっ!♪♪」
「ほぉーん。もう、そんな時期かぁ!」
「あ、ブロコロのジャンバラヤ、
大盛り頼むわ!」
「あと、今日のオススメ肉、
盛り合わせで!」
「あぃ〜〜、まいど〜〜っ♪」
細目の店員が、
木のコップを三つ、
追加した後、厨房に、
向かっていく。
トレイガーは、
書類の厚みを、
それぞれ、目算で、
測っている……。
アンティたちが、声をかけた。
「改めて見ると、すんごい量ですねぇ」
「教えるの、たいへんそー」
「まじぃな……やっぱり、足らんぞ」
「げっ、ホントだ……」
「うおぉ、間に合うかなぁ……」
これには、アンティたちが、
ギョッとする。
「え"っ!? 書類、無くしたんスか!?」
「わ、わたし達、ぜんぶ、見たよ!」
「ちげぇ、ちげぇ!
参加人数分の、ポーションが、
足んねぇんだよ!」
「「 ぁ、あぁ…… 」」
トレイガーが、
一番おおきな書類の山を、
ぶっとい指で、トントン、とする。
「これがなぁ、Aコースなんだけどよ。
人数分、ポーションが、いるんだよ。
これが、また……、一人につき、二本……」
「ええっ、多っ!」
「そんな準備も、
やってるんだね……」
「まぁ、金、もらってるからな。
しかし、参ったなァ……」
「アニキ、とりあえず、
忘れて、メシ、食おうぜ……」
「しまったなぁ……こりゃあ、
準備不足だったぜ……」
「その、次のAコース、
いつなんスか……」
「「「 明日 」」」
「え、ぜったいムリじゃん」
マイスナの、無慈悲な、ひと言。
アンティの、あせりの、ひと言。
「どどど、どうすんスか……」
「いや、延期だろ。
安全に実習できなかったら、
あぶねぇし」
「当日、頭さげて、また今度だなぁ」
「うーん、これまでは、
何とか間に合ってたんだけどよ、
しょーがねぇよなぁ……」
「あ、あぁ、そスか……」
「決断、はやい」
キッパリと、"延期"と、
言いきるトレイガーたちに、
アンティとマイスナは、
妙な安心感を覚える。
危険を押し切って、無理やり、
予定通りに実行しないのは、
ある意味、流石であった。
「アニキ……クビになったり、
しねぇかなぁ……」
「まァ……大丈夫だとは思うが、
頭は、下げなきゃなんねェ」
「こんなに、多くなるとは、
思わなかったかンなぁ……」
「「 ……、…… 」」
アックスレイダーズは、
やれやれ、といった表情である。
アンティとマイスナは、
顔を見合わせている。
「えっかな……」
「ええやろ……」
「?」
「トレイガーさん、トレイガーさん」
「チョット、チョット」
「? どしたよ?」
「?」
「?」
アンティは、チョイチョイ、と、
手まねき し。
すると。
そっと、小さなビンが、二本。
いつの間にか、
黄金の手に、握られている。
「……? なんだよ、コレ……」
「ちょっと、いいポーション」
「水で薄めたら増えるやつ」
「……」
トレイガーは、察しが良く。
この時点で、質問した。
「……等級は?」
アンティたちは、一瞬、
戸惑ったが──。
──こそり、と。
「自分たちで、調べたんだけど……」
「たぶん、特1等級クラスくらい……」
「 あ っ 、ア ホ か あ ・・・!? 」
回復薬 系は、
古い言い方では、等級レベルが、
1から、7まであり。
ちなみに、
一番レベルが高い回復薬は、
" ポーション "とは、言わない。
「
ばっ、バカ野郎ぉおおお……!
え、" エリクサー "、じゃねぇッか……!!
し、しかも、二瓶も……!
」
トレイガーは、ギョッとする。
それも当然、
それなりの家が、
ぶっ建つほどの、お値段である。
アンティたちは、
小声で言ったが、
このテーブルの五人には、
聞こえる声量であった。
残りの斧の二人は、
顔面が、硬直している。
「こっ、こんな所で、
出すモンじゃねぇ……!
ほ、ホンモノ、なのか……!?」
トレイガーも、思わず、
声を抑えて、聞き返した。
「出処、秘密に してくれたら、
それで、構いませんから……」
「困ってるんでしょ?」
「……、……」
トレイガーは、
眉間を指で摘んで、
考えこんでいる。
「……いくらだ」
「いいですって」
「グラタンの、お礼ってことで」
コイツら、プレゼントする気、
マンマンである。
「アホォ……。
わりィが、このグラタンに、
そんな価値は、ねェ……!」
「ほれは、グラタンに、失礼っすよ……!!」
「さいこうに、美味しいよ? もがもが♪♪」
もっぱら美味しい グラタンに、
違いは、なかった。
左右の斧使い二人は、号泣している。
「あ、アニキぃ……!!
ょ、よがったなぁ〜〜……!!」
「こっ、これで、ポーション集めに、
駆けずり回らなくて、済むぜぇ……!!」
悪用するという、考えが、ない。
当然、トレイガーもである。
「はァ……なるほど……。
これが、絵本の世界か。
……ったく。もらっとくぜ?」
「「 にこにこ 」」
「それで? 黄金ポタタは、
何百本、食べるんだ?」
二人の主人公は、
きひひ、と、笑った。










