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十二

 シルクが出て行って、静かになる。薄暗い地下室に光は入らないから、基本見えないのが正しい。

「人の話を聞かない王女だ」

 シヴァは呟いて、寝転がる。シルクがどこからか持って来たふわふわふかふかな毛布が何枚もあるおかげで、床の冷たさと硬さがましになってきた。


 実際、完全な勘違いなのだ。シヴァがろくな食事もできずに、食糧庫から食材を盗んで食べているなど。そもそもシヴァは食糧庫に入ったことさえない。あることも、今知ったようなものだ。食事に関しては殆ど考えていなかったからシルクに言われてようやっと気付いた状況だ。

(⋯このままだと気付かれるか)

 シヴァが食事を必要としない体質なこと。それをシルクに知られるのは、何故か憚られた。シルクが口外などしないと理解している。彼女はそんな人間ではない。割と約束は守るし義理に厚い性分だ。

 ただ、それを聞いてシルクに突き放されることがどうしようもなく嫌だった。


──どうして?シルクとの関係など薄っぺらいものだろうに。彼女の興味で繋げられているものだろうに。


 思えば、シルクと会ってから何か変だ。彼女のことばかり考えてしまう。彼女が喜ぶことを嬉しく思っている自分がいる。彼女が喜べば喜ぶほど、多幸感で満たされていく。


(⋯これは、まさか)

「呪い、か?」

 シルクに、何か呪いをかけられたのか。彼女を好く思うような、呪いを。

(あり得るのは『邪教の呪い』か『惚れ魔術』?いや、魔術は魔女狩りでほとんど居ない上に、邪教徒が王城に籠っているとは考えにくい。⋯シルクが城下に降りたことがあるなら話は別だが⋯)

 シルクは外へよく出ていたと聞く。それなら、彼女が呪いにかかったと見て良いだろう。でも、その呪いが何故シヴァに⋯自分に来たのかが分からない。会話からしてシルク周りは何も変わっていないらしいし、これは遠回しな自分への呪いということか?

 段々と思考が酷い方へ向かっているのを感じ取りながら、シヴァは目を瞑った。シルクの気分で続けている関係なのだ。いつ、どこで崩れるかも分からない。

(シルクとの繋がりが崩れることを、恐れているのか?)


 ずっとずっと昔の記憶が、声も顔も忘れた誰かの言葉が蘇る。

『人はそれを“愛”と呼ぶのですわ』

 誰の、言葉だったか。その言葉だけが色褪せずシヴァの記憶の棚に収められていた。

 穏やかな思い出だった気もするが、今になっては分からない。きっと自分にそう言った人はすでにこの世にいないだろう。

 「愛」。シルクとの繋がりを切りたくない、という感情が愛だと言うのは、シヴァにとっては信じられないことだった。

(こんなに黒々とした感情(もの)が、愛な訳ないだろう)

 がり、と唇を噛む。それでも、シルクへの感情としての「愛」は何故か納得できた。


 その理由は、きっと簡単で。

 どれだけ醜い感情を持っていても、彼女へ向けるものの根幹にソレがあるからだろう。

「愛、しているのか。俺は」


───こんなに煮詰めすぎたざらめのような感情を持っているのに?向けているのに?

───愛と呼ぶには自分本位な感情だのに?


 認めてしまえば最後、きっと自分は止められそうにない。愛情と同時に自覚したその感覚をシヴァはそっと胸の中に仕舞い込んだ。

(⋯せめて、シルクからの自分の印象を聞いてからだ)

 それに微かに期待が入っていたことなど、とっくに理解していた。

愛情の自覚なんて、きっと些細な事。彼女はまだその“事”を経験してないみたいだけど。愛の形は人それぞれ、なんて言うけど根幹を成す成分は同じなんだよ?

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