ポタージュとネックレス
加筆しまくりました……。
最後が"はいぃ?"で
終わってたら、最新版です。
"うめぇぇぇ!" が、旧。 ごめぬ。
できたで!
"オーク肉と野菜のポタージュ"。
うん。お手軽、うまそう。
じゅるり。
途中で、羊さんが包丁ぶんどるから、時間かかっちゃった。
まったく、もぅ。
パチパチ……。
3つの焚き火のそれぞれに、木のお皿で配ることにする。
「はい、お待ちどぉ様!」
「わぁっ! 美味しそう!」
「ふふ……ほんとねぇ!」
よかった。
怪しまれてると思ったけど、大丈夫そう。
ついでに羊と男どもにも与えてやろう。
「は〜い、おまっとさ〜〜ん」
「ちょっと! いくら何でも、初対面の相手に、力を抜きすぎですわ!」
「いらんすか?」
「……いただきますわ」
「おお……こりゃうまそうだ……」
「こんな森で、こんな上等なメシにありつけるとはな……」
「あ! あんた達、手ぇ洗いなさい、手!」
ジャバァ!
水を、護衛さんの手に容赦なく、ぶっかける。
「うへぇっ! 冷てぇ!」
「ち、ちょっと、あなた……少しは魔力を温存してはいかが……? そのお鍋の火も、あなたの魔法なのでしょう?」
「必・要・あ・り・ま・せ・ん!!」
「そ、そうですの? ならいいんですが……」
あったりめーよぅ。
わっち、魔力なんざ、ありやせんからねぇ……。
魔力が空っぽの魔石なんざ、
昔っから、わちきには無意味なもんですよぅ。
うっ、うっ……。
歯車以外は、しまってあるのを、出してるだけでありんす……。
残りの護衛さんと、羊美女剣士にも水をぶっかけて、貴族おばあちゃんと、シャンティちゃんのいる、ベッドの側にいく。
「はい、手ぇ洗ってください。多分、土とか知らない間についてるからね」
あ、しまった……。
相手は貴族だった。
いつもの食堂のノリで喋ってしまうわね……。
「はい、ありがとう! わっ!」
シャンティちゃんに、水をぶっかける。
……手にですよ?
────ちゃぽんっ
「!」
なんだ?
今の音?
「あ………」
……おばあちゃんの方から、だったわね。
えっと、水音、かな……?
今、おばあちゃんの方に水は出していない。
つまり、残る音源は……ポタージュだけだ。
……あ。
あれだ……。
シャンティちゃんのほうのポタージュに、
おばあちゃんが、ネックレスのような物を浸している。
「……随分、大きな水音が、出てしまいましたね」
私に、お皿に浸したネックレスを見られた事に、気づいたみたい。
おばあちゃんが、自分から話しかけてきた。
「申し訳ありません。ポタージュを入れ直してもらえますか?」
「…………」
「? おばあちゃま?」
ううん。
違うでしょ。
私、知ってるよ。
それは、とても大切なことだよね。
「もう! おばあちゃまったら! せっかく作ってくれた料理に、ネックレスを落とすなんて!」
「そうね、ごめんなさい……」
ああ、この子はまだ、わからない歳か。
「やだ。入れ直さない」
「「え?」」
私は、木のスプーンをおばあちゃんに2本、渡す。
「え……?」
「まだ、早いわ。そのスプーンでよくかき混ぜてから、ネックレスを浸して」
「────っ!!」
「? えっ? そんなことしたら、汚いよ?」
そうかもね。
でもね、あなたは、それを食べなきゃいけない。
今だけは。
「……シャンティちゃん。おばあちゃんはね、ネックレスを落としたんじゃない。わざと落としたのよ」
「えっ!?」
シャンティちゃんが、とても驚いた顔をする。
「どっ、どうしてそんな悪い事を……」
「違うわ」
「えっ……」
「…………」
おばあちゃんは、静かに、息を整えている。
咳、したいはずでしょうに。
私は、優しく、シャンティちゃんに話しかける。
「……あのネックレス、何の金属でできてるか、わかる?」
「えっ!? えっと……」
おばあちゃんの握る、ネックレス。
緑色に輝く、シャンティちゃんの髪に似た色だ。
「……わかんない」
「……緑銀よ。その金属には、とてもすごい力があるの」
「りょくぎん……初めてきいた。……すごい力って!?」
ふふ、無邪気な子ね。
とても素直だわ。
だから────
「────"毒"に触れると、真っ黒になるのよ」
「────!!!!」
「…………」
────だから、大切に思っている人がいるって事は、知っておいてほしい。
「さて、問題です。あなたのおばあちゃんは、何故、あなたのポタージュにネックレスを浸したのでしょうか?」
「…………あ」
────そう。
もう、わかるわね?
