はぐるまで何ができるかな
アンティ・キティラ、15歳。
今日はカーディフの街外れにきています。
スキル【歯車法】で何ができるのか試してみないとね。
ちなみに頭の上で王冠がくるくるしているのは恥ずかしいので、しまえないか試してみたが、無理だった。
『────統合化している宝石部の隠蔽が行えません』との事。
ポケットに入れて持ち歩こうとも思ったが、話しかけたりすると頭の上にすぐ戻る(なぜかわからんが)ので、あきらめた。お風呂の時も、寝る時も、くるくるしている。
アイテムストレージの容量を尋ねると、『不明』と返された。不明って何やねん……。ただ、予想よりはるかに大きい質量が入りそうだ。あと、父さんに昔、お弁当を15個入れた時に、どれくらいの期間で傷み始めたかをきいたら、「オレがソーラの弁当を残すわけないだろう!」と、豪語された。別にお腹も壊さなかったらしいが、この父の胃の強さは気合いに比例するので、あまりアテにできない。
質の高い時限石を使ったアイテムバッグほど、空間内の時間経過が遅くなるそうだが、それはまた今度試そうと思う……。
今、来ている街外れは、炭坑あと地の人気の無い場所だ。
ここら近辺はあまり強い魔物がでないとはいえ、森にはたくさんの生態系がある。食堂屋の娘がおいそれと入っていい場所ではない。消去法で歯車の練習をできる人気のない場所はこの炭坑になる。昔に父さんが働いてた場所だ。周りはゴツゴツした岩で囲まれていて、地面は砂だ。炭坑場も塞がれているので、魔物はよりつかないだろう。
今日もツインテールにした私は、歯車を出して色々試していた。
「うーん、やっぱりこれ以上大きな歯車は出せないみたいね」
『────肯。
現状のスキルレベルの限度値と分析。』
「でも、ベッドをしまった時はもっとデカかったじゃない」
『────ストレージの展開範囲は該当アイテムに依存』
「うーん納得いかん」
ここ数日で、王冠歯車とのおしゃべりにもだいぶ慣れてしまっている。どうやら心の中で思っただけでも伝わるようだが、こういう誰もいない所でそんな面倒なことはしない。
「ねぇクラウン。歯車法のレベルがあがれば、だせる歯車の大きさも変わるのかな」
『────解。
未解放状態のため、分析情報は制限されます。
体積値、回転速度、形状等に影響があると予測』
「回転速度と形状? なるほど……」
小さな歯車を呼び出す。
大きなサイズはまだ上限があるようだが、小さな歯車はけっこうな数を召喚? できる事がわかった。
歯車の歯を、鋭い剣をイメージして尖らせる。
ジャキ。
よし、うまくいってる。
「クラウン、高速回転させる!」
『───レディ。』
ギュウイイイイイイイイン!
おおー!! すごい、回転が早くて歯車の歯が見えなくなった! ただの輪っかみたいだ。
これって当たると危ないんじゃない?
側にあった石を拾って、高速回転した歯車に投げてみる。
ポイッ
パァーーーーーーーン!!!!
「ぎゃあああああああーー!!!!」
『────警告。非推奨の行動。』
はよ言わんかい! 砕け散った石の破片、顔のすぐ側を飛んでったじゃないの!!
「はぁ、はぁ。で、でもこれって武器になりそうよね」
直接当たれば怪我ではすまないんじゃないだろうか。
「えーっと、どうやって投げよう……」
ギュウイイイイイイイン……
怖くて、触れられない。
「そ、そうか! 触れなくても飛ぶように操作すれば!」
昨日の練習で、小さな歯車はけっこう自由に、好きなように飛ばせている。これも同じように……。
のろのろのろ~~
「は、はやく動かせない! なんで!」
『────分析完了。
高速回転時の歯車の移動は、現状スキルレベル不足判定。
慣性固定に依存。』
「そんな~~」
どこかの場所にじっとしてるか、ゆっくりしか動かせないなんて……罠にはなるかもだけど、武器にはなんないじゃない……
何か魔法を使った攻撃手段が欲しいんだけどな~。
どーーーんとハデな威力のを一発……。
「あ、そうだ」
数日前に、自室の床にベッドを落としたのを思い出す。
アイテムストレージにはどうも余裕があるらしい。
重い岩とか入れといて、上から落とせば攻撃になるんじゃないかな?
「ねぇクラウン、前にベッド落としたよね?」
『────認。クラウンギアは謝罪を申請。』
「それはもういいから。アレを攻撃に転用できない?」
辺りを見回すと、炭坑の際に丁度よい岩の塊がある。
「クラウン! あの岩の格納!」
『────レディ。』
きゅううううううううん!
すぐさま大きな歯車の輪が現れ、あっという間に岩の姿が無くなる。
よーし、そのまま歯車を持ち上げて……
「"岩"出して!」
どごおおおおおおおん!!!!
おおお! これはけっこうな威力じゃない?
アイテムを出せる場所を変えられるってのは利点だね!
大きな岩を集めなきゃいけないけれど!
「これは攻撃に使えるわね!」
『────分析完了。
現状の行動を攻撃認定。
────攻撃名を付けますか?』
「え、何それ……じゃあ"ストーンスタンプ"」
『────攻撃名"ストーンスタンプ"を受理しました。
攻撃名を入力した場合、対象上部に発動します。』
「え、うん。決めといてなんだけと、"岩"って言うのと何が違うの?」
『────解。
"ストーンスタンプ"の場合、対象物を分析し、
上方に岩を自動転送します。
"岩"の場合、岩本体を
床に接した状態で転送します。』
────あんた、ベッド落としたの、結構トラウマになってるわね。
この後、いくつか大きな岩を集めて、炭坑を後にした。