圧迫面接御身前
『────対象の:ストレス値が……☼』
「……、……」
サブUIの表示で、
ヒナメ・タネガシが、
胃痙攣を起こしていると知って、
アンティは、慎重にならなければ、
ならなかった。
( いっそのこと、立ち去るべきよね……? )
それは、そうだった。
身に覚えは無いが、
この状況は、自分たちとの対面が、
生み出している。
マイスナも、通信にて賛同した。
だが……。
アンティは、動かない。
( ……アンティ? )
珍しく、冷や汗をかいて、
様子をうかがうマイスナ。
アンティには……葛藤があった。
( ……くそ、くそ……ッ!
クルルカンしといて、
ブルブル震える子供から、
逃げるってか……!? )
( ぁ、アンティ……! )
これには、マイスナが焦る。
( ふざけんなっ……!!
なんで、んなコト、
しなきゃあ、いけないんだっ……!! )
──" 二代目、黄金の義賊 "。
普段は、"食堂娘の仮装"、などと、
自分で言って、フカしてはいるが。
なけなしの、"矜恃"、ってモンがあった。
それは、"意地"にも、近かった。
要するに、アンティは。
紛うことなき義賊の後継者として、
"クルルカンが、
泣いてるガキから逃げんのは、
やっちゃ、いけねぇ事だろ?"
と、思ったのである。
それは、"最善"では、
無かったのかも、しれなかった──。
「……土下座は、やめなさい」
「──ッッ……!」
小さな若君の背中が、
ビクッッ、と、跳ねる。
『────まずいです!☼
────吐瀉物が──☼』
「 ────そこよ 」
クラウンが警告しきる前に、
アンティは、ヒナメの食道に、
小さなバック歯車を召喚し、
吐き出されたモノを吸い込み
彼の窒息を防止した。
『────ぉ:お見事です……☼』
{{ ──そのままの話し方じゃ、
その子、動かないわよ? }}
魔王の声が響く。
「イニィさん……!」
驚くアンティ。
魔の宿るフォークを持つは、
宿敵、マイスナである。
「あんた……」
「立ち去らないと決めたなら、
"こころ"を、理解するべき」
アンティは、これを聞いて、
何度目か分からない感謝を、
怨敵に抱く。
立ち去ることが良いはずだ。
だが、マイスナは、
アンティの『ここで、どうにかしたい』、
という考えに合わせ、
相応しい者を、
召喚したのである。
「イニィさんなら、心が見える」
「ぁりがと……」
魔王は、代弁した。
{{ 何かを、のぞかれている }}
「どういうこと?」
「イニィさん、私は……、
楽しく、おしゃべりできる、
だけでいい」
{{ 難しいわ。
そう、か……。正しく、
見られているのかも、しれない }}
「正しく?」
「私たち、……"何"に、見えているの?」
魔王は、即答する。
{{ "君臨者" }}
「「 ──… 」」
一拍。
「なにを……」
{{ 貴女たちが、もし、
自分のせいで、仲違いして、
万が一、敵同士になったら──。
世界が、滅びると、思ってる }}
「ちょっ」
{{ そして、それは私も、
本当のことだと思う }}
魔王の言及に、
アンティ、マイスナ共々、
すぐ言葉が出ない。
「……、彼のせいで、
そんなことには、ならない」
{{ いま彼は、なぜ、今まで、
"絶対の者"に会った時の"振る舞い"を、
修めていなかったのかを、
死ぬほど後悔してる }}
「かんべんしろし……」
アンティ達が見るヒナメは、
まるで、うさ丸のように、
まん丸に なりながら、
ブルブル土下座する、
女の子のような、男の子だ。
「……、……」
見透かされて、しまったのだろうか。
この……、貧相な身体に宿る、
数々の、神秘たちを──。
アンティは、魔に、助力する。
「……私たちの言葉を届けるには、
どうしたらいい?」
{{ ……貴女たちが、ヒトとして、
生き抜きたいのは、良く、知ってる。
でも、今は──…… }}
アンティは、予想が、ついた。
{{ "神"として、しゃべりなさい }}
少し、黄金の瞳は、とじられ。
静かに、息を吐き。
そっと、それは、日の出の如く──。
「……面を、あげなさい」
──ビクッ……!
