ミュステルの座 さーしーえー
みゅすてる の ざ
金娘:「 ──" 漏斗 "……だ 」
漏斗、って道具は、アレよ。
液体を、ビンなんかに移す時に、
使う、アレ。
ラッパみたいなカタチの、
管に、なってるヤツ。
ウチの食堂にも、当然あるし。
でっかいタルの調味料を、
小分けするのに使ったり……、
したりする。
──つまり……ソレだった。
陽神:『────3D:ホログラムの:
────作成を完了しました☼』
金神:『>>>全体図だよ……。
>>>かなり、正確だ』
大きな黒い、輪っかの下で。
たくさんの、漏斗が。
組み合わさっている。
それは、宙に浮き。
歪な、貝殻のようにも見え。
そして、バカみたいに、
お お き か っ た 。
妹乳:「なんて……、いびつ、な」
姉乳:「……なんで、ラグエル領域の底に、
こんなもんが、あんのよ」
熊神:「ォ、オィ……! この、今、
目ン前に出てる、図の縮尺は、
ホントに合ってんだよなァ……!?
さっき、おれ達がいた"輪"が、
ウエの、コレだとすると……!
ぁ、ありえねェ、
大きさ、あンぞッ……?!」
銃神:「……マジカ殿」
萌神:「んにゃ……マジ、
ちゃんと見てるって。
マジ頼むぞ、ヒナワ。
今のウチ、マジ役立たずだかんな?」
銃神:「かたときも離さぬ」
異火:『 ほえーっ 』
獣王:「ガオッオォ・・・」
白童:「……」
あまりの巨大な構造物に、
驚きを隠せない、みんな。
いっつも元気な、ユーくんでさえ、
言葉を、失っている──。
クラウンの、声が響いた。
陽神:『────毒の濃度が:
────非常に濃くなっています☼
────四重ホロ・コーティングを:
────追加しました☼
────防毒マスクの機能を強化☼
────降下・調査用の:
────簡易飛行ユニットを:
────全員の背部に構築します☼
────慣れて……いただきますよ☼』
熊神:「……ヤレヤレ。
せっかく空が飛べるってンなら、
青空の下で、散歩したかったゼ」
獣王:「ガオオォ・・・!!」
全員が、エレベーターから離れ、
背部ユニットで、飛行しながらの、
降下を開始する。
陽神:『────マフラーの回収を:
────どういたしますか☼
────"無敵の守り"としては:
────手元に置きたいですが☼』
金娘:「そう……だね。いや、
帰りにもエレベーターで使うし、
そのままで、構わないわ。
必要な時は、空間接続して、
首元に地続きに転送して」
銀娘:「もう、遅れは取らないよ」
金娘:「ええ」
本当は、負けるワケなんて、ない。
そうでしょう──?
金娘:「それより、
みんなの背部ユニットに、
補助翼を付けてあげて。
垂直のものを……、
6枚くらいあれば、安定すると思う」
陽神:『────レディ☼
────そのように☼』
金神:『>>>くそ……。あの、"器"の、
>>>ひとつひとつから、
>>>噴火みたいに、
>>>毒が、立ち昇ってる。
>>>最大出力で、空間格納してる。
>>>呼吸用と、ブースト用の気体は、
>>>全て、こっちのストックから、
>>>合成してる。
>>>たくさん、しまっておいて、
>>>よかったよ……』
妹乳:「……アンティ達が居なければ、
呼吸は疎か、
見ただけで目が潰れ、
肌が穢されただろうと、
容易に……想像がつきますわね。
おそろしい……場所です」
銀娘:「なにかを……"あつめる"場所だ」
そうね……。
マイスナの、言う通り。
銀娘:「うえから、したへ……。
おおきな、おさらに、
ながれて、いくんだ」
熊神:「こんな、バカでかいモンで……、
何を、集めるッ、つーンだよ……」
私たちは、大きな"漏斗"の ひとつに、
接近してみることにした。
やはり、宙に浮くソレは、
上から見ると、
"アリジゴク"、みたいに……なっていて。
熊神:「……"アント・イーター"の、
オヤダマみたいなのが、
いないコトを祈るゼ」
姉乳:「勘弁しなさいよ。
縁起でもない」
妹乳:「もし、そうだとしても……、
今は、"空"から攻撃できますから」
金娘:「……クラウン、毒を吸い込む、
歯車の数を増やす。
それと……"原因"、わかる……?」
陽神:『────お待ちくださいね☼
────えぇと:……☼
────これは・・・!☼』
いちばん上の、"漏斗"の、
"地表"……と、言っていいのかは、
わかんないケドも。
かなり、近づく。
まだ、足は着いてはいないけど──、
それは、おぞましい、光景だった。
金娘:「な、に……?」
陽神:『────:……☼』
クラウンが……口を、つぐんでいる。
毒の、発生源"たち"が、
ソコに、あった。
金神:『>>>おびただしい数の……死体だ』
私は……目を、瞑った。
いや……ダメだ。
目を、あけろ。
銀娘:「なんの……死体?」
マイスナが、聞く。
陽神:『────:……☼』
金娘:「……言って」
クラウンなら……、とっくに分析してる。
そう、でしょ──?
