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HUMAN NUMBER  作者: rikuru
第二章 出会い
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朝の太陽で目が覚めた。


思っていたより目覚めは良かった。


場所は最悪なのに。


軽く欠伸をしながら、反対側を向くと青馬さんは既に起きていた。


「・・・青馬さん?」


青馬さんは背を向けて何かをしていた。


―――何をしているんだろう?


「ん・・・あぁ、瀬川さん起きたのか。おはよう」


少し何かを隠したような素振りで、振り向いてくれた。

―――何か隠してるのかな。気になる。


「あの・・・何かしてたんですか?」


普段なら私は特に追及しないけど、何よりこの狭い倉庫でできる事があるのか気になってしまった。


「んー実はね・・・驚かないで見てくれよ。これ」


そう言って青馬さんは見覚えのあるものを差し出してきた。

これは―――


「もうちょっと確実になってから言おうと思ったんだけどね・・・気付かれちゃったし」


青馬さんが見せてくれたものに非常にびっくりしたが、声を出すわけにもいかないので冷静を装った。


昨日よりは、少し元気になったかな。


「――――――携帯電話?」


何故持ち物を取られずに助かっているんだろう。


いや、それより―――


「持ち物チェックが通ったんだ。最新の超薄型を靴の裏に縫いこんでいたからね」


「それに、もう1台フェイクで持っていたからね。1人に2台持っているとは中々考えないだろう」


この人には驚かされてばっかりだな。


色々励ましてもらっていたけど、一気に希望で広がった気がした。


「助けを呼べるんですか?」


そう言うと、青馬さんの表情が少し曇った。


「それなんだが・・・このアジトは電波を通さないようになっているらしい。外部に繋がらないんだ」


あっさりと事実を言われ、少しへこんでしまった。


携帯電話の普及率は非常に高く、こういった状況でも救助を呼ぶのにも最適だが繋がらないのでは意味がないだろう。

でも、青馬さんは別の何か考えを持っているようだった。


「一応、自分のケータイには特別に自作のGPSソフトが入っているんだ」


青馬さんの言っている事がよく分からなかった。

GPS…位置探索。それを自作ってどうやって…

インターネットとか繋がらない場合と、何か関係しているのかな…


「ああ、要は、外部と繋がらなくても、このソフトがあれば現在の場所を外部から特定できるって事だよ」


説明を掘り下げてくれて、ようやく私も理解ができた。

つまり、青馬さんが持っているケータイでこの場所が分かったら、すぐに犯人を捕まえる事ができるって事だ。

私は、素直に喜んでいた。


「でも…少し難しいんだ」


青馬さんは、決定的な解決策を発表してくれたのに、少し不安な面持ちだった。

私には分からない領域だから、何も言えなかった。


「何しろまだ未完成だし、こっちのケータイの場所を特定するには誰かがこの自作ソフトを使って探知してくれないと・・・」


「電源さえつけていれば、同じソフトがあればこっちの位置を探知する事は可能なんだが・・・」


「・・・・え?」


「一種の赤外線通信みたいなもんさ。このモバイルGPSソフトを使って共有するとオフラインで位置探索できるんだ」


えーと・・・つまり青馬さんのケータイの場所を特定するには、誰かが青馬さんの作ったGPSソフトを共有してないと分からないって事か。

しかも、向こうが調べる必要がある・・・だとすれば、探知される可能性は極めて低い。


確かに、まだ喜べる結果じゃない。


「その、青馬さんの作ったGPSソフトって他に誰か持っているんですか?」


私の質問に、青馬さんは少し困った素振りをした。


やはり、確実ではないからだろう。


「日本警部でよく世話になった高島(たかしま)さんって人に渡してあるが…このケータイを探知している可能性は低いかもしれないな…」


「無線のトランシーバーのようなものさ。俺の作ったソフトなんて向こうでは単なるオモチャに過ぎない」


意味が理解できた。

トランシーバー等は無線で繋がる代わりに、距離が制限されている。

一方、青馬さん自作のGPSソフトは外部との接続ができなくても、同じソフトを共有していれば探知する事ができる。


可能性は0ではないけど、0に近いものかもしれない。


犯人は、どうやら想像以上に頭が切れるようだった。

全身の持ち物チェックではなく、電波妨害まで徹底していたなんて。


もし、青馬さんのようにケータイのような外部との通信機器があっても意味がない。

私達が助かる可能性は一気に減ってしまったのか。


「じゃあ・・・」


この先は怖くていえなかった。

「私達は、助からないの?」と言ってしまうと、認めてしまう気がしたから、自然に制御してしまったのかもしれない。


「すまない・・・役に立たなくて。だが・・・絶対に、俺達は帰るんだ」


「・・・青馬さん」


根拠はない。可能性としては低い。

でも、青馬さんの一言で、信じる力が高まった気がした。

この人は、本当に頼りになる。

心から、そう思った。


私も・・・何か力になれたらいいのにな。



―――――――――。





―――――――12時。昼。


一応、時計があるので時間の把握はばっちりなのだけど。


・・・今は、時間なんて意味のないものかもしれないな。


1秒がとてつもなく長く感じる。


こんなに時間を長く感じたのは初めてだろう。


すると――――




ゴオン・・・・




突然、倉庫のドアが乱暴に開けられた。


犯人の一人が、突然何かを言い出した。



「Hey,You appear (おい、お前ら出ろ)」



え、何?


