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無愛想な旦那様は、私の『耳』を溺愛しているようです 〜機密情報を囁くだけで、甘いお菓子と安全なベッドが手に入りました〜  作者: 河合ゆうじ


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第199話 公開告発

 レオニスが革張りの椅子の背もたれを引き、私が座るための空間を作る。

 私はドレスの裾をまとめて腰を下ろした。

 レオニスが隣の空席に座り、持っていた鞄をテーブルの端に置く。

 金属の金具が木製の天板に触れる鈍い音が鳴る。


 円卓の向かい側で、軍務大臣が姿勢を正した。

 彼の手元にあるグラスの中で、氷が崩れてガラスの壁面を叩く高い音が響く。

 大臣が口を開く。


 「周辺諸国の使節が揃うこの円卓で、我々帝国が提示するのは強固な国境線の維持と、相互の利益に基づく協力体制だ」

 彼の声が、高い天井に反響して空間に広がる。

 「平和を維持するためには、相応の防衛設備と軍備の拡張が不可欠となる。国益を守るための出費は、避けては通れない手段だ」


 私は扇子を開き、口元を隠した。

 「税金の無駄遣いの言い訳にしては、随分と長ったらしいわね」

 私は椅子から立ち上がった。

 椅子の脚が絨毯を押し潰す音が鳴る。

 円卓を囲む使節たちの視線が一斉に私へ向いた。


 大臣の眉が動く。

 「南洋の使節殿。今は帝国の見解を述べている最中だ」

 「あなたの個人の見解の間違いでしょ」

 私は扇子を閉じ、テーブルの端を指で叩いた。

 「素晴らしい演説だったわ。でも、あなたの個人の隠し口座に流れた軍事予算の話がすっぽり抜け落ちている」


 大臣の手が、グラスの表面で止まった。

 彼の胸の奥から、先ほどまでの緩やかなリズムを打ち破る、激しい鼓動の音が私の耳に飛び込んでくる。

 血流が加速し、心臓の筋肉が強く収縮する音だ。


 「根拠のない発言は控えていただこう」

 大臣の声のトーンが低くなる。

 「南洋の使節が、帝国の内政に口を挟む権限はない」

 「内政干渉じゃないわ。投資先が正当な手続きで資金を運用しているか、確認する作業よ」


 レオニスがテーブルの上の鞄の留め金を跳ね上げる。

 金属が弾く音が連続して鳴る。

 彼が鞄の蓋を開け、中に詰まった紙の束を取り出した。

 レオニスは無言のまま、その束を円卓の中央へ向かって滑らせた。

 紙の束が広がりながら、円卓の表面を覆っていく。


 「北の塔の建設費。研究機材の購入費。それから、私兵を動かすための裏金」

 私は広がる紙の束を指差した。

 「全て、この書類に記載されているわ。あなたが軍の予算を中抜きし、自分の口座へ迂回させた記録よ。塔の金庫から直接回収してきたから、本物よ」


 大臣の視線が、円卓の上の紙の束に釘付けになる。

 彼の首の筋が緊張で浮き上がる。

 「それは昨夜、港で処分されたはずだ」

 彼の口から、微かな声が漏れた。


 私はコートの内ポケットに手を入れ、折り畳まれた便箋を取り出した。

 「処分されたのは、白紙の紙の束よ。商品の中身を確認せずに代金を払ったあなたの部下の証言が、ここに書かれているわ」

 私は便箋を広げ、大臣の目の前へ投げる。


 便箋が空気を切り、大臣の手元のグラスの横に落ちる。

 紙の表面には、彼が放った密告者の署名が残されている。

 大臣の顔の筋肉が引きつり、呼吸の音が浅く、速くなるのが聞こえた。

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