第5話:騎士のお節介と、森で目覚める秘めた才能
「よし、50本分となると……全然素材が足りないわね」
ザックからポーション納品の依頼を受けた直後、私はアトリエの在庫を確認してため息をついた。
基礎的な『癒やし草』と『清流の水』が圧倒的に足りない。
「師匠、近くの森まで採取に行ってきてもいいですか?」
「ええ、構わないわ。でも最近、森の奥は少し魔物の動きが活発みたいだから気をつけて……」
「おっと、そいつは聞き捨てならないねぇ!」
帰ろうとしていたザックが、くるりと踵を返して爽やかな笑顔を向けてきた。
「可愛い女の子二人を危険な森に行かせるなんて、騎士の、いや、このザック様の名折れ! 俺も素材集めに同行しようじゃないか!」
「……単に王城に戻って書類仕事をするのが嫌なだけでしょ」
レイカがジト目で突っ込むと、ザックは「あははっ」と誤魔化すように笑った。図星らしい。
「まぁいいわ。納品する薬の素材なんだから、あんたが手伝うのも筋ね。二人の護衛、頼んだわよ」
「任せとけって!」
こうして、書類仕事から逃げたいお調子者騎士ザックを護衛につけた、異世界での初めての素材採取クエストが始まったのだった。
◆ ◆ ◆
「ほらミオちゃん、あそこの木の根元! 上質な癒やし草がいっぱい生えてるぜ!」
「本当だ! ありがとうございます!」
近くの森は、ゲームの序盤マップと同じ構造だった。ザックの護衛のおかげで安全は確保されているし、彼は意外にも採取ポイントを見つけるのが上手かった。
ライネも楽しそうに籠いっぱいに素材を集め、あっという間に目標の数は集まった。
「よし! 素材はたっぷり採れたし、そろそろ戻……おいおい、マジかよ」
日が傾き始めた森の中。ザックが突然、軽薄な笑みを消して愛剣の柄に手をかけた。
彼の視線の先、森の奥から黒い霧のようなものが這い出し、咆哮とともに十数匹の『ウルフ』の群れが現れたのだ。
「はじまりの街の近郊に、こんな群れが出るなんて……。ミオちゃん、ライネちゃん、俺の後ろに下がってな!」
ザックが剣を引き抜く。その瞬間、彼の剣身が真っ赤な炎を纏った。
(わっ、あれはザックの固有スキル『紅蓮の剣』! ゲームだと高レベルじゃないと見られないのに!)
「フッ、まとめて焼肉にしてやるぜ!」
ザックが炎の剣を横一線に薙ぎ払う。
ゴォッ! という轟音とともに巨大な炎の波が放たれ、先頭のウルフ数匹が一瞬で炭化して消滅した。お調子者の騎士の、圧倒的な実力。
しかし、残りのウルフたちは炎を避けて散開し、ザックを囲むように動き出した。
「ちっ、すばしっこいねえ……ッ!」
ザックが次の獲物を狙った瞬間、一匹のウルフが彼の死角、背後から音もなく飛びかかった。
「ザックさん、後ろ!!」
叫んだのは私だった。
咄嗟に、護身用として腰に下げていた古い短剣を引き抜く。
限界OLの鈍った体……のはずなのに、読モ時代に過酷なヒールでのウォーキングで鍛えた体幹と、ゲームで何千回と見たウルフの攻撃パターンの記憶が、奇跡的に噛み合った。
(ここだ……ッ!)
無意識に踏み込み、ウルフの攻撃の『隙』に短剣を突き出す。
吸い込まれるように短剣がウルフの眉間に突き刺さり、モンスターは短い悲鳴を上げて動かなくなった。
「……え?」
「ミオお姉ちゃん、危ない!」
ライネの悲鳴で我に返る。
別のウルフが、呆然とする私の横を抜け、怯えるライネに向けて牙を剥いていた。
「ライネちゃん!!」
「こ、来ないでーー!!」
ライネが咄嗟に両手を突き出す。
刹那、アトリエでの修行で洗練された彼女の膨大な魔力が、強力な『氷の矢』へと姿を変えた。
矢は正確にウルフの脳天を貫き、モンスターを氷漬けにして粉砕したのだ。
「……へえ、ただのヒヨコじゃなさそうだ」
残りのウルフを炎の剣で瞬殺したザックが、剣を鞘に収め、私とライネを見てニヤリと笑った。
「ミオちゃんの今の身のこなし、普通の初心者じゃねーぞ。それにライネちゃん、その歳で無詠唱の攻撃魔法とか、王城の魔術師たちが泣くぜ?」
私には剣術の、ライネには魔法の才能。
ひょんなことから同行した騎士との採取クエストは、私たちの隠された可能性をこじ開けてしまったのだった。




