炎番晩酌
連投です(*^^*)
当然:「うーむ、美味そうじゃ── 」
灰姫:「・・・」
炎の夫婦が、
多少、薄暗い部屋にて、
晩酌と、洒落こんでいる。
仄かな火の魔石の光は。
暗闇と、穏やかな、
ひっそりとした、
あたたかいオレンジとの、
調和を、織り成している──。
当然:「しもうた……骨取りの皿を、
忘れよったわ……。
まぁ、よいか」
灰姫:「・・・」
座布団に座る、トウゼンローの御前、
四角い黒漆塗りの食盆には。
焼きアラ鮭の大切れと、
きゅうりの浅漬け、
お猪口と、徳利など、並ぶ。
焼き鮭の紅脂は、
暗き中でも、火の光を反射し、
岩塩の香り相まり、
何とも食欲を、そそる頃合いである。
トウゼンローは、
慣れた手つきで、
長箸にて、
鮭の、花びらのような大身を取り、
それを、口の中へと、放り込んだ。
当然:「──っ。うむ、美味い」
灰姫:「・・・」
豊かな脂と、塩の鮮烈。
美味く、ない訳が、なかろう。
当然:「しもうたっ。沢庵と辣韮も、
持ってくれば、よかったでのぅ」
灰姫:「・・・」
トウゼンローは、片足を崩し、
少々、塩気の多い願望を語りながら、
辛口の酒を、自らで注ぐ。
戦いの終わりに相応しい、
のんびりとした、時間であろう。
数々の謎は残るが、
今は──ゆるりと、身を休めねば。
当然:「……いつまで、
そうしておるのか」
灰姫:「・・・」
──ただ、おかしかったのは。
雑多に座り、食を楽しむ、
トウゼンローの、傍らで。
ハイ姫は、空皿の乗る、
黒き漆器の前で。
ダンと、正座にて、
背を伸ばし。
実に行儀よく──、
構え座って、おったのである。
それは……まるで、御前の漆器に。
見えぬ小刀でも、
乗っているかのような、光景である。
当然:「……腹でも、斬るつもりか、
まったく。
そこにあるのは、
鮭の取り皿じゃぞ?」
灰姫:「……領主のヨメなんぞ、
しとらなんだら、
とうに、斬っておったぇ──」
当然:「ば、バカ者ぉ……!
縁起でもない事を、
言うでないわ……!」
そう言って、トウゼンローは、
妻の顔を見たが、
──思わず、噴き出してしまう。
当然:「……っ、ふふ」
灰姫:「……笑うが、良いわ」
当然:「ぃ、いやっ、スマン……。
いつも、気の強い お前が、
借りてきた、
ネコのようじゃから──」
灰姫:「……、……」
ハイ姫もまた、
それしきでは、怒らぬ。
心痛は、自らの行いに、あり。
トウゼンローは、
当然、鮭など、いじりながら、
妻を、励ますのだろう。
当然:「……良いではないか。
あの娘たちも、
気になど、しておらぬであろうて」
灰姫:「……。此度の行い……」
当然:「ん?」
灰姫:「久しぶりに……若き、
バカ娘の時代を、
思い起こしよぅたわ……」
当然:「ふ、ふ」
灰姫:「まさか……。
"相互隷属"……、
とは、のぅ……」
当然:「うむ」
灰姫:「ふ────ぅ──…… 」
灰姫は、相も変わらず、
正座にて、腿に手など置きながら、
目を閉じ、息を静かに整え、
そして、ダンナに聞いた。
灰姫:「……戦の途中も」
当然:「む?」
灰姫:「輝いて、おったか?」
当然:「……。最初は、
特殊な、流路束だと、
思っておったのじゃ──。っ──」
お猪口の冷酒が、
解け消える。
当然:「──っ……。
じゃが……それだけでは、
なかったのう。
アレは、互いに命じ、
極限まで、チカラを、
引き出しておる」
灰姫:「……」
当然:「眠る時に、互いの髪は、
つねに、接続されるようじゃ。
面妖かつ、いやに美しき絵面なり。
摩訶不思議な、光景じゃった……」
灰姫:「……、……。
自ら、望んで……、
アレを、受け入れ合ったと、
言うのか、ぇ……?」
当然:「やはり……お前の目から見ても、
凄まじいか?」
灰姫:「……尋常ではない」
灰姫は、姿勢は正したまま、
黒とオレンジの部屋の中、
目を、落とすように、開く。
灰姫:「内臓や……脳髄にまで、
互いを律する呪いが、
食い込みあって、おるのじゃぞ……?