陽神:『────分析……完了☼
────"ボゥル・ラビット"……です☼
────見渡す限り:すべて……☼』
金娘:「……、……」
ちょっと、信じられなかった。
"ボゥル・ラビット"は、いちばん、
ポピュラーな食材のひとつとして、
私の故郷でも、親しまれている。
"白玉肉"、なんて呼ばれていて、
シチューなんかに入れて煮込めば、
それは、ゴチソウ間違いなし、だ。
金娘:「うさ丸を……。連れて、
来なくて……よかった……」
銀娘:「……、ぅん……」
ポツリと、そんな言葉が出た。
普通の、ボゥル・ラビットは、
うさ丸みたいな、真ん丸とは違って、
少し、楕円形だ。
ここで……無惨な姿に、
なっているのは……元は、
そう……だったんだろう。
うさ丸とは……厳密には、
同じ種族では、
無いかもしれないけど……、
これを……こんな。
悲しむ、に、決まっている……。
アイツは、仲間を、さがしてる。
金娘:「何故……、なぜ、こんな……。
見わたす、かぎり……」
銀娘:「……」
たくさんの、うさぎが、
くたばっている。
じごくだ。
なんで、こんな……。
姉乳:「……どう、思う?」
熊神:「どう、って……。
こンだけ、いるんだゼ……。
コイツらの死骸が、
毒の原因に、決まってッだろ……」
姉乳:「そうじゃ……なくて」
その通りに、ちがい、なかった。
千とか、万とか、
そんな、話じゃない。
この、大きな、
湖のような"漏斗"は、
他にも……いくつも、あるのだ。
毒は、すべてから、発生している。
だから……。
他のエリアでも……すべて──。
妹乳:「なぜ……"ラビット"、なのですか」
熊神:「……はえェ、からだよ」
クマさんが、即答する。
はや、い……?
ど、ゅ、こと……?
熊神:「……殖えるのが、はえェからだ。
むごい、話だが……」
姉乳:「……! ふざ、けてるわね……。
ココを、作った連中は……」
妹乳:「ど、どういうこと、ですの!?」
獣王:「ガオォ……」
白童:「……」
熊神:「……明らかに……この場所は、
"殺し合い"を、させるための場所だ。
……"共喰い"、させて、いやがる。
食いモンが、それしか、ねェんだよ」
クソッタレ、が……。
熊神:「"ラビット"が、選ばれたのは……、
恐らく、繁殖が、早いからだ。
ここはな……出来るだけ"大量"に、
"長い期間"、殺し合いを、
させる場所なんだよ」
妹乳:「こ……、……。こども、を……、
産ませながら、食い合わせて、
いた、と、いう事、ですの……?」
ききたく、ない。
熊神:「久しぶりに……心から、
反吐が出らァ……。
外道だぜ、これは──」
マイスナが、飛行しながら、
私に、寄り添ってくれた。
眼下には、報われなかった、
たくさんのイノチが……、
静かに、毒を放っている──。
銃神:「むごい……。
毒が、森を覆うのは、
当然、至極である」
萌神:「マジ、色々と、
ヤベぇことが、あるわな……」
空飛ぶヒナワくんに、
抱えられながら、
マジカさんが、言う。
萌神:「コイツぁ……マジ、最近、
こうなったモンだって……。
"器"のほうは、
前から、あったのか、どうかは、
マジ、わかんねっけど……。
"ラビット"のほうは、
マジ大量の数を……、誰かが、
ここに、ぶち込んでやがる。
マジたぶん、1ヶ月以内……、
って、とこだと思うぜ」
銃神:「……いや、マジカ殿。
これだけの数が、いたのだ……。
……"食い殺し"合うには、
もっと……かかったやもしれぬ。
3ヶ月か……もしくは、
半年ほど、やも……」
萌神:「……!! そっ、か……。
マジ、ヒナワの、言う通りかも、
しんねー……。どっちにしろ、
コイツらに とって、
ここは……"マジ地獄"、
だったろーよ……」
……。
私が、カーディフの街から、
ドニオスに、向かった頃から……。
ここの、うさぎ達は、
子供をつくりながら……、
殺し合っていたと、いうの。
熊神:「だれが……だれが、
こんなこと、しやがった……ッッ。
グオオオオオオオオオッッッ!!!」
野生の怒りが、
ベアさんの口から、漏れる。
私は……怒りより、
悲しみが、、、勝る。
肩の、チカラが、、、妙に、入らない。
なんなの、コレ、は……。
姉乳:「……いちばん、下の……、
"受け皿"のような所も、
気になるわ。
なんにせよ、調べなければ……」
熊神:「──くそっ!!!
