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異形の檻  作者: koenig
12/78

教会

この世界にはキリスト教とかないので

ロザリオとかペクトラルクロスとかは付けてないです

城塞都市にそびえる教会はこの中央国家ウォラノス全体の教会をまとめる場所である。

故に華美な装飾を多くちりばめ、豪華兼頼で荘厳な建物となっている。

教会中央には白く巨大な女神像が鎮座しており、迷える子羊たちを優しく見守っている。

その教会の中央である礼拝堂に身体を小刻みに震わせ、ちょこんとお座りしている影が一匹…

ルカ・オルテガである。

今から自分に降りかかることを考えると生まれたての子ヤギのように震えているのは仕方のないことだろう。

ルカの生まれ育った村にも勿論教会は存在していた。

12歳の成人の儀式にはこの教会本部から来た大司教様に聖水をかけていただいたものである。

成人の儀にて配られたはちみつ飴がとてもおいしかったことを覚えている。

………そんな昔の記憶に現実逃避をしてしまうくらいには今のルカは追い込められていた。

こんなことになったのもこの身体のせいである。

()()()()()()()であるエレノア・ヴァルセルクの報告書によってルカ・オルテガという怪物が有用であるということは証明された。

しかしながらルカ・オルテガという怪物の出処が明らかになることによってまた新たな試練がルカ・オルテガを悩ませることになるのである。


〈悪魔付き〉


「いたいけな少女がある犯罪者の黒魔術に巻き込まれ、異形の姿へと変えられてしまった。」


そう教会内でささやかれ始めるのに時間はかからなかった。

そんな折、その少女を引き取っているというエレノア・ヴァルセルクから教会にてルカ・オルテガの安全性を見極めてもらうため、面会を行いたいと申し出があったのだ。

教会は二つ返事で承諾した。

ある条件を添えて…………


礼拝堂の奥の扉が開かれ、中から数人の聖職者達が姿を現す。

扉が開かれる音にルカ・オルテガはビクリと肩を震わせ、エレノア・ヴァルセルクは礼拝堂の長椅子に腰掛けたまま視線を動かす。


「おぉ………なんと酷い………」


聖職者の一人が耐えきれないという形で言葉をこぼす。

他の聖職者も皆悲嘆の表情を帯びている。

その空気に当てられ、ルカは顔を下に向ける。

見ないでくれと言わんばかりに………


「その顔には見覚えがある。」


一人の聖職者がずいと前にでてくる。


「たしか南西にあるリダ村の子ではなかったかな?」


その声にルカはハッとした表情で顔をあげた。

忘れもしない。

目の前にはあの成人の義で自分達の健やかなる未来を願ってくれた大司教その人がいたのであった。


「うぅ………大司教様ぁ…………」


堪えきれず泣き出すルカ・オルテガ。

その姿は何処となく子供のように見える。


「よいよい、そのような姿になり不安であっただろう。大丈夫、出来るだけのことをしよう」


ルカの肩をポンポンと叩き、微笑みかける大主教。

その騒がれた声、しわくちゃの顔、その全てが人当たりの良さを感じさせる。

以前のルカを知っていたからなのか、それとも元からそう言う人なのか………今までで唯一()()()()()()()()()()()()()()()()()