正直、想像が、つかぬ……。
恐らく、生命活動は、
ほぼ、同調している、はずじゃ……。
傷は、同じ場所が裂け、
片方が死ねば、同時に……死ぬ」
当然:「うむ……」
灰姫:「それだけでは、ない。
あれだけの、侵食じゃ……。
空腹感や、体調、思考なども、
共鳴、しておるのだと、
したら……── 」
当然:「……。あの者たちの、戦う姿。
ワシは、少ししか、
見ておらぬがな──」
灰姫:「──む、……?」
当然:「時折、あの二人は、
示し合わしたように……、
──いや。
まるで……" ふたりで、ひとり "、
のように、動くのじゃ」
灰姫:「 " ふたりで、ひとり "……」
当然:「──うむ……。
阿吽の呼吸とか……、
そういう位は、超越しておる。
──からくりのように、動く。
それが、当然で、あるように」
灰姫:「……! ……。
あのような、凄まじき二人が、
寸分の違いもなく、
番にて、攻め入ったら、、。
それは、百戦錬磨であろうの」
当然:「……で、あろうな。……ふふ!
勝てる未来は、まるで見えぬ」
灰姫:「あたり前じゃ……。
直進が、見えんのじゃぞ……?」
当然:「ふふ、ふふふ……。
で、あるな──」
きゅうりは、パリポリと音を上げ、
塩鮭との調和は、
なかなかの、ものである。
灰姫:「確かに……良い手じゃ」
当然:「む?」
灰姫:「あれでは……隷属呪法を、
上書きすることなど、できぬ。
誰にも穢されぬ……。
ふたりだけの、
無敵の、意志じゃ──」
当然:「……うむ」
灰姫:「じゃが……そのために、
あの二人は、人生を、
掻き捨てておる……」
当然:「……──!」
トウゼンローは、
きゅうりを噛むを、留める。
当然:「それは、、、。
あまりにも……、早計な、
物言いじゃろうて」
灰姫:「……そうかぇ?
あのような、全身の繋がり。
片方が、男に抱かれれば、
その、昂りさえも、
片割れに、伝わるであろうよ」
当然:「ぬ、それは……」
灰姫:「それに……万が一、
片方が狙われれば、
即座に、自分の危機となる。
あの者たちは……、一生、
永遠に、互いを、
守り続けねば ならぬ……」
当然:「……ぅ、ぅうむ……」
灰姫:「覚悟の……うえ、
なのじゃろうか……。
あのような、我が子と同じ、
年頃の、娘たちが……」
当然:「そう……見えるが。
決断の時は……あったのであろう」
灰姫:「生命を、他人に預けることを?」
当然:「……」
灰姫:「愚かじゃが……、
妾とて、
主と、そう、なれと、
言われたら……迷う……」
当然:「……! ふ……、
それは、当然である」
灰姫:「じゃが……もし、もし、の。
主の言う通り、
あの二人が、すべて、
覚悟の上で……、
あのような繋がりを、
求めたのだと、したら──」
当然:「──?」
灰姫:「あの者たちを……"嫁入り"へなど、
拐かすべきでは、なかった……!」
当然:「 ……!! 」
灰姫:「あの二人……よもや、
ただの、盟友……という、
仲では、あるまい──……」
当然:「それは……」
先ほどの、口づけを。
トウゼンローと、ハイ姫も、見た。
あれは────"覚悟"である。
"添い遂げる"、という、意味での────。
灰姫:「久しく──心より、
恥じておる……。