「いつまで、そうしているつもりですか」
アンティの、落ち着きはらった声に、
マイスナは、少し、ビックリした。
色んな彼女の声を知っている、
マイスナでさえも、
今のアンティの声は、
大人びて、まるで別人のようだった。
「頭を下げ続けることが、敬意ではない」
マイスナは、便乗した。
「その行為によって、私たちの意が、
損なわれることは、ありません」
ヒナメの背中は、
心臓のように、揺れている。
「……怯えさせる事は、本意ではない。
──命じます。
穏やかに……顔をあげよ」
ヒナメは、
たいへん迷っているようだったが、
これ以上の沈黙は、
逆に失礼であると、分かっている──。
御前には、自分しか居ぬ。
覚悟は──あったのだろう。
やがて、少しずつ、
頭が、持ち上がり──。
「ゆっくりで良い」
アンティの言葉も助け、
ヒナメは──ほんとうに、
ゆっくりと──。
「 ……、──」
顔を、あげた。
その幼顔は、
可哀想に、夜露の如く汗で、
湿っている。
座にて、姿勢を正したヒナメには、
やはり、その瞳に、
あぐらをかく、黄金の女神と、
立ち誇る、白銀の女神が映った。
小さな男の子が、
頑張って、言葉を選んだ。
「……こ、うかぃ、して……ぉります」
「「 ……? 」」
無言にて、疑問を問う。
「この場に、立ち会う前に……、
私は、学ぶ、べきで、したっ……」
アンティは、複雑な表情で問う。
「……どう見える?」
「かがやける……輪冠が」
「わたしは?」
「翼にて、見おろす光」
こればっかりは、
アンティもマイスナも、キョトンとする。
クラウンが輪っかなのは、当然だし、
ローザの羽根がキレイなのも、当然だ。
少しだけ緊張を忘れ、
アンマイは、見つめ合ってしまった。
「 多すぎる…… 」
ヒナメが、ポツンと吐き、
アンマイは、ハッ、っとした。
反射的に聞く。
「なにが」
「未来が」
いよいよアンマイは、
パチクリする。
ヒナメは、正座のまま、
汗は凄かったが、
震えは、止まっていた。
「すべてを……になっておられる」
「「 ……、…… 」」
なに言ってんだ、と、
笑い飛ばしたい。
しかし、その表現は、
アンティ達にとって……、
少し、分かってしまうことだった。
「……私が滅ぶと、どうなる?」
「 、 」
ヒナメが、言葉を詰まらす。
やはり、アンティの意地のようなものが、
先行した。
「言いなさい」
「……、……滅ぼせるのは……、
互い様、のみに、ございます……っ」
じっとりと、アンマイに見られて。
ヒナメは、震えが止まらない。
銀が答えた。
「──で、しょうね。
そうなれば、どうなります?」
「御身が滅ぼし合う前に、
すべてが、なくなりまする」
これに、苦い表情をしたのは、
むしろ、クラウンだった。
『────っ……☼
────なんの:根拠が……☼』
『>>>……いいさ。
>>>せっかくの、圧迫面接なんだ。
>>>優しくするだけじゃ、
>>>子供は育たないね?』
軽口で、嫁を宥めるつもりが、
先代も、十分にオラついている。
アンティが、少し、
楽しそうに言う。
「私たちが争うのが、コワイ?」
「この駄児に免じて、ごようしゃを・・・」
「頭を下げるな」
マイスナの僅かな怒気が、
再び頭を着けようとするヒナメを、
ビクリ、と止めた。
アンティが、
少し悪いことを聞いた、と、
話題を変える意味でも、質問する。
「……未来は、ひとつに決まっている?」
ヒナメは、横に振る。
「いつでも……選ぶことが、出来ます故」
「ならば、夢に、過ぎないわ」
マイスナが、ピシャン、と、
言い切った。
ちょっと厳しいと思いながら、
アンティも、そう思った。
「怖がったって、
仕方ない、ことも……ある」
アンティの言葉に、
しかし、ヒナメの情は、
動かない。
ヒナメが……ぽつん、と。
「怖がる、ことは……」
「「 ……? 」」
「ひとつの……"自由"です」
これには、逆にアンティが、
気圧されてしまった。
( この子は……たぶん )
たぶん、前もって、
"怖いこと"──を、知ってしまって。
それに、怯えながら、
暮らしたことがある。
いや、もしかしたら、今も──。
( …………、…… )
アンティは、不憫に思う。
しかし、今度は逆にマイスナが、
少し、カチンと、してしまった。
「足掻くことも、また、
自由だと、思います」
「ま、マイスナ」
ヨメがプンプンしだしたので、
黄金の義賊は、焦りだす。
「あなた……不思議なチカラで、
未来が、見えるのですよね?
