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HUMAN NUMBER  作者: rikuru
第二章 出会い
3/13

関わり

気付けば寝付いていた。

夢は見なかった。

例えるなら、この現実が夢かもしれない。

現実という名の悪夢。


いつ殺されるか分からない状況で生きていても、生きた心地がしなかった。


そんな、抜け殻のようになっている私に対して、男性…青馬(おおま)さんは私に喋りかけてきた。


「頬・・・どうした?」


「え?・・・あ・・・・」


頬を押さえた。


少し腫れているのが分かった。


そうか…ここに連れてこられる前、携帯で由奈に助けを求めようとして、それで―――


私は、少し警戒しながらも、事の経緯を青馬さんに話した。


「そうだったのか・・・友達に助けを呼ぼうとしたのがバレて・・・」


「・・・・」


由奈の事を思い出してしまった。


今頃私の事を心配しているのだろう。


ごめんね・・・由奈。


一時止んでた涙が、再び溢れる。


そんな私の様子が気になったのか、突然青馬さんは言い放った。


「俺・・・実は日本の警部代表で今回おとり捜査に入っているんだ」


私は、その言葉の意味を理解するのに数秒かかった。


つい感情がコントロールできず、大きな声で驚いてしまう。


「け・・・・警部!!??」


「しっ・・・声が大きい」


つい青馬さんの言葉に驚いてしまい、声のボリュームが制御できなかった。


そんな余裕なんてなかったと言った方がいいか。


青馬さんは静かに言葉を続けた。


「あの犯人達はアメリカの中でも最悪の強盗団で、今まで数10件の銀行が襲われているとの犯罪歴があるんだ」


「人通りが少ない時を見計らって同じ手口で何件も被害を受けているらしい、そこでこの捜査だ」


さっきより少しだけ元気が回復したお陰で、スムーズに言葉を理解する事ができた。

今ならまだ普通に会話できるかな。


とりあえずは、今一番の疑問を訊いてみようかな。


「私達…人質なんですよね?犯人は何が目的なんでしょうか…」


こんな事、犯人に直接訊いた方がいいかもしれないが、現実的に無理なので青馬さんに訊いた。

すると、青馬さんは冷静に答えてくれた。


「ここの人質達と話して分かったが、どうやら同国ではなく、様々な外国の人が犯人の人質に取られているみたいだ」


「つまり、まだ推測の域を出ないが、その国の人質を取る事で身代金を取ろうという魂胆だろう」


凄い…私は素直に感心していた。

そうか。だからあの時、同国(アメリカ)の一般人は殺されてしまって、日本人の私は生かされて人質に取られたのか。

確かに、言われてみれば目的なんて安易なものだったかもしれない。

確定ではないけど、青馬さんの言葉で少し体が軽くなった気がした。


最初は、あまりの気力の違いに疑いや警戒もあったけど…

今は、この人を頼りにするしかない。


青馬さんの推測が当たってるとして、身代金という目的があったなら、まだ私達を殺すなんてないって事かな。

犯人の思考なんて考えたくもないけど、私も言われてみればその可能性が高いと思うかな。


「じゃあ、私達はまだ殺される事はないって事ですか?」


私のその言葉に、一瞬だが青馬さんが初めて顔を曇らせた。

何かおかしな事を言ってしまったのだろうか。


「・・・・ああ、そうだな、まだ殺される事はないだろう」


少し無理に表情を取り繕っていたように見えたのは、考えすぎだろうか。

でも、この人を信じたいし、信じるしかない。

少しだけ、ほんの少しだけだけど、希望が見えたような気がした。

この人に出会えなかったら、ずっと絶望だけで終わっていたかもしれない。

感謝しないと。


「青馬さん・・・ありがとう」


私は、ここにきて初めて、ちょっぴりだけど笑顔になれた気がする。

ちょっと無理のある笑顔だけど。

無理ができるのが嬉しい。


「笑顔になってくれて良かった」


さっきの表情とは裏腹に、明るい雰囲気で返してくれた。

こんな状況なのに、こんな不謹慎な人は初めてだった。

でもただ哀しんでいるだけでも始まらないし、この人みたいにもっと前向きに考えよう。

絶対に、何が何でも日本に帰るんだ。

決心が固まった気がした。



・・・・


「(・・・彼女には・・・まだ言わない方がいいな・・・)」


この、腕輪の番号の意味を―――


―――――――。



「(もし、最悪の結果になったら俺の手で―――)」



いや、その先はまだ考えまい。


今は、目先の現実を重視すべき。


――――――――。




そして、ゆっくりと夜が訪れた。



夕食―――と言えるのだろうか。

犯人の一人が倉庫のドアを開け、ダンボール詰めに入っているパンを床にばら撒いた。


それを皆で分けろという。