そのような覚悟に……。
利だけを考え、
嫁に来いなどと、
言わねば、良かった……」
当然:「そぉ、じゃなぁ……──」
少し、天井を見て。
トウゼンローは、冷酒を、あおった。
……女同士というのは、
ついぞ、今まで、周りに居なかったが。
なるほど……あの二人は、
どうも、深き、深き、
絆を抱くように思える。
ハイ姫は、無粋な自らの欲望を、
正しく、恥じていたのである。
灰姫:「……、ふぅ……」
当然:「──ふ、ワシも、宣ったわ。
お前だけの、罪では、なかろう」
灰姫:「バカ者……。
そういぅ問題ではない」
当然:「ふ。じゃから、
空皿にて、切腹を?」
灰姫:「たわけ……!」
心痛するハイ姫に、
苦くも、しかし感情の動きが、
その照る顔に、見え始める。
灰姫:「お主というやつは、
本当に、まったく……!」
当然:「──ふ、繊細な女子のように、
可愛らしい所が残るは、
良いとは、思うが──」
灰姫:「たわけぇ……!///」
当然:「……。あのふたり。
互いの命よりも、
もう少し……重いものを、
背負うて、おる──……」
灰姫:「 な……!? 」
当然:「他言、無用── 」
トウゼンローは、語りたる。
つい、数日前に知った、
世界の、真理を──。
灰姫:「世界を、支える……ッ、
七つの神を、宿す、巫女……!?」
当然:「……信じられんか」
灰姫:「……、……っ、……。
……言葉が、ないっ・・・」
ハイ姫は、
手で、額を押さえ、俯く。
当然:「なれば、あの力、
得心も、いこうぞ」
灰姫:「……"天啓"、であると……?」
当然:「誰かが、委ねたのじゃ」
灰姫:「……!!」
当然:「そうとしか……思えぬッッ!!」
トウゼンローは、真っ直ぐに、
虚空を見──、
酒を、あおる。
当然:「──ハイ よ──。
我らの罪心など、
掻き捨てておけぃ・・・!!」
灰姫:「・・・!!」
当然:「恐らく……我らでは。
我らが業では……、
あの二人への恩は、、、返せぬ。
チカラでは……、
助けられんのじゃ──」
灰姫:「ぁ……」
当然:「最強の用心棒は、
つねに、たがいに、
そばに、おるのだ」
──絵本の、敵と、味方。
物語の、最強と、最強。
それが、たがいを、支え合う、今──。
当然:「──だから、こそ。
我らは……"それ以外"のことで、
彼奴等を──助け、
守らねば、ならぬ」
灰姫:「……!」
当然:「落ち込むは、
僅かな夢と知れ、灰よ──!!」
灰姫:「……!! ……!!!」
当然:「ふ……。
乙女に戻るは、
ワシが、鮭を楽しむ、
間ぐらいに、するのじゃぞ?」
灰姫:「トウゼンロー……」
当然郎は、トクトクと、
もうひとつの、お猪口に、
酒を継ぎ。
妻の前に、すぅ、と、渡す。
当然:「
我ら、何故か、
このような、城に居る。
ふ──穴が空き、
ハリボテでもな──。
それが──何か、
助けになることも、
あるはず じゃあああ……!!
」
灰姫:「 ……──ッ! 」
当然:「 ……そうは、思わぬか?
我が、番よ──……! 」
灰姫:「……──、ふんっ!!///」
夜は、炎の休む時。
灰は、盃を受け取り、
ぐぃ、と、熱い流れを成すのだった。
焼き鮭、最強。
>゜))))>≪