「えと…………」
「答えなさい」
「っ! …………」
答えて。
とても、大事なことだから。
「……あなたが、毒を入れていないか、確かめるため」
「はいッ! よくできました!」
「…………」
ま、それがわかれば、上等だわ。
「あなたのおばあちゃんは、素晴らしい人ね」
「!」
さーて、私も食べよっと。
「……あなたは、怒らないのですね……」
「────へ?」
黙っていた、おばあちゃんが、ポツリと言った。
いや、怒るも何も……。
「……今わかった事は、"あなたは、この子の事を、とても大切に思ってる"。それだけよ。違う?」
「──────……」
そんくらいのこと、いちいち気にしてたら、食堂の看板娘なんてできないのよ〜!
今は、義賊クルルカンだけどね〜!
……ん?
「…………」
「「…………」」
……護衛組の、視線がイタイ……。
こら、じっと見るんじゃねぇ。
「あによ?」
「! いえ……」
それからちょっと、遅めで静かなディナーとなった。
は、は、は、
ハイオーク肉、う、うめぇええええええ!!!
これ、もうスープなんかじゃないわ!
肉の油のあまみ!
野菜そのものの美味しさ!!
それを包み込む、濃厚なスープ!!!
もう、メインディッシュよ!
「俺は今、猛烈に感動している……」
「奇遇だな……俺もだ……」
そりゃそうよ……こんなの空きっ腹に突っ込んだら、メテオストームくらいの威力よ……。
まぁ、実際にメテオストーム、見たことないけど……。
「今日、これほどまでのご馳走にありつけるとは、思いませんでしたわ……」
「なに、褒めても包丁あげないわよ?」
「……くっ、そんなつもりはありません! 欲しいことは欲しいです!」
欲しいんかい。
もち、断る。
「ふぅぅ、ふぅぅ、はんむ、はんむ」
「まぁ……シャンティ、ゆっくりとお食べ?」
「うっ……だって、こんなにおいしいんだもの!!」
「まぁまぁ、ふふ。じゃあ、今日だけは許しましょう」
シャンティちゃんは、とても美味しそうにポタージュを口に運んでいる。
野菜とお肉が入ったスープは、ご馳走に決まってるわ!!
脇目も振らずにスプーンを動かしている。
────作ったかいが、あるってもんだわ。
「お嬢さん……?」
「はぁい?」
貴族のおばあちゃまが、遠慮がちに話しかけてくる。
さっきの事を、ちょっと引きずってるみたいだ。
「あなたに、恥ずかしいお願いを、していいかしら」
「? まず、聞くわ?」
お皿が、ゆっくりと差し出される。
「──おかわりを、いただけるかしら?」
「ぶふっ!」
思わず、噴き出してしまった。
なるほど、確かに恥ずかしいでしょうね。
「そんな、料理をした人にとって、勲章みたいなお願いなら、いつでも歓迎だわ」
お皿を受け取り、遠慮なく、めぃいっぱい、ポタージュをそそぐ。
「……ありがとう」
────へぃ、まいどありっ!
いやぁ、食った食った。
ごちそうさま〜〜。
作ったの私だけど。
「あ、お皿は返してね? 洗わなくていいわ」
「そ、そうなのですか? 申し訳ありません」
いいのよ。
バッグ歯車に、汚れは入れなければいいんだから。
次、出した時は、綺麗なのよ〜〜。
マントの影で、お皿をしまう。
この時、汚れは全て、地面に落ちている。
少し離れているので、気づかれない。
……土かけとくか。
足で、ガツガツと土を蹴っ飛ばしていたので、喋りかけられるまで、ヒキハさんが側にいるのに気づかなかった。
「……教えて、いただくことは、できませんか……?」
「わっ!! びっくりした!」
そっと、消え入るような声で言うから、ゾワッとしちゃったじゃない!
いきなり何を言い出すんだ、羊美女よ……。
「教えるって……何を?」
ポタージュの作り方ですか?
「────あなたが、誰に雇われた護衛か、をです」
────はいぃ?