英語はほんとに分からない。


すると、人質達は、一斉に立ち上がり、倉庫から出ようとする。


あ・・・外に出ろって事かな。


私は、不安いっぱいの気持ちで、青馬さんの顔を見た。


青馬さんは真剣な表情で―――


「・・・・」


何も言わず、頷いた。


何だろう・・・一体何が始まるんだろう。



私達は、倉庫の裏に連れられた。


雑草が酷く茂っていた。


ここで・・・もしかして人質全員殺される・・・とか。


嫌な方向しか考えられない。



「Cut grass until 15:00 (15時まで草刈をしろ)」



犯人はそう言って、草刈の道具をそこらに置いた。


草刈をしろって事?何で・・・


意図が全く読めない。


労働させて、後で殺すつもりなのかな・・・


駄目だ。マイナス思考しかできない。



他の人質達は、黙って草刈を始めた。


犯人の言う事に対して逆らうと、殺されるのは目に見えているからだろう。


私も黙って受け入れるしかないのだけど、何の意味があるのかが分からない。


いや、意味なんて考えてもしょうがないか。



まぁ・・・いいや。


私も、大人しく草刈をする事にした。


「(ぼーっと座ったりするよりは、体動かしている方が百倍楽だしね)」


深いことは考えないようにした。




青馬さんが小声で話しかけてきた。


「3日に1回、あいつらは人質達に倉庫裏の草刈をやらせているんだ。特に意味があるとは思えないが・・・」


「ただ人質を倉庫に閉じ込めておくより何か労働に使いたいのかもな・・・」


考えながら青馬さんは言った。


確かに、倉庫にずっと閉じこもっていると人質達が何らかの脱出方法とか考え付くかもしれないし・・・・


定期的に外に出して労働させることで、逆らう気を無くさせようとしているんだろうか。


行動は全く読めないけど、少なくとも私には逆らう気力など起きるはずもなかった。


勿論、このままじゃいけないって分かってるんだけど。



あれこれ考えながら草を刈っていると、青馬さんは、明るく言ってくれた。


「疲れたら、休んでいいんだからな。犯人にバレなかったらな」


本気とも冗談とも取れる事を言った。


それが、不謹慎だけど何故か少しおかしくて、私は笑いながら言い返した。


「大丈夫ですよ。私一応、運動部に入っていたのでこれくらい平気です」


何を言っているんだろう私は。


こんな状況で、他愛もない話をしている。


私も、青馬さんも。


「何部に入っていたんだ?俺も高校の時を思い出すな」



ほんと、変な人だな。


いつ殺されるか分からない状況で、明るく振舞ってる。


おかげで、私自身も変になりそうだった。


ほんの数分、過酷な状況と裏腹に楽しい時間を感じられた。



―――気付いたものがあった。

気付いてはいけなかったかもしれない。


でも、言わずにはいられなかった。


「あ・・・・」


突然表情が変わった私に気付いたのか、青馬さんは心配してくれた。


「ん、どうかした?」


「その、腕輪の番号・・・・」


そう言うと、さっきとは打って変わって青馬さんの顔が激変した。


人質全員、1日中この腕輪はつけているのだが、番号は深く見ていなかった為、今になって気付いた。


この腕輪の番号の意味が分からない。一体何を表しているのだろう。



興味本位のようなもので訊いたけど、やはり、言ってはいけなかったのかもしれない。


でも、このまま触れずにいても、いつか直面しないといけないだろう。


悪い方向には考えたくないけど、どうしても気になってしまった。



「――――41・・・私より一つ前の数字」



一方的に言葉を続けてしまう。


青馬さんは黙ったままだった。


もしかして、この番号の意味を知っているのだろうか。


青馬さんの反応が、そのまま答えを表していた。



「・・・・・・君は、42か」



近い番号。

青馬さんはきっとこの番号の意味が分かっているのだろう。

私には分からず、ただ不気味なものでしかなかった。


―――怖かった。


訊いてはいけなかったのかもしれない。


この空気が、そう言っていた。



「―――青馬さん。この番号の意味、知っているんですね?」



「―――ああ。時が来たら、全てを話す」



その言葉を最後に、草刈終了の時間になった。



―――――――――。


――――――。

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