わリィ、降ろしてくれっ!!!
こんな事をするヤツは、
イカれていやがるに、
決まってらぁ!!
なにか、痕跡が、
あるはずだァア!!」
陽神:『────りょ:了解しました☼』
みんな……精神力が、強い、な……。
やっぱ……いろんな、"場数"を、
くぐって、きてんのかも、しんない。
"漏斗"に、ゆっくりと、
おりていく。
本当は……こんな、ラビットの、
死骸まみれの所……、
降り立ちたくなんて、
ないけれど──……。
クマさん、オシ姉、
ゴウガさんが、先行する。
ゆっくりと、おりて、行って──。
──何かが、ひか……?
────直感で、さけんだ。
金娘:「──いけない!!!
足を、つけちゃダメ!!!」
熊神:「……なに!?」
姉乳:「──!! しまった!!」
獣王:「──ガオ!?!?」
彼らの足元の、
"大量の小さな魔法陣"が、
完全に、光る前に────!!
金娘:「くっ──」
──────カッ!!
歯車の輪を、強引に複数あやつり、
クマさん、オシ姉、ゴウガさんを、
空中に、"持ち上げる"。
──!!
足に、魔法陣が、くっついてる!!
光って────ヤバい!!
金娘:「──クラウン!!
魔法陣だけ、格納しろ!!!」
陽神:『────レディ!!☼』
クラウンが、即座に、
ピンク色の、円状の魔法陣を、
亜空間に格納し、
ベアさんたちから、ひっぺがす。
妹乳:「──おねえちゃんっっ……!!?」
熊神:「グォォ……くそ、キモチワリ……」
姉乳:「力が……入らない」
獣王:「ガォォオオ……ッ!?
きゅ〜〜〜〜……っ」
くそっ!! おそかったの……!?
銀娘:「治療してみる。みせて」
金娘:「すみません……!
もう少し、はやく、
持ち上げていれば──」
熊神:「い、いや、助かった、ゼ。
あのままだと……確実に、
ヤバかった」
姉乳:「ちくそ……。た、たぶん、
状態異常系の、能力低下だわ。
そんな、顔しない。気にすんな……、
軽率に降りてしまった、
私たちのミスだわ」
金娘:「……、……。クラウン、
みんなの健康状態を、分析して」
銀娘:「いちおう、体を、スキャンする。
大丈夫……? つらそう」
獣王:「ガオキュぅ〜〜〜〜……」
熊神:「……チッ。体がデカくて重い分……、
おれと、ゴウガのダンナが、
思いっきり、トラップの魔法陣を、
踏んじまったかも しんねぇ……」
姉乳:「特殊な状態異常なら、
エリクサーでも、解除はムリかも……」
空中に、歯車の集合体で足場を作り、
三人に、座ってもらった。
他の皆も、そこに、降り立つ。
銃神:「大丈夫で、ござるか……?」
萌神:「いや、マジ、大丈夫では、
ねーだろ……。
マジ、吐きそうに見えっぞ」
異火:『 あな、おそろしや…… 』
銀娘:「ほんとうに、ダメ、みたい……。
ローザの雫では、
回復しません」
ま、まじか……何とか、なんないかな。
このまま、ベアさん達が、
ふにゃふにゃなのは、ぶっちゃけ、
かなり、心細い──。
銀娘:「──ユーくん!
なにか、よい治療法は、
ないですか」
──そうか!
"至高の回復職"であるユーくんなら、
なにか、良い回復方法を、
知っているかも……!
白童:「……」
銀娘:「……ユーくん?」
ユーくんは、さっきから、
だまっている。
金娘:「……ユーくん?
どうしたの……?」
白童:「 ………… 」
とても、小さな声で、
彼は、なにかを、言った。










