マジックショー! さーしーえー
お白湯をくばると、とてもありがたがられた。
いやー思ったほど、眠気がないわね。
ウルフ、うざかったわー。
小分けにくんなよ……。
いや、一気に来ても文句言うけどね。
目の前に、肌色をした、羊のような髪を持つ剣士が立っている。
……優しい色ね。
「あなた……そんな髪の色だったのね」
「! ふふ……こっちのセリフですわ」
な、なんだよう……その大人の女性っぽい笑顔は。
あーあーこの人も乳でかそうだなぁ。やー。
このリメイク乳装甲、まだ少し、隙間あっかんな。
……ぐすん。
────がっ!
うわっ!
なんだなんだ!?
「わぁ────!」
「………………」
……シャンティちゃんが、足に抱き付いている。
あ、この顔、どこかで見た顔だわ。
バヌヌエルで襲撃してきた子供たちが、何人か、この顔だったわ。
なんだ、やっぱり、知ってたんじゃないの、義賊。
「クルルカンって、女の人なんだね!!」
「え、あ、あははは……どうだろ」
うーん、ちがうのよー。
本人ではないのよー。
幽霊は一緒にいるけどねー。
『────仮面より、せめて精霊にしてほしいと、申告。』
「寝言は寝て言いな、って伝えて」
『──────……。』
悪霊って言わないだけ、まだマシなのよ?
あんた、呪い初日の怖さといったら……。
机、カリカリよ?
うう……。
『────仮面より、反省の意を感知。』
よろしい。
それなら、旅のお供と認めましょう。
さぁて、じゃあ、そろそろ行こうかな……。
「もう、ベッドはいい?」
「ええ……とても暖かい毛布でした」
「よかった。咳も出ませんね!」
「ほんとに。ありがとう」
「ありがとー!」
「はーい、どういたしまして!」
────しゅるるるる!
────ばっ!
「わぁ────!! すご────い!!」
「うおっ……声大きいわね。夜も見たじゃない?」
「だってー! 今のほうが、ちゃんと見えたもん!」
そ、そうか。
まあ、朝だもんね。
「まったく、どうなっているのやら……」
「ちょっと……」
「ええ、言いません。言いませんわ! だから、そんな目で見るのは、およしになって!」
「お願いしますね……?」
「お願いされましたわ。……で、あなた、"アレ"は持ってってくれませんの?」
「"アレ"?」
「いや、だから……"レッドハイオーク" を、ですわ……」
「あ……」
い、いっけね……!
超レア豚肉じゃないの……!!
じゅるり……。
「……食べる気まんまんですわね……」
「まぁ……」
「これは……」
「デケェな……」
「うわぁ〜!!」
ところ変わって、さかさま赤大豚前。
うーん、8メルはある。
朝日の下、綺麗に逆さまになって、地面に突き刺さるレッドハイオーク。
……まぬけだな……。
「ねー! なんで、逆さまなのー!?」
「……地面に潜りたかったのよ」
「いえ、あなた……いきなり上から殴りつけたでしょう……」
「ちょっと! 子供の前で! 人聞きの悪いこと言わないでくれる!?」
「……後にも先にも、今日ばかりは、オークに同情しますわ……」
やっかましい。
わ〜〜!!
よく無事だったわね、豚肉ちゃん!
おお、これもしかして……頭から血抜きされてね?
やったわッ!!
逆さまに刺しといてよかった〜〜!
すぐ調理できるじゃないの〜〜!!
「ヒキハ〜! クルルカンが、ガッツポーズしてるよ〜?」
「……見てはいけません、お嬢様……」
え〜〜い、どうとでも言いなさい!
こんな高級食材、丸々なんて、夢みたいだわっ!
普通なら傷むし!
わぁ〜〜!!
食べ物が傷まないなんて、反則よね〜〜!!
嬉しい〜〜!!
「すげぇぴょんぴょんしてんな……娘さん……」
「ああ……この光景の前に、恐怖は微塵もねぇな……」
どこに恐怖する要素があんのよ。
地面に豚肉が刺さってるだけじゃないの。
「いくよ」
「ワクワク……!」
「ほんとうに、入るのかしら……」
「恐らくは……」
「「ごくっ……」」
────しゅるるるるるる、パキン!
マントを一度、完全に背中から、取り外す。
このマントマフラー"白金の劇場幕"は、小さく収納してはいるが、元々、ドニオス劇場館の垂れ幕だ。
当然、かなりの大きさがある。
四隅に歯車をつけ、空中で初めて、大きく広げる。
日光が遮られ、影ができた。
「うわぁ〜〜〜〜!!」
「すげぇ……浮いてるぜ……」
「あんなでかくなんのかよ……」
いえいえ、元々あの大きさなんですよ……。
「……驚きすぎて、なんだか麻痺してしまいますわ」
「ふふ、ほんとねぇ……」
いや〜、壮観だわね。
ありゃ、でっかいわ。
ドニオス劇場館、今度行ってみようかな。
あ……この格好だと、出禁になるわね……多分。
「よっと……」
8メルある、豚肉タワーを、ゆっくりと垂れ幕が覆っていく。
豚肉があるはずの所は、しかし、何もないように、幕が降りていく。
垂れ幕に隠して、大きめのバッグ歯車が開いているのだ。
「えっ! なんで……」
「飲み込んでいるのか……」
あ────確かにこれ、
客観的に見ると、世紀の大魔術みたいだわ。
なんか恥ずかしいわね。
────フワァ……。
劇場幕が、完全に幕を降ろす。
地面に、大きな布があるだけだ。
豚肉のシルエットは、完全に、ない。
「クラウン、"マフラーセット"」
『────レディ。登録呼出。』
────きゅおおおおん!!
────フオオオオ……!!
2箇所のバッグ歯車に、劇場幕が収納されていく。
フワリと持ち上がるそれは、大きな布をかぶった、オバケの親玉みたいだ。
「……朝でなければ、レイスと勘違いしますね……」
うぇっ、レイスって、ゴースト系の魔物でしょ……。
こんな見た目してんの……。
何それ……怖いじゃない。
────ブワッ!
勢いを付けて、幕が私に降りてくる。
同時進行で、どんどん小さくなっていく。
────チャキ、チャキ!
────しゅるるるる……。
ふさぁ……。
はい、元通り。
「うわぁ────!!!」
パチパチパチパチパチ───!
え、なに、拍手ですか。
「これは、凄いわねえ……!!」
パチパチパチパチパチ……!
ええっ、おばあちゃままで……!
「俺たちもやっとくか!」
「そうだな!」
パチパチパチパチパチパチ!
パチパチパチパチパチパチ!
あ、あなた達も!?
「……やれやれですわ」
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!!
ちょ、やめれ。
恥ずいから。