タイヘン・ポップ・ヘンタイ
ぜんぶにいみなんて
なくたっていいんだ
────カラン ─ カラン。
──とある、変態が。
家畜用の野菜の種を購入し、
服飾店へと、入店した。
彼は……客では、ない。
この、男こそが。
この店の──店主なのである。
「ふ……。今日は、もう、
せくすぃーな客人は、来ぬ、かもな──」
黒い、仮面。
黒い、手袋。
黒い、ショートブーツ。
黒い、V字パンツ。
そして、茶色い、紙袋。
──ほとんど、全裸の、男。
その格好で、てめー、
どうやって買い物してきたんだ、
コノヤロー……と、
突っ込んでは、いけない。
「────……」
── シ ────……──ン……、、。
まだ、外は明るいはずだが。
それでも、店の中は、暗く。
ひとりだけの店内は、
たとえ、変態だとしても、
多少、さびしさも、ある。
「────ふ……。
せくすぃー・さいれんと──」
半裸の、黒い変態は、
ちょっと、カッコつけたような、
意味わかんねぇ、キザなセリフを吐き。
小さな、わきに抱えられるほどの、
紙袋を持って、店内の、
奥へと、進む──。
「ふぅむ……ここに、せくすぃーな、
光の魔石でも、打ち込むかな……」
家畜のエサとして売られていた、
野菜のタネだが、
もちろん、服飾店に、食用牛や、
ボルボンボ・コッコ鳥など、居るまい。
むしろ、店主自身が、
そこらの常人より、よっぽど畜生……え?
それは言い過ぎ?
……ごめん。
「────、……」
アブノ・マールが立ち止まったのは、
なんと、キッチンである。
あまり、使わないからこそ、
こじんまりとした、小綺麗な──、
誰もいない、調理場。
「……む」
────サラッララララァァ──……!
乾燥した、野菜の種を、
フライパンの上に、流す。
かたい、小気味よい音──。
「──……イニィ殿が、
洗ってくれていたのであるかな?」
アブノは、
洗った覚えのない、
フライパンのフタを被せ、
火の魔石に、魔力を流す。
「ふ──……。
その意気や、せくすぃ──……!」
────ボッ!!
炎は、彼の闇属性に気圧され、
一瞬だけ、紫となる。
セリフ意味わかんねぇな。
「──っむ! いかん!
バターが……!!」
うっかりな変態は、
フライパンのフタの隙間から、
あわてて、ひと切れのバターを、
滑り込ませた。
「ふーぅ……。
せくすぃー・でんじゃらす・・・!!」
ひと息を はく、変態。
熱されていくフライパンを、
やがて、手首のスナップを効かせ、
ザラザラと、振り出している。
──ざらァ──ざらァ──。
────かんっ、かんっ。
「──ふんっ。ふんっ。せくすぃ──……っ!」
小馴れた手つきで、
乾燥した野菜の種は、
フタをした、フライパンの中で、
炒られていく──。
──ボンっ!!
と、音がした。
────" ポップコーン "、とは。
固い種子殻の中の、熱と圧力が、
亀裂により、一気に開放され、
膨化することで成る、
スナック菓子である。
変態は、コレを、久しぶりに作る。
記憶のない、変態。
だが──この、奇妙な調理法が、
過去の、ヒントの、ひとつ、、、
なの、だろうか────……?
──ボンッ。
────ポンっ!
──────ボブっっ!!
「────……」
家畜用の乾燥種子を、
このように炒り、
食用とする文化は、
どうやら、西の地方では、
まだ、あまり馴染みのない、
調理法のようである。
──。
だと、したら……。
自分は、いったい、
何故、この調理法を、
知っているのか。
アブノは、少しの、
思案を、得る。
「……、我は……なんだ?」
この変態は……、
いったい、誰だ?
髪も、爪も、
はるかに、伸びぬ。
時が……減速したかのような、
半裸の、肉体。
「せくすぃ……くえすちょんっ……!」
彼は、いつから。
何処からか、来たのか──……?
はて、、、な──……?
