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無愛想な旦那様は、私の『耳』を溺愛しているようです 〜機密情報を囁くだけで、甘いお菓子と安全なベッドが手に入りました〜  作者: 河合ゆうじ


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第234話 機関車の奪還

 下層からの騒音が、通路を伝って鼓膜を強く圧迫し続けている。

 階段を下る。壁の下部に取り付けられた赤い非常灯が、コンクリートの表面を断続的に照らし出している。

 下の階層の広場では、作業服を着た群衆が金属のパイプや工具を振り上げ、警備の詰所の窓ガラスを叩き割っていた。

 ガラスの破片が床に散らばり、無数の靴底で踏み砕かれる音が響く。


 私は肩に掛けた布袋の口を開く。

 中から紙幣の束を掴み出し、広場の群衆へ向けて放り投げた。

 空中で帯が外れ、紙片が散らばる。

 紙が擦れる音が群衆の頭上に降り注ぐ。

 怒号が一時的に途切れ、群衆の視線と手が宙を舞う紙幣へと向かった。

 警備の兵士たちが、落ちた紙幣を拾い集めようとする群衆の動きに巻き込まれ、身動きを封じられていく。


 私たちは広場の端を抜け、外部の引き込み線へ出る金属扉を押し開けた。

 冷たい風が雪を巻き上げ、外套の表面を激しく叩く。

 線路の上に、黒い装甲を持つ機関車が蒸気を吐き出して停車していた。


 レオニスが機関車の運転台の側面にある鉄の梯子に飛び乗る。

 中にいた作業員の首の後ろに手刀を落とし、床の鉄板に転がす。

 彼は操作盤の前に立ち、複数のレバーに手を掛けた。

 私は機関車の後方に連結された炭水車の陰に向かう。

 そこに身を潜めていた子供たちの肩を叩き、運転台の後部に設けられた狭い空間へ押し込んでいく。

 子供たちの冷え切った手が、私の外套の袖を強く掴む。

 私はポケットに残していた硬貨を取り出し、彼らの手のひらに押し付けた。

 金属の冷たさが皮膚に触れ、小さな指が硬貨を握り込む。


 レオニスが後方の貨物車両を繋ぐ連結器の解除レバーを引く。

 金属の摩擦音が鳴り、重い固定具が外れた。

 彼はスロットルを押し込む。

 車輪が空転し、レールとの間に火花を散らした直後、鉄の軌道を強く噛んで前進を始める。

 機関車が重い駆動音を立てて引き込み線を離れ、加速していく。


 その時、背後の施設から巨大な破裂音が響いた。

 配電盤の破壊による動力炉の過負荷が、コンクリートの壁を突き破って外部へ噴出した音だ。

 破裂音が周囲の岩山に反射する。

 斜面に積もっていた分厚い雪の層が、音の振動によって支持を失う。

 白い雪の塊が斜面を一斉に滑り落ち、コンクリートの施設の外壁に衝突する。

 雪の重みで金属の屋根が潰れる鈍い音が、遠ざかる機関車の後方で連続して鳴り響いた。


 車輪の回転音が、一定のリズムに落ち着く。

 ボイラーからの熱気が、顔に張り付いた雪を水滴に変えていく。

 私は足元の鉄板に座り込み、鞄の中から所長の金庫から奪った革表紙のファイルを取り出す。

 ページをめくる。紙が擦れる乾いた音が鳴る。

 資金の移動先と、最高権限者の指示が記された項目。

 その末尾に書き込まれた座標の羅列。

 緯度と経度が示す位置は、王都の中心部。

 その地下深くの空洞を指し示している。


 「未払い賃金の残りは、私たちの手数料として計上するわ」

 私はファイルを閉じ、鞄の中に仕舞う。

 「王都の地下へ向かう出張費には十分に足りるはずよ」


 レオニスが圧力計の針を確認し、レバーから手を離して振り返る。

 彼の顔の半分に、石炭の煤が付着している。

 「外套が煤まみれだ」

 彼は手袋を外し、布地の汚れを指で払う。

 摩擦音が鳴る。


 「クリーニング代も請求書に追加しておくわ」

 私は外套のポケットに両手を入れ、機関車のボイラーが発する熱に背中を向けた。

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