ヘッドホン・エアレディ
久しぶりに挿し絵ボツにしました(笑)
黄野 金時が歩くと、
箱庭の和風だましの通路は、
たいへん、規則ただしく、
ゴウン、ごうん、と組み変わり、
最短の経路を構築した。
今も、ナナメよりスライドする通路は、
内観は朱の木材仕上げだが、
断面は生きた機械、
そのものである。
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△
─ オウノ カネトキの前方に
通路を形成 ▽
─ オウノ カネトキの進行方向に
廻廊を形成 ▽
─ オウノ カネトキの目的地を
自動診断 ▽
ズ、ズズ・・
ガチャ・・コゥン・・・
─ 通路外郭を連結 ▽
─ 接続完了 ▽
─ 遊郭式照明装置 正常作動開始 ▽
──パ 。
テン、テン、テン──。
『>>>………──』
彼の視界野には、
電子ゲームのブロックのように、
道となっていく、ミニ・マップが、
表示されている。
歩いた後が道になるのは、
もう古い。
──黄金の神は、立ち止まった。
『>>>……ここは、初めて来るな』
アマノイワトは、ドアの形をしている。
ノックをしようとし、やめ──、
彼は、声にした。
『>>>……入るよ』
ガチャり、と入った部屋は、
外の和調とは裏腹に、
ステキな、女性の部屋、
といった様子である。
どちらかというと洋風で、
落ち着いた雰囲気であり、
ベッドがあり、
机の上には、パソコンがある。
風変わりなのは、
部屋の真ん中に、
太陽神が浮遊していて、
パソコン型のデバイスから、
有線接続された、
ヘッドホン・コンソールを装着しつつ、
フテ寝しながら、
音楽を聞いている点である──。
『──── ── ─…☼』
『>>>……─』
クラウンは涙を浮かべていたが、
寝顔は落ち着いていて、
リラックスしているように見えた。
フワフワと漂う体と、
黄金と、虹色を、
行ったり来たりしながら光る、
太陽のカミ──。
『>>>……ふ、ふ、そうだね。
>>>落ち込んだ日は、
>>>好きな音楽を聞いて、
>>>ふて寝るに限る。
>>>ぼくも、こっちに来てからは、
>>>よく、音楽プレイヤーが無くって、
>>>死にたい夜があったな……』
空中浮遊しながら、
音楽を聞く嫁さんを見て、
そんなに心配はしなくていいかな、と、
カネトキは、
そのまま、パソコンの机に座る。
再生されているのは、
EDM系の、合成電子音楽のようだ。
彼はブラウザを閉じないように注意しつつ、
デバイスに接続する。
『>>>確認した。大丈夫だと思う』
『──ほんとに?❖』
返信は、素早かった。
『>>>お気に入りのヘッドホンをしてる。
>>>ふ、よく似合ってるよ』
『──つくづく、ヘンなシュミだなぁ……❖
──クラウンなら直接、
──音声を頭のナカに、
──出力できるのにね?❖』
『>>>ふふ、それは、ヤボってもんさ』
『──で?❖ 何が聞きたいの……?❖』
『>>>──! さすがに、察するか……』
頬杖をつき、
勇者は、ため息をする。
『>>>就寝前の後輩ちゃんから、
>>>記憶領域の圧縮記録を抽出できた。
>>>おっと……本人も了承済だよ』
『──……見たのね?❖』
『>>>映像は、かなり乱れていたけど……、
>>>ガッツリ、動画でね。
>>>シゼツ、どう思う?』
『──抽象的だわ❖』
『>>>ぼくの問いが?
>>>それとも、あの"白い騎士"の映像が?』
『──どちらも、よ……❖
──私たち、"原初のプレミオムズ"は、
──あの"白い騎士"を関知していないわ❖』
『>>>ぼくはね、絵本仲間が出来て、
>>>喜んでいいのか、
>>>敵意を向ければいいのか、
>>>わからないんだ』
『──おにいちゃんって、
──たまに、ブッソウぅ……❖
──"白死王ゼウガ"って、
──けっこう昔の……伝説なんでしょう?❖
──私、200年前の記憶は、
──ほぼ、ないんだってば……❖』
『>>>戸橋を助ける方法を、
>>>教える、と、ほざきやがった』
『──おにいちゃん、、……❖』
たしなめるような、
あきれるような、声。
『>>>認めるよ、久しぶりに不機嫌だ。
>>>肝心の方法を、
>>>アンティとマイスナは、話さない』
『──?❖
──聞き出せたんじゃ?❖
──メモリーごと、貰ったんでしょ?❖』
『>>>……"死"は、"散"の属性を持つ』
『──そう、ソレ❖』
『>>>……数学の公式を、無理やり、
>>>押し付けられる感覚に似てる。
>>>どうしてコレが正しいかは、
>>>後回しにされてる感じだ』
『──きひひ、先生にグチ聞いてもらえば?❖』
『>>>そこまで子供にも、なれないさ──。
>>>ただ……ぼくと、先生。
>>>ふたつの"仮面"があることには、
>>>なにか……意味がある』
『──ふたつの、"カオ"❖
──ひとつの"コトバ"❖
──ひとつの、"シ"──❖
──これらは"3"ではなく、
──"4"になるから、ではなくて?❖』
『>>>……』
パソコンの画面を見ながら、
カネトキは、不機嫌そうなカオになった。
『──おにいちゃん……?❖』
『>>>……"デス"は、本当に、
>>>死んでいないと思うかぃ?』
無言は、死の神の驚きだった。
『>>>ぼくは……確かに、止めたんだ』
『……❖』
『>>>凍ったみたいに、止めた』
もう、心の痛みには、慣れた。
あの、巨大な、首のない、
バケモノみたいな女を、
殺した日から──。
『>>>……デスは、"生きている"と、
>>>あの騎士は……言った、そうだよな?』
『……❖』
『>>>殺し直さないと、
>>>"シ"では、ないと』
──そう。
それが、"オモテムキ"の、
"白の忠告"──。
『>>>……教えてくれ。わかったらでいい』
『──……なに?❖』
『>>>時が止まった者は、
>>>死んだ……って、ことじゃないのかぃ?