たまに、どうしても回避できない、
未来が、あるのですか?」
「よせって」
マイちゃん、ブチ切れやんけ。
アンティは、妙なことになったと、
オロオロする。
「にょきっとなー」
「かん、かーん!」
「わたし……きらいです。
そういうの。
絶望した、ことがあります。
そして、それを、
打ち砕かれた、ことも。
完膚なきまでに、
私の心に、土足で入ってきて。
そして、私も、土足で、
入ってやった」
「ん、……///」
アンティは、ちょっと、
どーゅー顔していいのか、
わからない。
「言ってみなさい。
そんな事を、言うのなら」
でも、マイちゃんは、
へそ曲げよった。
「あなたが怖がる、
確かな未来が、
いま、見えるのですか?」
「ぅっ、、──……」
何故か、銀の神様を怒らせてしまって、
ヒナメは正座のまま、
ヒヤヒヤする。
アンティは、あーぁーと、
思いながらも、
正直……"先を見通すチカラ"、
というのには、
多少は懐疑的である。
だが、ヒナメのバイタルを、
モニターしているが、
どうやら慣れてきたのか、
極限の緊張状態は、脱したようである。
( やれやれ……なんとか、
逃げ出さずには、済みそうよね )
「言ってみなさい」
「そっ、それは……」
いつの間にか、
妙な問い詰め方をされているヒナメは、
逃げ出したそうだが。
うさ丸が、
しかめっ面で、
ポムポム跳ねてきて、
あぐらアンティの脚を、
前足グローブでタップしながら、
苦言を呈した。
ポムポム。
「にょっ……きにょきー。
にょきっと、にょんにょや、
にょんにょにょやぁー……!」
──PON☆
" こども いじめるの
よくない よめさん
はやく とめろ "
アンティは、失笑せずには、
いられない。
( き、ひひ、ひひひ…… )
うさぎさんは、いつだって、
やさしい。
さぁて、そろそろ……止めてやるか、
と、黄金のヒザを──。
と、すると。
マイスナのプレッシャーに負け、
ヒナメが語り出した。
"怖い未来が分かるのなら言ってみろ"に、
対しての返礼である。
「 " うつわの "…… 」
アンティは、軽い気もちで、
耳を、傾ける。
「
" うつわの みこ の "
" あまい かじつ "
" おおきな くち "
" おおきな やいば "
" たべられる もの "
" たべる もの "
" やさしさ で "
" おさまる わけが ない "
」
それは、唄のようでもあった。
「
" やつが くるぞ "
" やつが ひそむぞ "
" おって くるぞ "
" はさみ こむぞ "
" きんの やいば と "
" ぎんの やいば が "
" もし かまぬの なら── "
」
ヒナメの、オッドアイが、
取り憑かれたように、光る──。
「
" うつわ は トドメ と "
" あいなる だろう── "
」
「 ── う さ ま る ッッッ !!!
─── こ い っ っ っ !!!!! 」
「──に"ょ……っ!?!?」
「えっ!?」
「かんくゅ?」
アンティが、いきなり叫んだので、
皆、驚く。
彼女は、うさぎの勇者を、
ふん掴み──、
あろうことか、
天守の窓より、乗り出していた。
「ぁぁぁぁああ、アンティ!
どうしたのっっ!?」
「くゆっく!?」
「うさ丸っっ、とべ!!!!!」
「 に ょ き っ と !?!?!? 」
アンティの突然の行動に、
誰も、思考が追いついていない。
しかし、アンティは、
その直感を、疑わない──。
「 イヤな……予感が、する……!
頼む、うさ丸、いそげ──!!!