「──……。──むっ! しまった!!」
ポップコーンを作る時は、
炒り過ぎては、いけない。
その白は、
容易に──コゲるからである。
よくばっては、いけない。
破裂音が、なり止む前に、
火の魔石は、止めるべきである。
「──ぉ、む……ふぅ……!!
ギリギリ、せくすぃー、か……!!」
幸いなことに、
大惨事には、至らなかった、
少しコゲた、ポップコーン。
変態は、フライパンのフタを取り、
塩を、パラパラと、ふりかけた。
「む、バターが、無くなってしまったか。
これは……せくすぃーであったな」
どゆことやねん。
いや……何も言うまい。
変態は、ポップな、コーンの入った、
木目が粗野に美しい皿を持ち。
服飾店の、受付カウンタの椅子に、
ドッカリと、座ったった。
彼は、相変わらずのV字パンツなので、
少し、おケツが寒そうである──。
「うむむ……パリポリ。せくすぃー……!」
その仮面で、きさま、
どっから食べとんねん、ワレェ。
とは……。いや……、なにも言うまい。
アブノ・マールは、
静かな店内で。
パリポリと、
真っ白なポップコーンを、
食べる。
出来たての、温かい、
うす塩味のポップコーンは、
これは、また……確かに、
せくすぃーで、乙な、スナックである。
「ふ……今度は、イニィ殿と、
あの、恩深きメイドたちとも、
せくすぃーぽっぷ・パーティでも、
するであるかな」
その言い方、いかがわしいから、
やめれ。
「……! ……、む……」
変態の、手が、止まった。
……わぃのせいや、ないぞ。
「……」
アブノ・マールが見つけたのは、
皿の底の……真っ黒な、
弾けもしなかった、
黒い、種子である。
「……」
ポップコーンの……すべての粒を、
破裂さす事は、かなり、難しい。
加熱し過ぎると、
その、白い衣は、
容易く、焦げる。
不思議な、ものだ。
成功すれば、まっしろに、なるのに。
中には、破裂すら、せず。
まっくろな、種となって、
死ぬ命が あるのだ────。
「……ふ。まるで……」
自らの手袋の色を見て、
それ以上は、変態は、言わなかった。
弾けられず、
ただ、コゲついてしまった、
不完全な、種子のような、自分。
「ふ……。せくすぃーとは、
ほど、遠い、ことで……あるな」
まぁ、ここに黄金の少女が居れば、
「オメーほど割り切って
ハジけてるヤツも珍しいわ
ふざけんなよ半裸が服ちょーだい」
とか言いそうだが、
残念なことに彼女は、
今、南の地にて、
たいへんな目にあっている、
最中である。
孤独の"黒"を、
"白"にする者は、
ここには────いない。
「せくすぃーとは……弱肉、強食であるな」
もう、突っ込まないことにした。
地の文は、地の文らしく、
あるべきである。
「命とは……因果な、せくすぃー」
アンティ、帰ってきてー。
「・・・・。──むっっ・・・!?」
──ガタンっ! ──と。
アブノは、立つ。
「この、気配は──……?」
闇の、せくすぃーが、
何かを、感じた。
「これは…………。気の、せい、か?
いや────……」
アブノは、見つめる。
その、止まった、カラダで。
彼方────"南の地"を。
「……"羨望"、"渇望"……、
そして……"絶望"……、……!」
彼にも、仔細は、わからぬ。
だが──確かに。
己の、"闇"の部分が、
それを、感じた。
「この、想いは──……。
" せくすぃーに、なれなかった者たち "の、
つどいし……ちから」
アブノは……見る。
木目皿の上の、
何にも、なれなかった、
黒い、種子たちを。
「命にすら……なれなかった、
せくすぃーを……。
おしかためては……ならぬ」
せくすぃーは、
よく、自分でも分からないまま、
彼方を、見上げる──。
「こどくだからこそ、
成し得ない、悪もあるのだ」
ポップコーンを・・・つかむ!
──ポリポリっ……!!!
「……むっ! 美味いっ!
この……命の、
残酷な、せくすぃー・をっ・・・!!」
それは、祈りに、近かった。
「──どうか、劈いてくれ、姫よ──」
変態は、ここにいる。
( *˙ω˙*)و グッ!