>>>なにも動かないモノは、
>>>生きてるって、ことには、
>>>ならないんじゃ──?』
『──……難しい質問だわ❖』
『>>>きみでも?』
『──私だって、イキモノだった時は、
──腕に組み込まれた機関銃で、
──たくさんのヒトの頭をブチ抜いてる❖
──でも……時の止まった生命なんて❖
──厳密には……この世に存在しない❖
──みんな、動いてる❖
──死んだって、動いていくの❖』
『>>>……』
『──でも、あなたは……"切り取れた"❖
──完全に、"停止"させることができた❖
──それが……なにかの、
──致命的な──"変化"の、
──きっかけに、なって──……❖』
『>>>……この世界の人は、
>>>生きていると、思う。
>>>だが……再構成された世界で、
>>>死という"概念"は、
>>>本当に……"死"なのか?
>>>それは……設定?
>>>なぜ、あの亡霊は、
>>>いきなり実体化したんだ……?
>>>なにが、"強化"されたんだ?
>>>……"強化"?
>>>ぼくは……何を言ってる』
『──"デス"を、
──殺しなおすのが、怖い……?❖』
『>>>……!』
カネトキは、少し考えたが、
別に、怒りの感情は、湧いてこない。
『>>>……いや。
>>>発見できたとして、
>>>あんなデカい時間停止体を、
>>>どうやって再起動したらいいのかは、
>>>サッパリだけど……。
>>>でも……それが、
>>>希望に繋がるのなら──……』
『──もしかしたら❖
──"噛み合うチカラ"を、
──強化できるかもしれない……❖
──"コトバ"と、"シ"だけでなく、
──"カオ"の、チカラも──❖
──アンティは──記憶野で、
──そう、説明してたね……?❖』
『>>>……そう、強化。
>>>"強化"、だ──そこが、』
『──そこが……?❖』
『>>>そこが、引っかかってる』
ぎしりと、椅子にもたれ、
手を、頭の天で組む。
『>>>──クソ生意気な、ぼくの勘さ。
>>>仲良くなった。だからこそ、
>>>感じる部分』
『──アンティたちが……❖
──なにかを、隠してる、と──?❖』
『>>>彼女たちは、
>>>箱庭の最高権限者だ。
>>>本気で聞かれたくないコトは、
>>>精神防壁を突破できない』
『──……面と向かって、聞いてみる?❖』
『>>>……』
少し、ほぅ、と考える。
『>>>……いや、やめとくよ』
『──いいの?❖』
『>>>今回のことで……よく分かった。
>>>甘えているし、ムリをさせてる』
『──……ぅん❖』
『>>>パンク、しかかってた、
>>>のかも、なぁ──……』
カネトキは、考える。
よい、機会だったのかもしれない。
ただ、油断せず、
でも、信頼できる者は、
多いほうが─── ── ─ 。
『>>>これで、あの時のぼくみたいに、
>>>ならないで済むのかもしれない』
『──おにいちゃん……❖』
『>>>ひとりでかかえるのって、
>>>ホント、ロクなモンじゃないよ。
>>>はは……先輩の実体験さ』
『──私も、ヒトゴトじゃないの❖』
『>>>ぁ……済まなかった。
>>>無神経だったな』
『──ぅうん……だからこそ、よく分かる❖』
『>>>そう、だ……な』
殺し尽くした者たちが考える。
愛する者たちのこと。
『>>>……待つ気は、ないんだ。
>>>でも、なんだ、……うかがおうと思う』
『──聞き出すタイミングを?❖』
『>>>ぉ、そ、そう、、
>>>よく、わかってるじゃん』
『──きひひ、ご先祖さまですから!❖』
『>>>いや、ぼくの、じゃないだろ。
>>>は、は……』
『──そうだった!❖』
少しだけの、和やかな雰囲気。
幻影のセカイの、
死者たちの夢。
『>>>……! おっ、と……///』
『──? なに?❖ どうしたの?❖』
『>>>宙に浮く恋人に、
>>>後ろから抱きしめられたことは?』
『──ぁー、ヤダヤダっ!❖
──じゃ、切るねっっ!❖
──んべーっ!❖❖❖』
少しだけ、耳元で、
音楽が聞こえた気がした。
『>>>……ま、順番に、蹴飛ばしていくか。
>>>それしか、ないよな?』
『────:はぃ……☼』
── そんなに、わるい夜では ないさ。