アソコよ! ラクーン族がいる、
避難基地……!!! 」
「にょっき……!!」
うさ丸も、まったく、
ワケが分からなかった。
しかし──勇者は、
黄金の瞳に。
──確かな、信念を、感じ取った。
「うさ丸・・・!!」
勇者は、応えることにした。
──ばぼ、ばぼんんンンン──つ!!!
『『『
にょきっと、なあああああ
ああああああ!!!!!!
』』』
赤の装甲から、炎波渦巻く、
それは、無敵のウサ公である!!!!!
「──マイスナ、 こ い っ !!!
カンクルも、はやく!!!」
「──うっ、うん・・・!!?」
「くゆゆゆゆゅゅゅ……!?!?」
ふたりと、いっぴきを、
乗せた勇者は、
──古の城より、跳躍する。
『『『 にょきっと、やぁああああああ
ああああああああああああああ
あぁぁいいいいい!!!!!! 』』』
突如、飛来した、
巨大なラビットに、
第一駐屯地は、騒然とした。
──ずどぉおおおおおおおんんんんん!!!!!
「うおおおおおおおおおお!?!?!?」
「なんだああああああああ!?!?!?」
「らっ、らびっと、
かああああああああああ!!!???」
「ま、まるい、ぞおおおお!!!!!!」
『『『 にょきっと、なっ☆ 』』』
臨戦態勢を とろうとする、
各、護衛責任者たち。
しかし、その巨大なラビットから、
見知った、黄金の影が、舞い降りる──……!
──きぃぃぃぃいいいイイインンン──!!!
「なっ・・・!?」
「あ、あんたは・・・!!!」
「────すみませんっっっ!!!!!」
その姿は、忘れるはずもない……!
物資を大量に運んできてくれた、
街の大恩人である!!
「く、クルルカンの、お嬢ちゃんじゃあ、
ないかっ……!! ど、どういう事だい??
そっ、その、赤い装甲を まとった、
巨大な、ボゥル・ラビットは・・・!?」
「──そんなコトは、
ど──っ、でも、いいんです!!!」
『『『 にょんやぁー…… 』』』
「うさ丸、すごい跳んだね」
「くゅくゅ」
よく見ると、巨大ラビットの上には、
狂銀と、キツネも、乗っていて──……?
混乱する各々は、
しかし、黄金の、凛とした声に、
惹き寄せられる────。
「 ──" トドメ "って女の子、
知りませんかっ・・・!? 」
アンティが、まず問うた事は、
それだった。
空中で、うさ丸に乗っていた刹那、
着地までに導き出した、
最適解が、ソレである。
いきなりの発言に、
マイスナでさえ、目をシロクロしている。
──しかし、それは、
見事な、直感だった。
「ふしぎな杖……そ、そう!!
"盃の杖"、ってのを、
持って、いるんです!! フルネームは……」
Q.あの子の名前、なんだっけ?▼
A.トドメ・テングノーズ ▼
B.トドメ・カッパオサラ
C.トドメ・ウナ・スマリ
「──" テングノーズ "・・・!!
トドメ・テングノーズって、子です……!!
孤児院にいるなら、
もしかしたら、ここに、
"お手伝い"に、来てるかも、
しれなくて──……!」
くってかかる、アンティに、
和風のランスを持った一人が、
ハッとする。
「情報が……はやいな。
どこから、聞いたんだい」
「……!!!」
「どういう、ことですか?」
「くゅくゅ??」
巨大うさ丸から、
マイスナと、カンクルも降り立ち、
──聞く。
周囲の者たちは、
皆……浮かない、顔をしている。
アンティが聞いた、一人が、言った。
「そう、なんだ……。
その、"トドメ・テングノーズ"って子が、
どうやら、森に入っちまった、
らしくて……。
もう、丸一日になる。
孤児院の代表さんは、
すっかり泣き腫らしていてなぁ……。
手が空いてるもので、探しては、
いるんだが──……」
「────うさ丸っ、こいッッッ!!!」
言い終わる前に、アンティが叫んだ。
「 ──おまえのっっ、耳がっっ、
─── た よ り だ っっっ !!!!! 」
『『『
にょきっとやあああああああああ
あああああああああああああああ
あああああああああ!!!!!!
』』』