・・・まぁ、何か食べ物を与えてもらうだけ幸運だと思うべきなのだろうか。

この状況では。


犯人としては、人質に餓死させるのは意味がないと思ったのかな。

最低限の栄養を与えて生かして、利用したい時に利用する。

本当に、生き地獄だった。


「(・・・ご飯が食べたいな・・・)」


贅沢な思いだというのは分かっていた。


現状と今までの普段の食生活がどれだけ裕福だったかでギャップを感じてしまう。


煩雑に置かれたパンを、人質達は物乞いのように取っていく。


「(・・・食欲はあまりないけど、食べないとな・・・)」


パンを取ろうと思ったが、人数分なかったようだった。


「・・・・・」


先着・・・か。


水は倉庫の裏口付近の蛇口から水道水が出るよう。水分に関しては十分に摂取できるかもしれないけど―――


・・・・どう考えても、この状況は厳しい。


さっきまでは絶対に日本に帰ろうと決心が固まっていたのだが、早くも崩れてきたようだった。


例えいつか帰れるとしても、私の身体がもつのかどうか・・・。


生きようとする気力なんて、ほんの一瞬のものだった。


すると、青馬さんが私の所へ。


「これ食べてくれ」


そう言って、持っているパンを一つ、私に差し出してきた。


「え・・・でもそれは・・・・」


それは青馬さんの夕食ですよね、と言おうと思った。


私は、どこまでも甘い考えを持っているようだ。


でも他の人の食料を奪ってまで食欲を満たしたいなんて思えなかった。


後ろめたさでいっぱいになっていた私は、当然断った。


「・・・もらえません。私が食料を取らなかっただけですから」


私がそう言うと、青馬さんは難しそうな表情を浮かべ、言った。


「・・・何か食べないときついぞ?」


「いいんです。食欲ありませんし・・・」


「―――本当にいらないなら犯人に返してくるぞ?一つ余ったって」


どうして・・・


「何で・・・」


何で、青馬さんはそこまでしてくれるの?

自分の事なんて二の次で、私の事を考えてくれる。


誰がいつ殺されるかも分からない状況で、人の命を気遣う。

そんな事・・・普通はできるわけがない。


結局、私は青馬さんの優しさに負けてしまい、言葉に甘えてしまった。


「分かりました・・・いただきます」


そう言うと、青馬さんは満足そうな表情を浮かべた。

分からない・・・本当に。


でも・・・・


「―――ああ」


ありがとう。青馬さん。


――――――――――。


―――――。



23時。就寝――――。



倉庫の電灯が全て消えた。

唯一の明かりは、1つだけ大きな窓がありそこから微かに照らしている月の光だった。


月・・・か。


これは、日本で見るのと変わらないな。


私は、横になりながらぼーっと窓から空を見ていた。


夕方に少し寝たし、この状況で深く眠る気にもなれなかった。


――――日本に帰りたい。


そう、私はただ由奈とアメリカで観光して楽しい夏休みにしたかっただけだったんだ。


一体、どこから間違っていたんだろう。


後悔ばかりが巻き上がった。


すると、すぐ近い距離から声が聞こえた。


「―――眠れない?」


青馬さんだった。


他の人質達は寝静まっているようだったが、どうやら起きているのは私と青馬さんだけのようだった。


「はい・・・夕方に寝ましたし、この状況ではちょっと・・・」


言葉を切ってしまったが、その意味は十分に伝わっただろう。


「まぁ分かるけど、俺達は帰れるさ。帰るんだ」


私の考えている事が分かったのだろう。

青馬さんは私の不安を汲み取り、安心させてくれる事を言った。


でも・・・


「私だってそう思いたいですよ。でも・・・」


どうしても悪い方向に考えてしまう感情を止められなかった。

青馬さんは前向きに励ましてくれるけど、一時的なものに過ぎなかった。


私という存在が、こんなにも脆いものだと知った。


「・・・瀬川さん。明日、君を安心させるから。今日はもう寝よう」


そう一言残し、青馬さんは眠りについた。


私を安心させる・・・?どういう事だろう。


この、絶望的な状況を解決する方法を既に知っているのだろうか。


だとしたら、本当に青馬さんは凄い。


それに比べて、私は・・・


―――――弱音ばかり吐いて、生きる事すら諦めようとしている。


私には待ってる人がいるのに。


そう・・・だよね。


私は、帰りたい。紛れもなく、帰りたいんだ。


その思いは変わることはなかった。



とりあえず、寝よう・・・。


明日は、また今日とは違った日になるかもしれない。


――――――――。


――――――。


――――夢は、見なかった。



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