大司教は振り返り、周りの聖職者に呼びかける。


「では今から、悪魔祓いの儀式を執り行う。………聖水を………」


教会がだした面会の条件……それは悪魔祓いの儀式をさせて欲しいと言うことであった。

そして成功し、ルカ・オルテガの中にいる怪物を退けることができたのであれば、彼女の社会復帰を手助けして欲しいと言うことであった。

今回、教会がエレノアの怪物使役の申し出を断っていたのは他の怪物の時による安全面からの懸念ではない。

()()使()()()()()()()()()()ことからだったのだ。

しかし、エレノアの意図が理解できないわけではない。

怪物になった少女を保護するためには使役していると言う名目が必要だったのだと検討した上位聖職者達は理解していた。

だからこそ、悪魔祓いの儀式により、彼女に巣食う怪物を教会としては追い出したかったのだ。


ルカ・オルテガの救済は勿論、エレノア・ヴァルセルクの罪意識からの解放のために。


「ルカ・オルテガよ。」


聖水を手にした大司教はルカ・オルテガに呼びかける。


「いまから行う儀式は貴女にひどい痛みを与えるかもしれん。その身を焼かれるような、言いようもない痛みだ。」


ルカ・オルテガはごくりと唾を飲み込む。


「しかし私は………我々教会は貴女を人間に戻したいと思っておる………。耐えられるだろうか?」


大司教は悲痛な面持ちでルカの瞳をまっすぐ見据えている。

周りの聖職者達も真剣な顔で目の前の少女(かいぶつ)を見つめている。

ルカ・オルテガは震えた声で答える


「私は……人に戻りたいです………」


答えを聞くと大司教はにっこりと微笑み


「汝に聖皇神の加護が在らんことを……」


そう呟くと周りの聖職者達が歌を歌い出す。

まるで聖歌隊の歌唱のようなその歌を歌いながらぐるぐると回り出し、大司教とルカ・オルテガを囲い込む。

聖なる歌には魔を祓う効果があり、聖職者と周りの身を守るとされている。

これは元々悪魔祓いの儀式が悪魔に抵抗されることを前提とした儀式だからである。

悪魔憑きは儀式の最中、暴れに暴れまくり隙をついて逃げ出そうとする。

そのため、聖歌を歌い、回ることで結界をはり聖職者や周りの人間に危害が行かないようにするのだ。

そして大司教の手にする聖水。

この聖水は人にかければ傷や病を直し、健康ならばただの水であるが、一度(ひとたび)怪物にかけるとまるで消化されるように焼け爛れ、瞬く間に溶けて朽ちていく。

防具や盾、それこそ城塞都市の壁にぶっかければ怪物達は避け、武器にかければ溶岩(火の海)で斬ったように抵抗なく肉を断つ。


国家が教会の意見を無視出来ないのはこのところが大きい。

最も、聖水を量産し、怪物討伐にあてれればいいのだが、聖水は神の授かりものであり欲をかけば逆に加護が薄れてしまう。

そのため量産して大量消費というわけにはいかない。


そのような神の加護が含まれた聖水をルカにかける。

まるで成人の儀の再現のように

すると、ルカは聖水がかかったところから強烈な痛みを感じ、悶え苦しんだ。


「あ………ああぁぁあああ!!!熱いぃぃぃぃいいいいぃぃぃぃっっ!!!!」


自分の顔を割れんばかりに掴むが痛みはおさまるところを知らず、どんどんと肌は焼け爛れ、中の肉が露わになっていく。


「悪魔よ!怪物よ!!その子の中から立ち去れ!!!!」


大司教は両手で祈りながら大きな声を張り上げる。

それでも尚ルカから痛みが引くことなく、ルカの肉体を溶かし続けている。

聖歌は声量を増し、大司教の祈りの声もそれに比例して大きくなっていく……

しかし、ルカの身体から悪魔や怪物が現れることはない。

それどころか、いままで溶け続けていた身体がだんだんと元に戻っていくではないか。


「な………なんということだ………」


それは紛れもなく聖水による()()()()であった。



「この子は……怪物であり、人間だとでもいうのか………」


自身の無力さに項垂れる大司教と、なお残る痛みに倒れながら身体をこわばらせる怪物の姿を周りの聖職者たちはただ見守るしかなかった。





「では、ルカ・オルテガは警備隊隊長エレノア・ヴァルセルク預かりの怪物ということでよろしいですね?」


エレノアは事務的に目の前にいる高齢の男性に語りかける。


「ええ、問題ないでしょう。」


呼びかけられた男性……大司教は認可した証である羊皮紙をエレノアに手渡す。


「確かに」


中身を確認したエレノアは(きびす)を返すと、部屋を後にしようとする。


「力になれず、すまなかった」


大司教はその背中に謝罪の言葉を投げかけた。

元々エレノアはルカが人間に戻れるとは微塵も思っていなかった。

もともと悪魔憑きは見た目は人間のままだが獣のように凶暴化した人間をさしていた。

しかし、ルカ・オルテガは全くの逆

見た目は完全に怪物だが、人間のままの感情と思考能力を持っている。

俗にいう悪魔憑きとは根本的に違うのだ。

今回の聖水の中途半端な効き目ではっきりした。

ルカ・オルテガは怪物とつなぎ合わされた人間。

もしくは人間とつなぎ合わされた怪物。

悪霊や悪魔に取り憑かれたわけではないのだ。

そもそもエレノアは全ての人を救済しようという教会の考えが傲慢で好きになれなかった。

全ての人に手を差し伸べるのはいい。

だが救えるかどうかはわからない。

そういうものだ

上から目線で救ってあげようとするものではない。

しかし、今回一縷の望みにかけて教会の条件にのっかった。

エレノアだってルカが人間に戻ることに越したことはないのだ。

そんなことを思いながらエレノアは教会の出入り口に向かっていった。

出入り口にはルカ・オルテガが待っていた。

その大きな耳には認可された証であるタグをぶら下げていた。

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